大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・072『ナバホ村・1』

2021-10-10 10:27:10 | 小説4

・072

『ナバホ村・1』 加藤 恵  

 

 

 

 男の座りション強制してないんですね。

 

 ニッパチの動きが遅いというか、ゆっくりとしか走れない周回道路の間を持たせたくて、さっきのトイレ掃除の話をする。

「座りションだと? んなの男の沽券に関わらあ」

 シゲさんが息巻く。

「いろんな人がいるからねえ、そういうことはファジーにしてあるんだ」

 社長は、のんびりと応える。

『昔は、トイレそのものが無かった』

 ニッパチがすごいことを言う。

「野性的な者が多かったからね、それでも、用を足すところは、おのずと決まっていてね」

『犬や猫でも、排泄する場所は自然に決まってくるもんです』

「俺たちゃ、犬猫並みかぁ?」

『とんでもない、シゲさんは、毎日好きなところでやってましたからね』

「え、そうなの(;'∀')?」

「そりゃ、気分のいいとこでいたしたいだろ、照る日曇る日、潮の満ち引き、お天道様の具合とかで、最適な場所は、日によって違うからな」

「あ、そう……」

「小便器を設置してからは、おおむね、そっちを使ってくれてるんだけどね。坑道から上がってきた時とか冬場とかには集中するからね、個室も使うんだ。ま、好きなようにやってくれということなんだけど、トイレ掃除は、ちょっと面倒かけるね」

「そんな俺でも、おタキ婆さんが男の小用でやってるのに出くわした時はタマゲタぜ」

「え、女子が男子用を!?」

「おう、ケツまくってな、尻の方を便器に向けていたすんだ。それで、食堂のマナーが悪いとかションベンと説教たれるんだから、まあ、逆らえねえや(^Д^)」

 おタキさんは、食堂のおばあちゃんだ。タキというのは実名では無くて、まかないご飯を炊く係りなので、いつのまにか『おタキさん』という呼び方が定着したらしい。こんど本名を聞いてみよう。

「まあ、そんなこんなで、トイレ掃除は大変だろうけど、よろしく頼むね」

 ほんの世間話なんだけど、社長の配慮は行き届いている。

『ちょっと、ジャンプします』

 話に夢中になっていると、ニッパチが停止した。

「また崩れてる」

 ただでもガタボコの周回道路に教室一個分くらいの陥没が出来ている。

「若い火山島だからね、ちょっとしたことで地形が変わってしまう。ニッパチ、メグミは慣れてないから優しくな」

『ラジャー(''◇'')ゞ』

 ウィーン……ギッコン!

 二段階の動作音がして、タイヤを格納して、脚が出た。

『セイ!』

 ウワ!

 巨大なバッタがジャンプしたみたいな感じで陥没を乗り越える。

 ドスン!

 けっこうな衝撃でお尻が痛い。

「将来は、よその組とも相談して整備しようと思うんだけどね、まあ、当分は君の方から慣れておくれ」

「は、はい(^_^;)」

 岩場を周ると、鞍部の向こうに木彫りの鷲が見えて……いや、鞍部を乗り越えてくると、鷲の下にはダルマ落としのように様々な動物らしい木彫りが連なっている。これは……トーテムポールだな。

 トーテムポールに見惚れていると、広場のようなところが開けてきて、氷室カンパニー同様の怪しげな者たちが、珍し気に、でも親しみのこもった目を向けて出迎えてくれた。

「おお、社長みずから来てくれたか」

「こちらこそ、忙しいところをすまない」

 いかにもインディアンというオッサンが白い歯を見せて、社長と三国志の英雄同士のような挨拶を交わした。

 横っちょの看板を見ると『ナバホ村(東)』と書いてあった。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室                西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩)

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
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ライトノベルベスト『最後の終業式』

2021-10-10 06:19:35 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

〔最後の終業式〕  




 

 最後の終業式といったら笑われるかもしれない。

 だって、まだ二学期の終わりで、わたしは、まだ一年生。
 最後という意味は二つ。一つは担任の樹里先生が産休に入るので担任を降りる。だから最後の終業式。

 もう一つは……最後に言います。

 樹里先生は、若いけどお母さんみたいな先生。一年から持ち上がりでラッキーと思ったら、突然の妊娠宣言。
 わたしは知っていたけど、みんなと同じように驚く真似をしておいた。
「みんなも知ってると思うけど、あたしは独身です。いろいろ悩んだけど、あたしは一人で赤ちゃん産んでがんばります。反発する人もいるかもしれないけど、こういう女の生き方もあるんだって理解してくれると嬉しいです」
 爆弾発言だった。中には泣き出す子もいる。

「先生……」
「なに?」
「あの……おめでとうございます!」
「ありがとう、樹里とは同じ名前だし、正直すごく親近感あった。樹里って、肝心なとこで自己主張しない子だから、ちょっと心配はしてたんだ。女だって、もっと自由に生きていい、言っていい……なんて、途中で担任投げ出すやつが言っちゃダメか!?」
「先生、強引だから」
「ハハ、性分だからね」
「体育祭のエントリー、もめたじゃないですか。だれもリレーのアンカーやりたがらなくて。で、先生、自分で全部決めちゃった」
「カッタルイのやでしょ。あたしが決めたら、文句はあたしのとこにしかこない……でもさ、あのとき、なんで自分でアンカーやるって言いに来たの?」
「ああ……あれ」
「あのとき別のことで相談あったんじゃないの。あの十秒ほどの沈黙で、あたし思っちゃったんだけど」
「あ……圧倒されただけです。先生目力あるから」
「ハハ、そっか。でもさ、あの時言うんだったら、ホームルームの時に言ってくれても、よかったじゃん」
「ま、いいじゃないですか、けっきょくリレーでは優勝できたんだから」
「だよね。樹里は、基本的にはできる子なんだよ。いろんなことに可能性がある。そういうとこ大事にしな」

 けっきょく肝心なことは言えなかった。

――お母さん――

 そう一言言えば、わたしの願いは叶う。

 樹里先生は、難産になる。出産前に樹里先生は、お医者さんから聞かれた。
「母体が危なくなったときは、母体の方を優先します。それでいいですね」
 樹里先生は、しばらく考え、涙を流しながら頷いた。

 で、予想通りの難産になり、母子どちらかの選択になった。ご両親の希望。それに本人の選択もあった。

「母体を生かします」

 その一言で、赤ちゃんは闇に葬られた。母体から取り出された時には息が無かったので、赤ちゃんは人間の扱いもされずに焼却された。

 神さまが、憐れんでくださった。

「あの人の生徒として、仮に世の中に存在しなさい。クリスマスイブの十二時までに、あの人に『お母さん』と一言言えば、実在になり、本当の親子になれるようにしてあげよう。多少の混乱はあるだろうけど、そのことは、わたしに任せなさい。だいじょうぶ、チャンスは三回あげるからね」

 神さまの言葉に従って、わたしは樹里先生の生徒になった。そして、運命のクリスマスイブ。

 今度で三回目。以前の二回は言えずじまいだった。そして三回目。これで言えなければ、もうわたしにはチャンスが無い。もとのカオスに戻るだけだ。

 わたしは、先生の家の前で、日付が変わるまで待った。クリスマスイブの終業式の夜。

 ディンドーン……ディンドーン……

 鐘が鳴り始めた。あの鐘が十二回鳴ったら、わたしは、この世から消える。

 十回鳴ったときに決心した。あの人を道連れにしようと……。

 三学期の始業式、わたしと英語の男の先生が居なくなった。いや、最初から存在しないことになっていた。

 学校は何事もなく新春を迎えた。

 

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