大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・074『フートンへ』

2021-10-20 14:36:34 | 小説4

・074

『フートンへ』 加藤 恵    

 

 

 その足で西の『フートン』に行くことになった。

 

 では、うちからも一人と、村長が同行を申し出る。

 まるで友だち同士が連れだって、もう一人の友だちに会いに行くような気軽さだ。

 天狗党にも似たような空気があるが、天狗党のそれは意識して作られたものだ。

 

 天狗党は、日本中から尊王の志の高い者が集まった実力集団だ。

 尊王と言っても、意識の持ち方は様々。

 当代の女性天皇のファンという者から、伝統的な水戸学の方向しか認めない大時代な者まで。

 天狗党は、そういう入党希望者を三か月の準備訓練で篩(ふるい)にかける。

 入党希望の段階で、どのような考え方をしていても問題にはしないが、準備訓練で順応しない者は排除する。

 当代のファンという者は真っ先に放り出される。天狗党は六世紀の推古天皇のように男子の皇位継承者が居ない場合の中継ぎとしての女性天皇は認めるが、女系天皇は断じて不可。

 だから、当代で四代目になる女系女性天皇を排斥する活動を行っている。先月、靖国参拝の天皇の車列を襲った(靖国乙事件)のも、この活動目的の当然の帰結だ。さすがに、当代を弑逆(しいぎゃく)するところまではしない。目的は襲撃することで、当代と側近の心胆を寒からしめ、評判を落とすことにある。

 評判を落とし、内外からの批判を巻き起こし、五代遡った男系の家系から相応の方を迎えて新天皇に御即位いただく。

 三千年の長きにわたって連綿と受け継がれた正しい皇統に戻すことが、天狗党の目的であり存在意義なのだ。

 しかし、尊王の志操が確かなものになれば、仲間の関係は意外にルーズ、いやファジー、自由闊達なものだ。

 尊王の礎さえ確かであれば、あとは『明き心』のゆるい付き合いを大事にする。

『明き心』は生得のものではない。天狗党では、三か月の準備訓練の後は見習いの間に先達が教えてくれる。けして教条主義的なものではないが、日々の活動や党員同士の付き合いの中で「今のは、こうするべきだ」とか「口にすべきではなかった」とか「言わずとも分かるようにしろ」とか指導を受ける。

 高野先生の「やって見せ 言って聞かせてさせてみて 褒めてやらねば 人は動かじ」という教えにはまいったけど、緩く思える高野先生の教えも、折に触れて示される意識的な教えの一つであることには違いない。

 

 いま、戻ってきたばかりのナバホ村のサンパチに乗り変えてフートンに向かっている。

 

「シゲと話してぇから替われや」

 ザブが手下のガキに言うように顎をしゃくるので、サンパチの助手席に火星人と並んで座っている。

「おまえら、ホーバイか?」

 後部座席で腕組みした村長が首を伸ばす。

「ホーバイ?」

「朋輩、親友の事さ。村長は気に入っておられる」

「おう、社長が教えてくれた。無二の親友という意味だろ。儂と社長はホーバイだ。おまえたちもだろ?」

「えと、言っていいのかな?」

「キミがかまわなければ、僕から言おうか?」

「あ、いや……」

「じゃ、儂のことから言ってやろう。儂は元々は、西ノ島の採掘権を奪うためにやってきた殺し屋だ」

「殺し屋!?」

「ああ、ヒムロ社長が独占的に採掘権を握っていたんでな、社長を殺して採掘権を奪うためにアメリカからやってきた」

「CIAとかの?」

「そんな単純なもんじゃない、漢明の息のかかった組織だった。それが、いろいろあってな、いつの間にか仲良くなって、ホーバイになっちまった」

『拙者が、村長を打ち漏らしたでござるよ』

「わ!?」

 急な侍言葉にビックリ。すぐにサンパチのAIの声だと分かるが、同型のニッパチとえらく違うので戸惑いが抜けない。

「社長の配下が儂を暗殺するために送り込んできた殺人兵器だったんだけどな、寸前のところで社長が止めに来てくれて、命拾いしたんだ」

『その罰として、拙者は村長の為に働くことになったのでござるよ』

「そうなんだ(^_^;)」

「で、お前らは、どうなんだ?」

「西ノ島は、人の身の上を詮索しないのでは……」

「言いたくないなら言わなくてもいいがな、ホーバイなら聞いても悪くないだろうが」

「僕が扶桑幕府の将軍付き小姓だということは分かっているんだろう?」

「え、ええ……」

「ムフ」

 村長の笑顔が不気味(^_^;)。

「そうです! 緒方未来に化けて将軍に近づこうとした天狗党の女スパイですよ!」

「そうか、では、改めて、ナバホ村村民見習いの本多兵二だ。よろしくね」

「う、うん」

 なんだか一点リードされたような感じで握手すると、岩場の向こうに城塞を思わせるフートンの楼門が見えてきた。

「わあ……」

 西ノ島三つの集落の中で、一番立派な造りに、ちょっと驚いた。

 

※ この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥              地球に帰還してからは越萌マイ
  • 森ノ宮親王
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室                西ノ島 氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩)

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地

 

 

 

 

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はるか・6『離婚から三ヵ月 麦茶を一気飲み』

2021-10-20 05:28:35 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト はるか・6

『離婚から三ヵ月 麦茶を一気飲み』 




 わたしはいつも通り、一人で夕食をすますと(確認しときますけど、大阪に来てから土日を除いて、夕食は一人なの。もっとも、材料とレシピは用意してくれている。逆に言うと、お母さんは、平日は志忠屋のマカナイで昼夜の食事をとっている。で、栄養管理にうるさく。このごろタキさんは「オカンみたいや」とぼやいている。同感って、わたしには本当の「オカン」なのだから始末が悪い)ちょっとした親孝行にと、ビールを冷蔵庫に入れた。

 そしてボンヤリと月をながめて……って、べつにオオカミ女になったりはしないのでご安心を。

 気がつくと、マサカドクンが正座してなにやらケータイを打つ真似をしている……よく見ると、マサカドクンがちょっと変だ。

 今まで、ぼんやりした凹凸でしかなかった顔立ち。そこに三つの点のようなものがにじみ出している……目と口……?

「マサカドクン」

 下の方の点が、ビビっと震えた。

――ウ、ウ、ウ……。

「マサカドクン……!?」

――ウ、ウ、ウ……。

「マサカドクン、ちょっと立ってみて」

――ウ。

 立ち上がったマサカドクンは少し背が高く……いや、頭が小さくなって四頭身ぐらいになっている。長いつき合いだけど、こんなことは初めてだった。

――ウ。

 マサカドクンがケータイを示した。
 それだけで意味が分かった。

「元チチにメールしろって……!?」

――ウ。

 ウスボンヤリしたマサカドクンの顔を見ているうちに心が飛躍した。

 乙女先生→乙女先生のお母さんの介護→ワーナーの家族愛映画→スミレとカオルの心の交流→失われたうちの家族→元チチ……。

 三ヶ月封印していたメールを元チチに打った。

「はるかは元気だよ」と、一言。そしてカオル姿の写メを添付した。


「ビール飲みたーい!」

 汗だくでお母さんが帰ってきた。

「冷やしといた」

 パジャマ姿に歯ブラシの娘が、顔を出す。
 ドアを開けるなり、母子の会話。

「サンキュー、親孝行な娘を持ったなあ♪」

 このシュチエーション、まんまビールのCMになりそう。

「グビ、グビ……グビ……プハー!」

 お風呂上がりに極上の笑顔!

「ゲフ!」

 色気のないスッピンでゲップ……CMになりません。でも、一日の終わりが機嫌良く終われるのはめでたいことであります。

「今日、乙女先生が来たわよ」
「え……」
「大橋さんと、トコちゃんもいっしょだった」
「なに、その組み合わせ?」
「乙女先生のお母さん、介護付き老人ホームに入ることになった」
「そうなんだ……」
「だいぶためらってらっしゃったけど……」

 二本目の缶ビールを、この人はためらいもなく開けた。

「そのために、先生とトコさんが来たのか」

 わたしは麦茶のポットを取り出した。

「うまい具合に、乙女先生の家の近所に新しいのができて、見学の帰りに志忠屋に寄って思案の結果ってわけ。わたしはタキさんとカウンターの中で聞いてただけだけどね。どうしても姥捨ての感覚が残っちゃうのよね」
「だろうね……オットット」

 注いだ麦茶が溢れそうになった。

「トコちゃんが言うの『介護ってがんばっちゃダメなんですよ。介護って道は長いデコボコ道なんです。がんばったら、介護って長い道は完走できません。この道は完走しなきゃ意味ないんですから。施設に入れるんじゃないんです。利用するんですよ。ね、先生』って……大橋さんもね、ご両親、施設に入れ……利用してらっしゃるの。知ってた、はるか?」
「……ううん」

 先生のコンニャク顔が浮かんだ。そういう事情とはなかなか結びつかない。

「あの人の早期退職もそのへんの事情があるのかもね……はるか」
「ん……?」
「お母さんのこと手に負えなくなったら、はるかもそうしていいからね」

 と、飲みかけのビールを置いた。

 そんな……と、思いつつ、ある意味、とっくに手に負えないんですけどね……と、麦茶を一気飲みした。

「ゲフ……」

 麦茶でもゲップは出るんだ。

 ベッドに潜り込もうとしたら、メールの着メロ。

 ……元チチからだ!

 

『はるか 真田山学院高校演劇部物語・第14章』より

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