大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

パペッティア・008『久々の親父』

2023-03-13 15:59:08 | トモコパラドクス

ペッティア    

008『久々の親父』晋三 

 

 

『そのまま前に進みなさい』

 

 親父の声が言うので、夏子は予防注射の順番が迫ってきたようにオズオズと前に出る。

 すると、前のモニターに親父の上半身が現れた。背景はビデチャをやる時のようにボカシが入っていてよく分からない。

「この部屋に居るんじゃないの?」

『居るとも言えるし居ないとも言える』

「えと……なぞなぞ?」

『いや、そこが一番よく聞こえる。三つのメインスピーカーから等距離なんだ』

「あ、ああ、そういう意味……ここがベストね」

 5センチほど微調整、ちょうど、目の前に親父が立って喋っているような感じになる。

『ハハ、夏子は賢い。わたしが言ったポイントでは近すぎるか』

「ハハ、頭の中で声がする感じだから。で、リアルお父さんはどこにいるの?」

『ちょっと訳があって、今は、この画面を通してしか話ができない』

「そうなんだ……」

『すまんな、時間が許せば3Dホログラムに出来たんだが、そういう時間も惜しくてな……と言って、少しは説明しなければ納得もいかんか』

「うん」

『第二アクト(ヨミの第二次攻撃)で負傷してリアルボディーは使い物にならなくなってな。今は、脳みその中身だけをベースのマザーコンピューターの中に収めてある。まあ、マザーコンピューターとはリアルタイムで交流できるから、作戦指揮や研究には便利なんだがな。しかし、これでは物理的な移動ができんし、部下たちに戸惑いもある。近々物理的なアバターが出来て、そこに移し替える予定だから、しばらくの間辛抱してくれ』

「うん、そういうことなら、分かったよ」

『すまん、で、夏子を呼び出した用件なんだが……部下たちが休暇の時間を使って、やっと夏子の居場所を突き止めてくれてな。いろいろ手続きも済ませてくれて、やっとのことで、引き取ることができたという次第なんだ。長い間、本当に済まなかった』

 画面の中の親父が頭を下げる、下げた瞬間微かに照明が落ちて、下げたって感じがする。この姿での指揮も長いだけあって工夫はされている感じだ。

『ここに居れば、衣食住に困ることも無い。学校も直ぐに手配する。いっしょに住んでいるという実感は希薄だろうが、ベースに居てくれれば、わたしも安心だ』

「う、うん。あたしも、そのつもりで出てきたから」

『ベースは軍人か軍属でなければ居住できないから、一応少尉の階級を与えてある』

「あ、うん。徳川さんて曹長さんに聞いた」

『階級を与えたからには、少しは仕事もしてもらわなきゃならない。いいか?』

「うん、ずっと働いてきたから、その方が嬉しい。あ、あんまり頭使う仕事はできないけど」

『なにか希望はあるか?』

「あ、新聞配達やっててから、なにか、それ的なデリバリーの仕事がいい。体動かしてるの好きだし(^▽^)」

『………………』

「お父さん?」

『すまん、そういう前向きな明るさは、お母さんソックリで、ちょっと感動した』

「アハハ……ちょっと嬉しいかも」

『お前の世話は、高山大尉が中心に見てくれる。ただ、あれも忙しい奴だから、普段の事は徳川曹長に聞くといい。主計科だから仕事も早い』

―― 司令、北部管区から警備計画調整の要請が入っています ――

『分かった、一分だけ待ってくれ』

―― 了解しました、一分待機指示します ――

「忙しいんだ、お父さん」

『なにか思いつくことがあったら言ってくれ、できることは善処する』

「えと、小さくていいんだけど、お仏壇あるかなあ」

『あ、お母さんと晋三だな……』

「うん、剥き出しの過去帳だけっていうのはね(^_^;)」

『分かった、一両日中には手配しよう。じゃあ、すまんが、今日のところはこれで。元気な顔を見られて嬉しかった』

「うん、あたしも……」

 もう一言言おうとしたら、CICのあれこれに数値や画像が現れ、外していた人たちも戻ってきた。

 

 そっと一礼してCICを出ると、みなみ大尉が立っていて、こっちこっちと手招きしている。

 

「すみません、待ってくれていたんですね」

「ドンマイドンマイ、それよりも、いいニュースだぞ(^▽^)」

「え、なんですか?」

「ナッツの住処は、わたしの隣に決定したぞぉ~」

「え、そうなんですか!?」

「うんうん。女子に二言は無いぞよ~♪」

「よかったぁ♪」

 

 しかし、その時のあたしは、よく分かってはいなかった(-_-;)。

 

☆彡 主な登場人物

  • 舵  夏子       高校一年生 自他ともにナッツと呼ぶ。
  • 舵  晋三       夏子の兄
  • 舵  研一       特務旅団司令  夏子と晋三の父
  • 井上 幸子       夏子のバイトともだち
  • 高安みなみ       特務旅団大尉
  • 徳川曹長        主計科の下士官

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

せやさかい・394『せや、花粉症やってんわ!』

2023-03-13 11:05:21 | ノベル

・394

『せや、花粉症やってんわ!』さくら   

 

 

 歳を取ると鈍くなる……て、言うたらお祖父ちゃんに怒られそうやけど(^_^;)

 

 頼子さんがヤマセンブルグに行ってしもたことも、江戸川アニメに行って人生初の声優(花園あやめさんの相手役で、3カットだけやけどメチャビビった)やったのも、遠い思い出みたいな感じになって、この四五日は、すごく穏やかに一日が過ぎていく。

 子どもの頃は、大好きな人形の腕が取れて、ムリクリ直そ思てがんばったら、今度は首が取れて―― もう人類なんか滅びてしまえ! ――なんて何カ月も落ち込んだり。

 お父さんが珍しく「三人でご飯食べにいこ!」言うて連れてってくれたファミレス、そのお子様ランチに立ってた日の丸の旗を世界最高のラッキーアイテムや思て、ダイソーで買うてもろた宝箱の中に入れて、時どき開いてはニマニマしてた。

 あのころみたいに、嬉しいにつけ悲しいにつけ、心に刻まれたことにいつまでも縛られることは無くなった。

 

 早手回しに夏が来たんちゃうん!? と錯覚するくらいに温すぎる、この二三日。

 夕べからの雨は家を出るころには上がって、雲間に見え始めた青空を追いかけるようにペダルを踏む。

 マスクも鼻の下にズラして盛大に朝の空気を吸う。

 ヘーーーックション!!

 盛大に出たクシャミに―― せや、花粉症やってんわ! ――振り返ると、留美ちゃんも可愛く―― ヘクチ ――を連発してる。

 いつものハンゼイの駐車場に自転車を停め、ゴシゴシ掻きたくなるのを我慢してポケットから目薬を出す。

 二秒で両目にさして、自転車の鍵をかける。

「え!?」

 留美ちゃんが目薬を持ったまま固まってる。

「どないしたん?」

「ちょっと、あれ……」

 留美ちゃんの目線の先、ハンゼイのドアに『忌中』の張り紙。

 坊主の孫やから直ぐに分かる『忌中』は、その家の人が亡くなったばっかりや言うことを現してる。

 葬儀屋さんが入って、お通夜、ご葬儀の段取りをたてたり、あちこち連絡したり。喪主さんは、悲しいよりもめちゃ忙しい。

 それに、この頃は防犯上の事もあって『忌中』の張り紙をしはらへんとこも多い。昔と違って、遺族はみんな葬儀会館かお寺。『忌中』はうちは留守ですて言うてるようなもん。中には、葬儀場を突き止めて、お香典を盗もうかというような者もいてるさかいねえ。

 ハンゼイはお店で、家は裏側のお屋敷。

 通学途中やから、周って確認するのも憚られて、そのまま堺東の駅へ。

 誰が亡くなったんやろ?

 信号渡るとこまでは、うちも留美ちゃんも思てた。

 

 ピリピリピリ!

 

 婦警さんがホイッスル吹いて原チャのオッサンを停めた。

―― 10キロオーバーです ――

―― え、うそ? ――

―― 40出てました ――

―― ここて、40制限やろ? ――

―― 原付の制限速度は30キロ ――

―― ええ、うっそー!? ――

 オッサンのとぼけ方が面白いので最後まで観てたかったけど、エスカレーターで改札へ。

 

 で、電車に乗ったら忘れてしもて、留美ちゃんは単語帳、うちはスマホを開く。

 

 昼になるころには完ぺきに晴れて、暑くもなく寒くも無い春の真っ盛り。

 盛りを過ぎた梅を惜しみ、蕾をつけ始めた桜を愛でながら昼ご飯食べたら、関心事は学年末テストとWBCの行方。

 

 家に帰ると、テイ兄ちゃんがお通夜の装束を検めてる。まあ、月に一二回はあるこっちゃから冷蔵庫に冷凍の回転焼きをとりに行く。

 あ!

 小さく声を上げて留美ちゃんが立ち止まる。

「ひょっとして……」

「うん、ハンゼイや」

「誰が亡くなったんですか?」

「瑞穂さん」

 

 言われてピンとくるのに数秒かかった。

 

 瑞穂さんいうのは、うちらと、そう歳も変わらへんマスターのお嫁さん。

 お正月の挨拶に行った時のイチャイチャぶりやら、お店で忙しそうに、でも楽しそうに働いてはった姿が浮かんできた(377『テイ兄ちゃんの偵察に付き合う』 378『今日から三学期!』)

 めちゃショック。

「ずっと悪かったらしいわ……結婚急いだのも、忙しそうに働いてたのも……そういうこっちゃてんなあ」

 そう言うと、荷物を持つと車で出かけて行った。

 普通、お通夜は7時ごろから、ちょっと早い。

 マスターでご主人の昴さんとは親友のテイ兄ちゃん。ちょっとでも早よ行ったろ思てんやろね。

 忘れっぽくなった自分がちょっと疎ましく、回転焼きはそのまま冷凍庫に戻した。

 

☆・・主な登場人物・・☆

  • 酒井 さくら      この物語の主人公  聖真理愛女学院高校一年生
  • 酒井 歌        さくらの母 亭主の失踪宣告をして旧姓の酒井に戻って娘と共に実家に戻ってきた。現在行方不明。
  • 酒井 諦観       さくらの祖父 如来寺の隠居
  • 酒井 諦念       さくらの伯父 諦一と詩の父
  • 酒井 諦一       さくらの従兄 如来寺の新米坊主 テイ兄ちゃんと呼ばれる
  • 酒井 詩(ことは)   さくらの従姉 聖真理愛学院大学二年生
  • 酒井 美保       さくらの義理の伯母 諦一 詩の母 
  • 榊原 留美       さくらと同居 中一からの同級生 
  • 夕陽丘頼子       さくらと留美の先輩 ヤマセンブルグの王女 聖真理愛女学院高校三年生
  • ソフィー        ソフィア・ヒギンズ 頼子のガード 英国王室のメイド 陸軍少尉
  • ソニー         ソニア・ヒギンズ ソフィーの妹 英国王室のメイド 陸軍伍長
  • 月島さやか       さくらの担任の先生
  • 古閑 巡里(めぐり)  さくらと留美のクラスメート メグリン
  • 百武真鈴(田中真央)  高校生声優の生徒会長
  • 女王陛下        頼子のお祖母ちゃん ヤマセンブルグの国家元首
  • 江戸川アニメの関係者  宗武真(監督) 江原(作監) 武者走(脚本) 宮田(制作進行) 花園あやめ(声優)  
  • さくらをとりまく人たち ハンゼイのマスター(昴・あきら) 瑞穂(マスターの奥さん)
  •   

 

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

宇宙戦艦三笠49[そして、トシとみんなの決意]

2023-03-13 08:20:07 | 真夏ダイアリー

宇宙戦艦

49[そして、トシとみんなの決意] 修一  

 

 


 三笠を飛び出したトシは地理的にも心理的にも自分の居場所を見失っていた。


 人類が滅亡してから数百年。惑星ピレウスは密林状態になっている。みんなからはぐれてしまうと、もう元の場所が分からない。

 ―― 自分が残る! ――そう宣言して、クローンだから能力が無いと言われて、今まで人間だと思っていたロボットが「おまえはただの機械なんだぞ」と言われたように滑稽で惨めだ。

 生体反応を示すモジュールは、駆けだすと同時にオフになった。これは、仲間同士位置を見失わないための測位システムで、身に危険が迫ると自動でオフになる。敵に位置を知られないためのセキュリティーでもあるのだ。

―― スイッチオン ――と思いさえすれば、いつでもモジュールはトシの居場所を発信する。が、トシはその気にはならなかった。

 そのくせ、心のどこかで発見されたい気持ちもある。引きこもりの弱っちいアンビバレンツ。トシはますます自分が嫌になる。

 自分としては、誤解される恐れがありながら勇気を出して言ったつもりだ「オ、オレも残ってもいいです……」

 樟葉さんのことは密かな憧れだった。だから樟葉さんが「残る」と言った時、ドキッとした。でも樟葉さんだから自分も残るのではない。天音さんが言っても同じだったろう。いや、だれも言いださなくても自分は申し出た。その自信はある。

 だが「トシはクローンだ」とレイマ姫に言われてパニックになった。たった今の決心も、自分の存在さえコピーのイミテーションのように思われた。まるで自分はピエロだ……そう思う気持ちさえ、イミテーションの夢のようにおぼろで寄る辺ないものに感じられた。

 ふと血の味がした。

 木の枝か鋭い葉っぱで切ったのだろう、頬が切れ、そこから流れた血が口の中に入ってきたようだ。手で頬を拭うと、鮮やかな赤が手のひらに残った。


 妹が車に跳ねられた直後のことを思い出した。


 お兄ちゃーん!


 ホームセンターで買ってもらったばかりの自転車をもてあまし、幼い妹は信号を渡り損ねた。それでも通行量が少ないので、自転車を押しながら、点滅しかけた信号を強引に渡ってきた。そして、前方不注意のトラックに人形のように跳ね上げられた。目立つ怪我は無いように見えたが、耳から血が流れていた。

 クローンと言われ、自分の存在がひどくバーチャルなような気がしたが、この鉄のような確かな血の感覚だけは本物だった。

「そう、本物なのよ」

 エッ!?

 びっくりして顔を上げると、船霊(ふなだま)のミカさんがいた。

「どうして……」

「いちおう神さまだからね。モジュールを切っても分かる……ごめんね、トシ君がクローンだというみんなの記憶は、わたしが消したのよ。トシ君はね、オリジナルトシ君のDNAから生まれたから紛い物じゃない。その……子供をつくる能力だけはないけど、あとは全て本物のトシ君だよ。今の血の味の確かさ……本物でしょ。妹のユミちゃんの記憶も」

「うん……」

「トシ君は、ユミちゃんを死なせたのは自分の責任だと思っている。だから、その償いとしてこのピレウスでアダムになろうと手を挙げたのよね」

「う、うん(灬ꈍ ꈍ灬)……」

 トシは涙が止まらなかった、トシは恥ずかしくて回れ右した。

 ミカさんは、そんなトシを後ろから静かにハグしてやった。

「この大遠征に来たことだけで、トシ君は十分に償っているのよ、もう十分なのよ……みんなそう思ってる。だからレイマ姫も、はっきり言ったのよ。トシ君に最後のハードルを越えてもらうためにも……」

 みかさんは、トシを掴まえに行く前にみんなに告げた。トシは自分が連れ戻すって。


「意見はまとまったぞ」


 トシが戻ると、俺は静かに宣言した。

「ピレウスには、あたしと修一が残る。寒冷化防止装置は、みんなで持って帰って……」

 樟葉が、今度は落ち着いて続ける。

「分かりました」

 トシも冷静に返事した。

「寒冷化防止装置は、ソフトのような気がします。わたしのPCの容量で間に合うのなら、わたしを初期化してダウンロードしましょう」

 クレアが当たり前のように言う。

「わりばって、そえでも足らね。っていうが、PCにダウンロードでぎるようなもんでねんだ。トス君ど天音さんの心ど体さ埋め込むんだ。並の人間ではまいね。この大遠征成す遂げで経験値マックスになったはんででぎるごどだ」

「あたしと、トシが……」

 天音が、いつになく真剣な面持ちで顔をあげる。

「そうだよ。で、こぃには膨大なエネルギーど制御が必要なんだ。エネルギーは三笠どテキサスさ、制御はクレアさんに……けっぱってね」

 みんなは静かに頷いた。

「グリンヘルドとシュトルハーヘンの脅威は」

 俺は、もう一つの大切なことを聞いた。

「グリンハーヘンのミネア司令……あのふとがなんとかするびょん。あった風にほいどつけだばって、ミネア司令の艦隊最強なのはグリンヘルドもシュトルハーヘンもおべでら。この上三笠敵さ回すては割さ合わねごどば。なんどどのごどで、たげ学習すたす、二づの星も三笠どの戦いで戦力喪失同然。地球さ行ってら余裕はねど思う」

 そう言うと、クレアはレイマ姫の背中にまわりツボを探るように手を動かす。何度目かに一度はボタンを押すようにグイッと力を入れて、そのたびにレイマ姫は輝きを増していく。
 そんなことを十数回繰り返したところで、俺たちは眩しさに目を開けられなくなり、そして体が熱くなって意識を失った……。

 

☆ 主な登場人物

 修一(東郷修一)    横須賀国際高校二年 艦長
 樟葉(秋野樟葉)    横須賀国際高校二年 航海長
 天音(山本天音)    横須賀国際高校二年 砲術長
 トシ(秋山昭利)    横須賀国際高校一年 機関長
 レイマ姫        暗黒星団の王女 主計長
 ミカさん(神さま)   戦艦三笠の船霊
 メイドさんたち     シロメ クロメ チャメ ミケメ
 テキサスジェーン    戦艦テキサスの船霊
 クレア         ボイジャーが擬人化したもの
 ウレシコワ       遼寧=ワリヤーグの船霊
 こうちゃん       ろんりねすの星霊

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

RE・かの世界この世界:036『タングリスとタングニョースト』

2023-03-13 07:00:13 | 時かける少女

RE・

036『タングリスとタングニョースト』  

 

 

 その声はタングリスか(⚙◇⚙)!?

 
 穴からの声にブリの目が輝いた。

 ブリの声に勢いづいて飛び降りてきたのは戦闘服に身を包んだ二人の美少女だ。

「タングリス! タングニョースト!」

 100ワットの電球が点いたような明るさで立ち上がったブリに二人の美少女が駆け寄り、ハッシと抱き合った。

「やっとお出ましになられたのですね!」

「ああ、神のお導きで、この二人に出会えてな。紹介する、こっちの大きい方がソードマン(剣士)テル。小さい方がアーチャー(弓士)ケイトだ。たった今、シリンダー連結体を駆逐して、結界を張って一息ついているところだ」

「姫がお世話になりました。自分たちは無辺方面軍戦車教導隊のタングリス、こちらが……」

「タングニョーストであります、お見知りおきを」

「こちらこそ!」

 わたしたちは、エルベ川で邂逅した米軍とソ連軍のように握手し合った。

「これがエルベの誓いなら、勝利は目前ね」

「「神のご加護のあらんことを!」」

 二人の美少女は単純にYESとは言わずに神のご加護を期待する慣用句に声を揃えた。前途は多難なのだろう。

 それを察知したのか、ブリは言葉を変えた。

「貴様たちが居るということは、トールが、すぐそばに参っているということだな。この上か?」

「いえ、元帥はムヘンブルグの本営におられます。元帥共々出張ってしまっては、疑われてしまいます。わたしたちは、あくまで囚人脱走の報をうけて警戒に出てきたことになっております」

「長く留まっていると、疑念を持たれます。とりあえずは戦車の中へ。自分が先頭に、タングニョーストが末尾に着きます。こちらへ」

 タングリスが咽頭マイクに手を当て「下ろせ」と指示すると、結界の天井の穴からラッタルが下りてきた。

  ラッタルを上ると地上と思いきや、薄暗く、直上に重厚で鉄臭い天井が迫って来る。天井には人一人が通れる穴が開いていて非常灯のような暖色の灯りが漏れている。

 ガシャリ

 天井と思いきや、上がってみると白く塗られた機械室のようで、閉められたのは、足もとのハッチであることが分かった。

 小学校の時に乗った連絡船のエンジンルームのようなところだ。

 いや、エンジンそのもの……巨大なV12エンジンがアイドリングに身震いしていたのだった。

 
 ブルブルブルブルブルブルブルブル……

 

☆ ステータス

  •  HP:200 MP:100 属性:剣士(テルキ) 弓兵(ケイト)
  •  持ち物:ポーション・5 マップ:1 金の針:2 所持金:1000ギル
  •  装備:剣士の装備レベル1 弓兵の装備レベル1

☆ 主な登場人物

  •   テル(寺井光子)        二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)      今度の世界の照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトと変えられる
  •  ブリ              ブリュンヒルデ 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘
  •  タングリス              トール元帥の副官 タングニョーストと共にブリの世話係
  •  タングニョ-スト        トール元帥の副官 タングリスと共にブリの世話係
  •  ペギー            峠の万屋
  •  二宮冴子           二年生、不幸な事故で光子に殺される
  •  中臣美空           三年生、セミロングの『かの世部』部長
  •  志村時美           三年生、ポニテの『かの世部』副部長 
  •    
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする