大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・153『邂逅する者たち・1・ブンカ―』

2023-03-27 15:58:58 | 小説4

・153

『邂逅する者たち・1・ブンカ―』越萌マリ(児玉元帥) 

 

 

 ブンカ―のドックは中型小型の船や水陸両用車でごった返していた。

 

 ドックを上がった待機エリアや整備エリアも足の踏み場が無い状況だ。

 到着したボランティア、配置の指示や装備の配給を待つ者、補給品の整理や管理をする者、装備を修理する者、負傷者の手当てをする者とされる者、戦死者を確認しながらシュラフに収める者、戦闘配食の用意をする者、片づける者、ドック各所に設置されたモニターを睨んで、どこまで正確か分からない戦況に一喜一憂する者、見ているだけで魚のように表情のない者、そういう、もう戦争と言っていい西之島紛争の前線基地の様子をマスとして捉える。

 数字としての戦闘経過や戦闘配置を見るよりも確かな戦争の『現在』が分かる。

 活気と疲労がせめぎ合っているが、負け戦特有の饐えた臭いはしていない。一進一退、ここが辛抱のしどころというところか。

「越萌さーん!」

 馴染みのある声に振り返ると、ニッパチにオンブされたラボのメグミ所長。

「メグミさんも出撃?」

 越萌マリの感性で尋ねる。

「負傷者の手当てに来ました、あ、わたしはロボット専門ですが」

「大変ねぇ、研究職までかり出されてるんだ」

「アハハ、本職は何でも屋ですから」

「負傷ロボットはCとDの柱の間に集められてるみたいよ」

 たったいま確認したばかりのロボット治療所を指さす。

「ありがとうございます。マリさんは、しばらくこちらに?」

「うん、この戦いの目途がつくまではいるつもり……」

 言葉を継ごうと思ったら、わたしを呼ばわる声。

 

『越萌さーん、こっちでーす!』

 

 首を振ると、ラッタルの踊り場で及川市長が手を振っている。あそこを上がったところが作戦やブリーフィングのエリアなんだな。

「じゃ、また」

「はい」

 会社の昼休みが終わって、それぞれの部署に戻るような気楽さで別れる。周囲はとても昼休という状況では無いんだが、それに浮足立つようでは先は無い。

「ありがとうございます。発光信号で越萌さんと分かってびっくりしました、ここを上がったところが作戦室です。市庁舎が爆撃を受けたので、今は、ここが島の中枢です。あ、足もとに気を付けてください、緊急に司令部機能を整えたんで、配線なんかがむき出しで」

「大丈夫です、島の幹部の方々は御無事で?」

「はい、ロボットの方々が初戦でがんばってくださって、なんとか五分五分というところで……あ、親王殿下、越萌さんをお連れしました」

 ハンガーを仕切っただけの作戦室には特設のモニターや各種機器が並び、制服もまちまちな公務員や志願者、ボランティアたちが、忙しく作業や連絡の真っ最中だ。

 親王殿下と呼ばれてモニターから顔を上げたのはお馴染みの氷室社長。

 綸旨を発してからは島内でも、その呼称を親王に変えているようだ。

「ありがとうございます越萌さん。シマイルカンパニーがご援助してくださるという知らせだけで百人力です。その上、CEO自らお出ましいただいて感謝に耐えません」

「頭を上げてください、仮にも綸旨を発して親王を称しておられるのです。わたし如きに笑顔はともかく、度を過ぎた敬礼は不要です」

「あ、すみません、まだ慣れないもので(^△^;)」

「いえいえ、初めてお目にかかってから、お若いに似ず大人の風格のあるお方と思っていました。総司令官としてドンと構えていてください。政府が対日武力行使と認めない状況、法的制約があるので会社としてできることは限られていますが、越萌マリ個人は一兵卒として奮闘いたします」

「ありがとうございます。日没後には作戦会議が始まります。どうか、それまでは体を休めていてください」

「いえ、とりあえずは島の状況を確認します」

「え、今からですか?」

「はい、善は急げというところです」

「それなら人を付けましょう」

「いえ、うちの運転手は元満州軍の精鋭でしたから」

「でも、予備役の方では」

「ハハ、この島で戦っている現役兵は敵の漢明軍にしかいないでしょ」

「あ、それもそうだ。承知しました、でも、くれぐれも無茶はなさいませんように」

「はい、では1830には戻ります」

「おお、ヒトハチサンマル、雰囲気ですねえ」

「素人ですからカタチからです」

 

 ラッタルを降りる途中C・Dの柱に目をやる。メグミ所長が瀕死のロボットを治療している。隣のEの柱の下では人間の兵士が治療を受けている。働いている看護師の何人かは市民病院で見た顔だ。本土からやってきた者はあらかた帰ったと思ったが例外は……あらためて見渡すと、けっこういる。

 日本政府は腐っているが、どうして、日本人は捨てたものではない。

「日本人ばかりではないアルよ」

 変な日本語に振り返ると、ラッタルを下りてくるもう一人の顔見知り。

「おお、孫大人!?」

 思わず声が大きくなった。

 

 

 ☆彡この章の主な登場人物

  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府若年寄穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書

 ※ 事項

  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
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RE・かの世界この世界:050『バケツとジェリカン』

2023-03-27 06:16:05 | 時かける少女

RE・

50『バケツとジェリカン』テル  

 

 

 ペチャペチャペチャ……ペチャペチャペチャ……ペチャペチャペチャ……

 
 葦の草叢を三つの足音が逃げていく。

 タングリスと目配せして川下と川上に分かれて追いかける、それぞれケイトとブリを従えている。

 融合体との戦いで、四人は阿吽の呼吸で行動できるようになったようだ。

 
 タングリスの掲げた手が草叢の上に上がり「そこ」を示している。「そこ」とは、カエル投げの犯人が一秒後に到達する位置だ。今現在の場所を指しても、飛び込んだ時には手遅れになる。

 セイ!

 その未来位置にケイトと一緒に飛び込む。タングリスとブリも飛び込んで瞬くうちにご用!

 襟首と腰の後ろを掴んで持ち上げると、ジタバタと手足をもがかせて抵抗するが、いかんせん小さい。

 はなせ! はなせ~! はなせ~ヘンタ~イ!

「おまえたち、ヴァイゼンハオスの子どもたちだな」

 腕組みしたタングリスは怖そうだが、目が笑っている。

「だ、だからやめろって言っただろ~が!」

 わんぱくそうなのがもがきながらイケメンの男の子に言う。イケメンの方は苦笑いだが、ケイトに掴まったお転婆が口を尖らせる。

「き、きったねー! 投げようって言ったのはロキの方じゃないか!」

「そうか、そういうやつか、お前は……」

 ピシ!

 タングリスが畳んだままの鞭を一閃、わんぱくの数本の髪の毛が宙に飛ぶ。

 ヒエ~~~~(((>Д<)))

 三人同時に悲鳴を上げて、腰を抜かす。

「ここじゃ、水に浸かるなあ」

 戦車の前まで連れていき、四人取り囲んで正座させた。

「なんでカエルなんか投げたのよ!」

 一人だけ命中弾をくらったケイトが詰め寄る。

「こんなとこまで戦車でやってくるのは……」

「えと……」

 男の子二人が言葉を濁らせると、女の子がまなじりを上げる。

「きっとサボりに違いない! だって、シュタインドルフはオーディンシュタインに護られてるから安全なんだもん! そんな安全なとこに来る兵隊は『きっと腰抜けだ!』って……間抜けだったっけ? ロキ?」

 ロキに振るので、首謀者は丸わかりだ。

「お、オレに振るな~!」

 わんぱく坊主はヘタレでもあるようだ。

「おまえたち、こんな河原で何をしていたんだ?」

「決まってるじゃん……あ!?」

 女の子は、自分の両手を見てハッとした。

「バ、バケツが……」

 わんぱく坊主もオタオタ、どうやら、なにかの用事の最中に、わたし達を発見して悪戯を思いついたようだ。

「バケツなら、三つまとめて向こうに置いてあるよ。戦車に気づいたとたんにほっぽり出すんだから」

 
 ピシュ

 
 タングリスが大きく一振りすると、鞭に絡めとられた三つのバケツが引き寄せられた。

「水汲みか……」

「自分たちも挨拶代わりに水を汲んで持っていこうとしていたところだ。ちょうどいい、作業を手伝え」

「戦車で水汲み?」

「ああ、そうだ。たくさん運べるが、水槽に入れるところまでは人力だ。がんばれ」

「そのまえに、ちゃんと名前を聞いておきたいかもな」

 ブリが、手ごろな使い魔を見つけたという顔で言う。

「ぼく、フレイです」

 イケメンが最初に名乗る。

「わたし、フレイア。フレイの妹よ」

 なるほど、性格は違うようだが顔立ちは似ている。

「ほれ、あんたの番よ」

 フレイに小突かれて、いっそうオタオタのわんぱく。

「ロ、ロキだ。ハオスの子どもの中じゃ一番偉いんだぞ」

「そうか、じゃ、偉いのが先頭で作業にかかるぞ」

「そそ、そっちも名乗れよ」

「向こうに着いてからだ、さ、かかるぞ」

 
 子どもたちのバケツと戦車のジェリカンをぶら下げて水汲みに掛かった……。

 

☆ ステータス

 HP:1000 MP:800 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・20 マップ:3 金の針:5 所持金:8000ギル
 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)

 
☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 
 ブリ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘
 グリ(タングリス)   トール元帥の副官 タングニョーストと共にブリの世話係

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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