大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

くノ一その一今のうち・47『心の奥』

2023-03-26 13:58:28 | 小説3

くノ一その一今のうち

47『心の奥』 

 

 

 心(甲斐善光寺の地下戒壇)の中は陰圧が掛かっていて、外の戒壇に空気が漏れないようになっている。

 だから、ニオイも気配も外に漏れることが無く発見が遅れた。

 

 しかし、陰圧が掛かっているということは、吸い込まれた空気がどこかに抜けているということだ。

 抜けていく方向に何かがある、恐らくは信玄の埋蔵金の大半を収めた洞窟が。

 甲府城の地下にあったのは、埋蔵金のパートワンというか見せ金だ。本命の埋蔵金に寄せ付けないためのダミーに過ぎない。

 

 立ったままの姿勢でじっと動かない。感度をよくするために両手をパーにして伸ばしている。

 

 動いてしまえば、空気をかき回してしまい、この微かな空気の流れを見失ってしまう。

 両手を広げて立っているなんて、忍者にあるまじき無防備さだ。

 腕のいい忍びが吹き矢でも吹けば逃げようがない。至近距離なら手裏剣でさえ避けきれないだろう。

 

 …………分からない。

 

 入り口は狭い分、空気の流れが早くて陰圧として空気の流れを感じられた。だが、ここは教室ほどの広さがあって両手を広げたぐらいでは空気の流れを掴めない。視覚的には右前方に窪みがあって、そこから先が続いているように見えなくもない。しかし、わたしも忍者。五感のうちで視覚が最も騙されやすいのを知っている。

 こういう場合、風魔忍者は裸になる。裸になれば全身の皮膚で空気の流れを感じられる。

 特にくノ一の胸の先は感度がいいとされる。

 服を脱いで胸を晒せば……いや、それは最後の手段だ。

 取りあえず袖をまくり、ジャージの裾をあげる……手首、肘の裏、ふくらはぎ、膝の裏側がひんやりして空気を感じる。しかし、流れを感じとるところまではいかない。

 ジャージの上をまくり上げ、腹と背中もセンサーにする。

 これで分からなければ……いよいよ胸を晒すしかない(#'∀'#)。

 

 え…………ちょっと混乱した。

 

 微かに空気の流れを感じるようになったんだけど、それは視覚情報とは真逆。

 左側の隙間も穴も見えない岩肌から風が流れてくるように感じる。

 

 とっさに前転すると同時に掴んだ石を岩肌に向かって投げた!

 

 スサ!

 

 小さく、でも鋭い音がしたかと思うと、岩肌がハラリと崩れ、そこから黒い影が飛び出した。

 崩れたのは岩肌に見せた布切れだ。

 

 セイ!

 

 手裏剣を投げると『ドス』っという音と手応えがし、影が立ち止まって、こちらを向いた。

 影の太ももに手裏剣が刺さっている。

「やはり、現役を相手にするには歳を取り過ぎたか……」

 そう言って太ももの手裏剣を抜いて、こちらを向いたのは意外な顔だった。

「………多田さん!?」

 それは、年老いたお母さんが危篤ということでスタッフから抜けた照明係りの多田さん。

 やっぱり、佐助の手下だったんだ。印象の薄い人で顔も思い出せなかったけど、今は、しっかり分かる。多田さん本人も隠そうとしていない。

「そのッチはいいものを持ってるよ、くノ一としても年頃の女の子としても」

「なっ(#・▲・#)」

 思わずお腹を隠してしまう。

「ふふ、岩陰に隠れて思わず体が熱くなって、それで見つかってしまうとは忍者としては失格だがね……」

 

 ピカ!

 

 その瞬間、心の中は無音の雷が落ちたように光に満ちてホワイトアウト!

 

 数秒たって目を開けると、心の入り口が開いていて、それまで影が潜んでいたところは岩肌に重なりがあって奥が見えないようになっている、覗いてみると、さらに岩の重なりがあって奥に広がっていることが分かった。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者

 

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RE・かの世界この世界:049『シュタインドルフのヴァイゼンハオス』

2023-03-26 07:03:12 | 時かける少女

RE・

49『シュタインドルフのヴァイゼンハオス』テル  

 

 

 ムヘンブルグの西端、シュタインドルフのヴァイゼンハオスを目指している。

 
 シリンダー融合体との闘いが苛烈だったせいか、単調なムヘン川の景色のためか、武骨な二号戦車のエンジンの振動さえも心地よく、つい居眠りしてしまいそうになる。

「よく、こんな体勢で寝られるなあ」

 知恵の輪のように絡み合って寝ているヒルデとケイトに感心したのは、寝てはいけないと思う自分への戒めであるのかもしれない。

 敵の襲撃に備えて、狭い車内に居るようにしているのだ。

「この緩い峠を越すとシュタインドルフです。車外に出ても大丈夫でしょう」

「どんなところなんだろう、シュタインドルフというのは?」

「厳つく聞こえますが、日本語に訳せばシュタインが石、ドルフが村ですから、石村です」

「石村……」

 拍子抜けがする。

「村全体がオーディンシュタインという岩盤の上にあるんです」

「主神オーディーンの名を冠した石?」

「はい、絶大な魔よけの効果があります。この石の上に居れば安全なので、一時は州都を持ってこようと言う話もあったのですが、さすがに城塞を築けるほどの広さもありませんし、西に偏り過ぎていることもあって、トール元帥はムヘンブルグに決めました。かわりに小さな村が拓かれて、シュタインドルフと名付けられたのです」

 キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン

 う!

 軽い耳鳴りがして、耳が詰まったような感じになった。

「峠を越えました。外に出ても大丈夫ですよ」

 最初に飛び出したのはヒルデだ、今の耳鳴りで目が覚めたのだろう。

「ふわああああああ(´Д`)…………え……ちょ、みんなも出てみろ……」

 車外に出て猫のようにノビをしたヒルデが沈んだ声で呼んだ。

「どうかしたんですか……」

 続いて出たタングリスが息をのんだ。

「これは……」

 

 驚いた。

 

 一キロほど先に見えてきたシュタインドルフは、ヴァイゼンハオスらしき建物を残して廃墟になっているではないか!?

 魔物の襲撃が無いとは言え、辺境の自然は苛烈なのだろう、十数軒の家屋は、いずれも棟が落ちたり壁が崩れたりの無残な姿だ。

「孤児院は生きています、ポールに聖旗が翻っています」

 目を凝らすと、ムヘンブルグの城頭にも掲げられていたオーディーン旗が翻っている。聖旗とも呼ばれるそれは定時の掲揚と降納が決められているという話だ。

「給水塔とポンプ小屋が壊れている……ちょっと川に寄ります」

「それがいいようだな」

 タングリスの提案は直ぐに理解できた。給水塔とポンプ小屋が壊れているということは、水の補給がままならないということだ。

 川から水を汲んで持って行ってやるのは妥当な土産だと思う。

 二号戦車はグリの意をくんで川辺に進路をとった。

 

 ブン! ブン! ブン! ベチャ!

 

 何かが四つ飛んできて、反射的に避けたが、ドジなケイトがまともに顔で受けてしまった。

「と、取って~! 気持ち悪~い(;'∀')!」

 アハハハハハ

 狭い二号の車内から解放されたからだろう、いささか荒れた光景にもかかわらず、みんな、ケイトの小さな不幸を笑うことができた。

「じっとしてろ、いま取ってやるから」

 それは、よく肥えたカエルであった。

 ヌチョっと音を立てて取ってやると、また、ひとしきりの笑い声。

 ムヘンの旅も、最初のインターバルにさしかかったかと思った。

 

☆ ステータス

 HP:1000 MP:800 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・20 マップ:3 金の針:5 所持金:8000ギル
 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)

 
☆ 主な登場人物

―― かの世界 ――

 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 
 ブリ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘
 グリ(タングリス)   トール元帥の副官 タングニョーストと共にブリの世話係

―― この世界 ――

 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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