大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

くノ一その一今のうち・46『心の中』

2023-03-21 11:59:31 | 小説3

くノ一その一今のうち

46『心の中』 

 

 

 その二日後の夜、甲斐善光寺に忍んだ。誰にも言っていない。

 

 まあやに言えば心配をかけるし適当な嘘もつかなきゃならない。課長代理に言えば大事になる。

 金堂には破風から入った。

 ホタ

 音がするような着地はしないが、表現すると、こんな感じ。

 草原の国に忍んだことを思い出す。あの時も寺院の破風から侵入した。まだ何カ月もたっていないけど何年も前の事だったような気がする。次は破風からの侵入は避けよう。忍者のワンパターンは身を亡ぼす。

 いっそ真っ暗ならいいんだけど、うっすらと常夜灯が点いている。

 誰かに見られているような錯覚。

 分かっている、天井に描かれた八方睨みの竜だ。

 戒壇巡りと並ぶ善光寺の名物。最初に来た時に三村紘一に化けていた課長代理が教えてくれた。

 真下で手を叩けば「天人の警蹕のように響く」と課長代理は難しく例えるけど、観光客のおじさんが手を叩いて、リアル女子高生でもあるわたしは、渋谷の交差点あたりで黄色信号で飛び出して「フライングはいけません!」と警察官のマイクで注意されたぐらいにビックリした。

 昔の人は、AIも監視カメラも無いのに天井に龍の絵を描くだけでセキュリティーにしたんだ。忍びなら、手を叩かなくても増幅された気配で侵入者に気が付く。

 須弥壇の隙間を縫うようにして戒壇巡りに侵入。

 これで三度目になるので手探りをしなくても歩けるんだけど、右側の壁に手をついて時計回りに歩く。

 パンフレットの説明には出入り口のある左側に手をついてと書いてある。右側には出入り口がないので、いつまでも出口にたどり着けない。

 戒壇巡りの通路は草書で書いた『心』の字の形をしている。「そうだよ、大事なのは気持ち、心だよ……」とまあやに言った言葉で閃いたんだ。

 大事なものは心の内にある、信玄の心の内に。

 つまり、信玄が尊崇してやまなかった善光寺戒壇巡りの心の内に。

 手の高さを変えて六周した。

 闇の中で混乱して、稀に右側に手をつく者がいるんだ。検索すると、右側に手をついて三周した人も居た。

 だから、普通に手をつく高さに有るはずはない。

 六周目、通路と壁の境目をなぞっていて違和感。微妙に隙間があるような気がした。

 気がしたがスイッチや鍵めいたものは見当たらない。

 

 クンカクンカ……ニオイを嗅いでみる。

 

 もし正解なら、開いた時に中の空気が流れ出し、僅かでも残っているはずだ……が、その残滓はなかった。

 勘違いか?

 数分悩む……夜明けまでにはホテルに戻らなければならない。

 ひょっとして…………二割の閃き、八割はダメもとの精神。壁のその部分に指で『心』となぞってみる。

 コト

 石がため息ついたらこんな感じという音がして、一尺四方ほどに壁が後退して出入り口が現れた!

 微かに空気が流れ込んでいく……そうか、微妙に陰圧が掛かっていて、中の空気を吐き出さないようにできているんだ。

 前後に気を飛ばす。後にも先にも人の気配はない。

 覚悟を決めて中に踏み込んだ。

 

☆彡 主な登場人物

  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者

 

 

 

 

 

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RE・かの世界この世界:044『ムヘン略記』

2023-03-21 07:08:29 | 時かける少女

RE・

44『ムヘン略記』テル  

 

 

 

 ムヘンの地は菱餅のような形をしている。

 

 菱餅の中央に城塞都市ムヘンブルグがあり、その北を東西に荒川ほどのムヘン川が流れている。

 昔は化外の地ムヘンと呼ばれ、主神オーディンの力も及ばぬ蛮族と化け物の地と嫌われ、神族でさえ足を踏み入れることは稀であった。

 しかし、オーディン紀元千年紀のころに、ムヘンの南端、菱餅の下のほうが『始りの荒野』と繋がっていることが発見された。

 始まりの荒野は、他の異世界と繋がっていて、そこから様々な異世界の神々や人間やクリーチャーが現れてはオーディンの知ろしめす大地や国々を脅かしていることがジークフリートの冒険で知られた。

 ジークフリートの非業の死のあと、ムヘンの地の平定を任されたのがトール元帥だ。

 トール元帥は、城塞都市ムヘンブルグを築き、ムヘンと始りの荒野の平定に掛かった。

 一時はムヘン全域と始りの荒野の半分を平定し、オーディンの平和と呼ばれる百年が訪れ、ムヘンは豊富な古戦場を資源として半ば神々の観光地になった。

 ムヘンブルグは、その観光地の中心として整備・拡大が進められ、二千年紀には、ほぼ現在のムヘンブルグが形成された。

 

 二千年紀に入ると、蛮族や異世界からの流入と侵略が顕著になり、ムヘンブルグは侵略阻止の最前線になった。

 

 一時はムヘンの放棄まで考えられたが、トール元帥の活躍によって小康状態を得て今に至る。

 オーディンの聖府は、ムヘンの南半分を流刑地に指定し、囚人たちに辺境の防衛にあたらせ、流刑と辺境防衛を実現させ、経費の節減と防衛の問題を解決しようとした。

 囚人たちは防衛に功績があれば刑期を減免されたが、その多くは放免を前に命を落とした。

 囚人たちは「ムヘンだけは勘弁してくれ」と哀願するようになり、王国全体の犯罪発生率は半分以下になったと言われる。

 
 シュタインドルフに着くまでの道中は、菱餅の真ん中を西端に向かって進むので北端のノルデンハーフェンに達する距離の倍はある。しばらくは平穏だとグリ(タングリス)が言うので、単調なムヘン大河南岸の道中『ムヘン略記』を読んでいるわけだ。

 略記とは言え見知らぬ異世界の歴史書だ、五分も読めば眠気を誘うかと思ったが、存外に面白い。出てくる地名や古戦場、人の営みや神々の履歴が生き生きと頭に浮かぶのだ。なんだかパソコンの中に古いファイルを見つけ、開いてみたら自分が書いたRPGのプロットであったような懐かしさ――そうだ、こんな物語に時めいていた――と古い教科書の落書きを見ているような。でも、あまりに古い思い出なので先の展開が読めないもどかしさと楽しさがあった。

 わたしはこんなものを書いていたのか? わたしが? まさかな、いまは勇者などと名乗るもおこがましい駆け出しの冒険者だ、肩の力を抜いていこう。緊張しっぱなしでは、この先の旅には耐えられないだろう。今は穏やかだが『ムヘン略記』にある通り、トール元帥でも一筋縄ではいかなかった流刑地なのだからな。

 しかし、その流刑地ムヘンに流されるんだから、ブリも生半可な奴じゃない。略記は面白く読めたが、それでもブリのことは記されていないし、ブリが元帥に詰め寄っていた元帥とオーディンの確執については一文字も記されてはいない……。

 

 略記を閉じ、キューポラから半ば乗り出した体を後ろに巡らす。

 

 二号戦車のエンジンルームの上にドンゴロスを二重に敷き詰め、ケイトといっしょに眠っている姿は、どう見ても小柄な女子中学生だ。

 こいつ、いったい何をしでかして最悪の地に流刑になったんだ?

 だいいち、並の身分ではない。

 今は「ュンヒルデ」を封印して、ただの「ブリ」と名乗っているが、仮にも主神オーディンの娘だ。

「その秘密は、いずれお話します」

 キューポラから半身を出して前方を警戒しているタングリスが穏やかに言う。

 タングリスは相棒のタングニョ-ストと共に元帥の副官を務めながらブリの監督兼世話係であるようだ。キリリとしたツンデレ系美少女の軍人なのだが、まだデレたところを見たことが無い。ひょっとしたら、ブリや元帥以上の秘密……もし、これが自分の作品なら……ん? まただ。なんで、この旅を作品などと思うんだ? 時々、そういうことを思うんだが、思ったとたんに頭に霞がかかる。

「聞きたいような聞きたくないような……ま、グリが必要だと思ったら話してくれ」

「では、まずはシリンダーの来歴についてお話ししましょう」

 そう言えば『ムヘン略記』を映していたタブレットの右下に「間もなくシリンダー警戒地区」というアラームが点灯し始めている。

 

☆ ステータス

  •  HP:250 MP:150 属性:剣士(テルキ) 弓兵(ケイト)
  •  持ち物:ポーション・5 マップ:1 金の針:2 所持金:1000ギル
  •  装備:トールソード 剣士の装備レベル1  トールボウ 弓兵の装備レベル1

☆ 主な登場人物

  •     テル(寺井光子)        二年生 今度の世界では小早川照姫
  •  ケイト(小山内健人)      今度の世界の照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトと変えられる
  •  ブリ              ブリュンヒルデ 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘
  •  タングリス              トール元帥の副官 タングニョーストと共にブリの世話係
  •  タングニョ-スト        トール元帥の副官 タングリスと共にブリの世話係
  •  トール元帥           主神オーディンの将軍
  •  ペギー            峠の万屋
  •  二宮冴子           二年生、不幸な事故で光子に殺される
  •  中臣美空           三年生、セミロングの『かの世部』部長
  •  志村時美           三年生、ポニテの『かの世部』副部長 
  •    

 

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