鳴かぬなら 信長転生記
あなた方は、もしや三蔵法師御一行様!?
馬が喋った……と思ったら、馬の首にへばりつくようにして乗っているジジイだ。
「いかにも天竺より経文を受け取って帰る途中の三蔵法師とその弟子三名ですがッパ、なにか御用でしょうかッパ、ご老人?」
町の老人会の会長に対するように、優しく訊ね返す。
「はい、わたしは豊盃は豊盃楼の豊盃羽沙壽(ほうはいぱさじゅ)で書店を出しておりました書籍範という年寄なのですが、オーナーの大橋(だいきょう)さまの代理で三蔵法師さま御一行を探しに出ておりました」
ああ、思い出した!
扶桑の国に逃れる前、兄の曹操に追われて、大橋のアンティークショップに匿われていた。店の主人までは覚えていないが、たしかに十字路の向かいに書店があった。
「この度は、パサージュの改装を機会に閉店して引退しようと思っていたのですが、大橋さまが店を買い取ってくださいました。その上、慰安旅行を兼ねて三蔵法師さま御一行を探すお仕事もお与えくださって、このように、皆さまにお会いできたのです」
「おお、それはご奇特ッパ!」
「それにしては、ちょっとくたびれてるブヒ」
「はい、西安で婆さんと観光をしておったのですが、玉門関からこちらの噂を聞き伝えまして、敦煌までの道のりできっとお会いできるに違いないと、年甲斐もなく馬を飛ばしてまいりました」
三国志の書店は古書も多く取り扱う。古書の仕入れは、店の主人の目利き次第だ。見えていたわけではないだろうが、知らぬ間に兵馬俑たちの行軍に触発されてやってきたのかもしれない。
「おお、これにおわすお上人様が三蔵法師さまなのですね!」
ザっと説明し終えると、念仏を唱え続けている三蔵法師に三跪九拝の礼をする老人。
「三蔵法師さまは、お念仏の最中ウキ、邪魔してはいけないウキ」
「話なら、我々三人が聞くブヒ」
「はい、実は、三蔵法師様御一行に豊盃にお越しいただき、御説法していただけないだろうかと大橋さまはお考えなのです」
「「「説法!?」」」
「はい、豊盃の街は豊かで穏やかな街ですが、大きく目を三国志全体に向けますと、天下は三国に分裂し、いつ戦国の大乱を招くか分かりません。ここは仏法をもって太平の道を歩むにしくはなし。そうお考えになっておられるのではないかと拝察しております」
「「「なるほど……」」」
しかし、待て。
この三蔵法師は忠八の紙飛行機からでっちあげたNPCとも言えないオブジェに過ぎない。念仏するとかニコニコ微笑む程度のギミックはできるが、説法するなんてことはできない。馬から下ろして念仏の姿勢をとらせるのだって、三人がかりだったんだぞ。
悟空の信長も猪八戒の市も――無理だ(-_-;)!――という顔をしている。
「それは、ありがたい話ではありませんか」
「「「え!?」」」
オブジェの三蔵法師が口をきいた!?
☆彡 主な登場人物
- 織田 信長 本能寺の変で討ち取られて転生 ニイ(三国志での偽名)
- 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
- 織田 市 信長の妹 シイ(三国志での偽名)
- 平手 美姫 信長のクラス担任
- 武田 信玄 同級生
- 上杉 謙信 同級生
- 古田 織部 茶華道部の眼鏡っ子 越後屋(三国志での偽名)
- 宮本 武蔵 孤高の剣聖
- 二宮 忠八 市の友だち 紙飛行機の神さま
- 雑賀 孫一 クラスメート
- 松平 元康 クラスメート 後の徳川家康
- リュドミラ 旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ 劉度(三国志での偽名)
- 今川 義元 学院生徒会長
- 坂本 乙女 学園生徒会長
- 曹茶姫 魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
- 諸葛茶孔明 漢の軍師兼丞相
- 大橋紅茶妃 呉の孫策妃 コウちゃん
- 孫権 呉王孫策の弟 大橋の義弟
- 天照大神 御山の御祭神 弟に素戔嗚 部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主