巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
き~たかぜ吹き抜くぅ さむい~朝も~♪
最近口癖のようになった歌を口ずさみながら橋に向かう。
たった100mほどなんだけど、つい口ずさんでしまうほど寒い。
地球温暖化というのが世界の常識なんだけど、今年の令和は寒いよ。
歌を口ずさんでるから、いつもの倍ほどの二酸化炭素を吐き出しながら歩いてる。
き~よ~らかに咲いた~ かれんなは~な~を~♪
「は~な~を~♪」のところで吐き出す息はマックスになって、すれ違ったお婆さんが「おや、懐かしい(^・^)」と口をすぼめて喜んでくださった。
この歌は、4組に来ている数学の講師の先生のオハコ。
授業の行き帰りに小さく口ずさんでいかれるので、なんとなく伝染ってしまった。
「吉永小百合のヒット曲だよ」
真知子が優しい目をして教えてくれた。
前向きで、季節的にもピッタリなんで、いつしか覚えてしまって、今朝みたく寒いと、つい口ずさんでしまう。
検索すると1962年の曲で、1970年でも少し懐メロなんだけど、いい歌は残るんだよね。そして、令和の時代でもすれ違ったお婆さんに「おや、懐かしい(^・^)」とホッコリしてもらえるんだ。
いつものように寿川を渡ると町は昭和に変わって、奥宮駅を目指して歩く。
昭和の街は令和よりも平均して2度近く低いんだけど、通学途中はあまり寒くは感じない。
たぶん、寿川を渡る100mの間に温もっちゃうからだろうね。
それと、昭和での高校生活は充実してる。
部活はやってないけど、友だちの付き合いは刺激に満ちている。
みんなで万博に行ったり、浴衣を着て花火を見に行ったり、文化祭も大きな取り組みはできなかったけど、合唱コンクールも面白かった。
写真館のアルバイトは結婚式場の仕事がメインだけど、程よく人の人生を垣間見られて面白い。
近ごろはMTK(みんなで楽しく語る会)も盛り上がって、昭和の高校生のアグレッシブさに感動と発見の毎日。今月はクリスマスを中庭でやろうって、校内各方面に働きかけて、年末はさらに面白くなりそうだしね。
「「おはよう」」
ステレオの挨拶をされる……いつの間にか、左右にわたしと同じ宮之森の制服に挟まれている。
え、奥宮からいっしょになる友だちはいないはず。
「いやあ、今朝は冷えるからさあ(^▽^)/」
「くっついて歩こうよ(^▽^)/」
「あ!?」
やっと分かった、二人は猫又のマイとミーだ。
「後ろにアイがいる」
チラッと振り返ると、70年の高校生では一般的ではないピースサインをして、アイが笑っている。
「合図したら……」
「しゃがんで……」
「う、うん(^_^;)」
三人は志忠屋のマスターからわたしのガードを頼まれている。
最初は――なんのこっちゃ?――と思ったけど、万博のソ連館でユリアってコンパニオンのオネエサンからガガーリンバッジをもらって、それ以来、何度かヒヤッとさせられている。
「「いま!」」
ビュン!
しゃがむと同時に頭の上にレーザーみたいなのが走り、マイとミーが同時に走り出した。
走り出した二人は5mほど先で消えてしまい、ちょっとした風圧を感じた。
「次元の狭間で追いかけてるの」
アイが車道側を歩いてくれる。
「念のため学校までは付いていくから」
「う、うん……」
ガラガラガッシャーーン
奥宮駅の階段を上がっていると、オッサンと女の人が階段を踏み外して転げ落ちた。
「今のは(^_^;)?」
「知らなくていい」
やってきた電車に乗って、もうすぐ宮之森というところでアイがささやく。
「ガスタンク見て」
「ガスタンク?」
数秒見ていると、ガスタンクが――ボン――という感じに盛り上がって、すぐに収まった。
「ガスタンクの中で始末した」
「えぇぇ……( ゚Д゚)」
プシューー
電車のドアの開く音が敵が始末されて気化していった音のように聞こえた。
☆彡 主な登場人物
- 時司 巡(ときつかさ めぐり) 高校一年生
- 時司 応(こたえ) 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
- 滝川 志忠屋のマスター
- ペコさん 志忠屋のバイト
- 猫又たち アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
- 宮田 博子(ロコ) 1年5組 クラスメート
- 辻本 たみ子 1年5組 副委員長
- 高峰 秀夫 1年5組 委員長
- 吉本 佳奈子 1年5組 保健委員 バレー部
- 横田 真知子 1年5組 リベラル系女子
- 加藤 高明(10円男) 留年してる同級生
- 藤田 勲 1年5組の担任
- 先生たち 花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
- 須之内直美 証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
- その他の生徒たち 滝沢(4組) 栗原(4組)
- 灯台守の夫婦 平賀勲 平賀恵 二人とも直美の友人