大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・065『猫又のガード』

2023-12-06 16:03:11 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
065『猫又のガード』   



 き~たかぜ吹き抜くぅ さむい~朝も~♪


 最近口癖のようになった歌を口ずさみながら橋に向かう。

 たった100mほどなんだけど、つい口ずさんでしまうほど寒い。

 地球温暖化というのが世界の常識なんだけど、今年の令和は寒いよ。

 歌を口ずさんでるから、いつもの倍ほどの二酸化炭素を吐き出しながら歩いてる。

 き~よ~らかに咲いた~ かれんなは~な~を~♪ 

「は~な~を~♪」のところで吐き出す息はマックスになって、すれ違ったお婆さんが「おや、懐かしい(^・^)」と口をすぼめて喜んでくださった。

 この歌は、4組に来ている数学の講師の先生のオハコ。

 授業の行き帰りに小さく口ずさんでいかれるので、なんとなく伝染ってしまった。

「吉永小百合のヒット曲だよ」

 真知子が優しい目をして教えてくれた。

 前向きで、季節的にもピッタリなんで、いつしか覚えてしまって、今朝みたく寒いと、つい口ずさんでしまう。

 検索すると1962年の曲で、1970年でも少し懐メロなんだけど、いい歌は残るんだよね。そして、令和の時代でもすれ違ったお婆さんに「おや、懐かしい(^・^)」とホッコリしてもらえるんだ。

 いつものように寿川を渡ると町は昭和に変わって、奥宮駅を目指して歩く。

 昭和の街は令和よりも平均して2度近く低いんだけど、通学途中はあまり寒くは感じない。

 たぶん、寿川を渡る100mの間に温もっちゃうからだろうね。

 それと、昭和での高校生活は充実してる。

 部活はやってないけど、友だちの付き合いは刺激に満ちている。

 みんなで万博に行ったり、浴衣を着て花火を見に行ったり、文化祭も大きな取り組みはできなかったけど、合唱コンクールも面白かった。

 写真館のアルバイトは結婚式場の仕事がメインだけど、程よく人の人生を垣間見られて面白い。

 近ごろはMTK(みんなで楽しく語る会)も盛り上がって、昭和の高校生のアグレッシブさに感動と発見の毎日。今月はクリスマスを中庭でやろうって、校内各方面に働きかけて、年末はさらに面白くなりそうだしね。

「「おはよう」」

 ステレオの挨拶をされる……いつの間にか、左右にわたしと同じ宮之森の制服に挟まれている。

 え、奥宮からいっしょになる友だちはいないはず。

「いやあ、今朝は冷えるからさあ(^▽^)/」
「くっついて歩こうよ(^▽^)/」

「あ!?」

 やっと分かった、二人は猫又のマイとミーだ。

「後ろにアイがいる」

 チラッと振り返ると、70年の高校生では一般的ではないピースサインをして、アイが笑っている。

「合図したら……」
「しゃがんで……」

「う、うん(^_^;)」

 三人は志忠屋のマスターからわたしのガードを頼まれている。

 最初は――なんのこっちゃ?――と思ったけど、万博のソ連館でユリアってコンパニオンのオネエサンからガガーリンバッジをもらって、それ以来、何度かヒヤッとさせられている。

「「いま!」」

 ビュン!

 しゃがむと同時に頭の上にレーザーみたいなのが走り、マイとミーが同時に走り出した。
 
 走り出した二人は5mほど先で消えてしまい、ちょっとした風圧を感じた。

「次元の狭間で追いかけてるの」

 アイが車道側を歩いてくれる。

「念のため学校までは付いていくから」

「う、うん……」


 ガラガラガッシャーーン


 奥宮駅の階段を上がっていると、オッサンと女の人が階段を踏み外して転げ落ちた。

「今のは(^_^;)?」

「知らなくていい」

 やってきた電車に乗って、もうすぐ宮之森というところでアイがささやく。

「ガスタンク見て」

「ガスタンク?」

 数秒見ていると、ガスタンクが――ボン――という感じに盛り上がって、すぐに収まった。

「ガスタンクの中で始末した」

「えぇぇ……( ゚Д゚)」

 プシューー

 電車のドアの開く音が敵が始末されて気化していった音のように聞こえた。

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 

 

 

 

 


 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第12話《待てない未来がある・3》

2023-12-06 07:20:12 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第12話《待てない未来がある・3》 



 
 恵里奈が気を利かして敷いてくれたゴミ袋がクッションになったのか、運がいいのか、わたしは、検査の結果異常なし。

 白石さんのことが気に掛かったけど、ショック状態のため、鎮静剤で眠らせてあると聞き、怖い顔したお姉ちゃんといっしょに家に帰った。


 家に帰ると、お父さんとお母さんが心配顔で待っていた。二人とも無事なあたしを見てホッとした様子。

「迷惑かけました。すみません」

 他人行儀な挨拶をした。

「無事で何よりだ……よくやったな。白石って子、危ないところだったそうじゃないか」

「うん……それが何より」

 ふっと、お父さんとお母さんの顔が優しくなり、力が抜けたようにリビングのソファーに腰を落とした。

 すると、ゴトって音がして、横の棚に置いてあった土偶人形が袈裟懸けに割れて転がった。


「「「「あ……」」」」


 家族四人が、同じ声をあげた。


「……わたしが、ロープを巻いていたところで割れてる」

「お父さんが、安物買ってくるから……きっと最初からヒビがはいっていたのよ」

 お母さんが、片づけようとした。

「待ってくれ……あの出店の女の人は『おやくにたちます』って言ったんだ……それに、この割れ目は新しいよ……」

「……ハハ、身代わりだったのかもね。あたしが接着剤で直しとく」

 お姉ちゃんが陽気に言った。

 お姉ちゃんは大学で映画研究部に入っている。ただ映画を観るだけでなく、たまに自分たちで映画も撮ったりするので、こういう小道具じみたものの修理も上手い……という触れ込みだったけど、仕上がりは、割れ目にそってグレーの接着剤が盛り上がって、まるで袈裟懸けしたみたいだった。

「直してみて思ったんだけど、この土偶、猫じゃないかなあ?」

「猫?」

 お父さんが身を乗り出す。

「ほら、頭の両側でちょびっとだけ盛り上がってるのが耳。口と鼻の間にはうっすら筋が入って……」

「でも、手はまん丸で肉球とかは無いよ」

「土偶だからね……」

「いや、土偶の時代に猫はいないだろう」

「え、そうなの?」

「猫は遣隋使とか遣唐使の時代に入ってきたと言われてる。経文を齧ってダメにするネズミ対策用らしいぞ」

「あなた、その知識は古いわよ。弥生式土器にネコの足跡が点いてるのがあるわよ」

「え、そうなのか?」

「うん、ネコものの短編書くときに調べた」

「あはは、お父さんのは昭和の知識だもんね」

「ひょっとして釈迦誕生像とかじゃない?」

 習ったばかりの日本史の知識で話に加わると「ああ『天上天下唯我独尊』てやつだね」とお姉ちゃん。

「むつかしい言葉知ってんのねぇ」

「あ、呪術〇戦に出てくるわよね、そのフレーズ」

 主婦作家でもあるお母さんは守備範囲が広い。

「でも、釈迦誕生像は右手を上げてるんだぞ」

 なるほど、この土偶は左手を上げてる。

「うん、それに土偶と言うのは仏教伝来以前のものだぞ」

「まねき猫じゃないかなあ」

「「「あ」」」

 わたしの閃きに声を上げる三人。

 豪徳寺といえばまねき猫、ただそれだけの閃きだったんだけどね。

「左手を上げてるのよね、たしか……」

 スマホでチェックするお母さん。

「右手は金運、左手は人脈」

「ほう、人脈かあ……」

 

 まねき猫土偶のお蔭か、その夜、白石さんのご両親がお礼にこられ、明くる日には、白石さん本人がやってきた。



「助けてもらってありがとう」

 と、いうのかと思った。

 が……違った。

「待てない未来があるの」

「え……」

「わたしは、百回生まれ変わったの……それで、百回目を終わりにして、百一回目にジャンプしようとしたところだったのよ」

「どういうこと?」

「白石優奈という子は、使用期限が切れているの。このまま大人になっても無駄に生きるだけだから、だから、終わりにしようと思ったの」

「ええ……?」

 あたしは二の句が継げなかった……。


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 香取            北町警察の巡査

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