大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

鳴かぬなら 信長転生記 157『時計を合わせる』

2023-12-20 09:55:29 | ノベル2
ら 信長転生記
157『時計を合わせる』謙信 




 御注進ーーーーーーーーーん!


 念のために出しておいた物見がもどってきた。

「申し上げます。お屋形様ご指示の通り丑寅の方角を探ってまいりましたが、兵馬俑一万余は長城の手前二キロの地点で方角を変えて東進しております」

「馬の脚は?」

「はい、半ば以上は歩兵でありますので、並足であります」

「時速5、6キロというところか。歩兵が半ば以上ならいつまでも出せる速度ではない、途中で休憩を入れる……とすると、一時間後の敵の位置は……」

 砂上に地図を広げさせて、兵馬俑どもの動きを予想する。

 上杉の最精鋭とは言え、たかだかニ十騎。

 正面からの攻撃はあり得ない……と、敵も味方も思っている。

 情報から敵の一時間後の位置を推定、トンと石を置き、東西南北から石に向かって矢印を入れる。

「二時間後、四方から同時に仕掛ける。仕掛けると言っても、それぞれ五騎。深入りはせずに、敵がうるさく感じたところで散る。敵が脚を止めたら再び仕掛ける。中軍が緩んだところで川中島を仕掛ける」

 地図を囲んだ中からウサ耳の宇佐美定満が顔を上げる。

「引き際は、どうなさいます?」

「三時間後、事の進捗に関わらずひいて長城の破れから扶桑に引き上げてちょうだい。目的はあくまでも……」

「信長殿への愛ですね」

「あのね、いくら『愛』がトレードマークだからって、なんでも愛でしめくくらないでよね、愛ちゃん」

「はい、承知しています。兵馬俑の注意をひいて信長……三蔵法師さま御一行の安全を図ること」

 そう言うと愛ちゃんこと直江兼続は愛の前立ての付いた兜をかぶり直し、それが合図だったように、宇佐美定光はウサ耳を立て直し、柿崎景家は柿、甘糟景持は雨傘の兜の緒を締めて馬に乗った。

「それじゃ、時計の時間を合わせるわよ。他の人もいっしょよ!」

 二十騎全員が腕時計を見る。

 ザザ

 全員美少女化しているのに、時計は男のように左手首の外側。

 内側に付けているのは自分一人、まあいいけどね。

 時計そのものは全員電波時計なので、時間を合わせる意味はないんだけど、真珠湾攻撃の時、赤城艦上で搭乗員は一斉に時計を合わせて出撃したって、去年転生した攻撃隊長が言っていたのであやかっている。

「五秒前……4……3……2……1……テーッ!」

 カチ!

 一つ一つは幽けき音だけど二十人がいっせいにやると迫力。

 あとは無言で馬腹を蹴って、五騎づつ四方に散った。



☆彡 主な登場人物
  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主
   

 
 


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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第25話《え、うそ……!?》

2023-12-20 05:17:10 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第25話《え、うそ……!?》さくら 




 歳のわりに『なごり雪』が好きだ。


 東京で見る雪は最後ねと さみしそうに きみが呟く……


 なんてフレーズはたまらない。歌い出しのとこも好き。


 汽車を待つ君の横で ぼくは時計を気にしてる 季節はずれの雪が降ってる……


『なまり歌』の鹿児島弁バージョンを聞きながら、兄貴と明菜さんの品川の別れの写真を見ている。

 アツアツで入れたココアがすっかり温くなって、薄い膜が張っている。

 あたしは、なんとか写真から恋人同士の別れの情感を汲み取ろうとしたんだけど、数十枚撮ったどれを見ても、情感の情の字もない。

 さみしそうに呟くこともなく、時計も気にしない。「さようなら」がこわくて俯くこともなくヘラヘラする兄貴。なんとも絵にならない。

 どう見ても、いつも出会っている知り合い同士の何気ない会話にしか見えない。

 スマホを置いてココアを飲む。薄皮がキモイけど一気に飲み込む。

 アッチッ(◎Д◎) !

 思ったより、中は熱かった。と、閃くものがあった。

 さみしそうに呟くことも時計を気にすることもないほど、この二人の想いは熟している。だから妹にも、それとなく見学させた?

 表でお父さんと犬養のおばさんが笑顔で挨拶してる。でも、お正月なのに「おめでとうございます」の言葉が無い。

 そうだ、お向かいさんは喪中だよ。

 お葬式を思い出した。葬儀会館ではあたしもお姉ちゃんも胸に迫るものがあって、白布を取ってもらったおいちゃんの顔を見たとたんに涙が溢れて、お姉ちゃんも「うっ」てせき上げてハンカチで口を押えてた。
 でも、おばさんはニコニコして、おいちゃんの耳もとで「ほら、さつきちゃんとさくらちゃんよぉ!」って、いつもの調子で目をつむったおいちゃんに大きな声。「あら、いやだ、いつもの調子になっちゃった」と笑ってた。

 どちらも平然とした態度の中に意外に熱いものが隠れているのかもしれない。


 暖かいココアと共に胸を満たすものがあった。


「ちょっ、じゃま」

 お母さんが、洗濯物のカゴを持って、あたしを跨いで行った。

 あたしの部屋は三階の六畳だけど、ベランダの物干しと直結していて、今みたいにタイミングが悪いと、お母さんに跨がれてしまう。それに、元々和室だったとこをフローリングの部屋にしたので、ドアなどという気の利いたものは無い。襖のような引き戸なので、音楽なんか聴いていると気配に気づかないこともある。

 ベチョ。

 足首に冷たい感触……目を向けると、お風呂で下洗いした自分のおパンツが転がっている。きちんとカゴに押し込んでいなかった自分が悪いんだけど胸くそが悪い。

「渋谷に映画観にいってくる」

――いいご身分ねぇ――

 背中で、そう言ってるお母さんをシカトして、おパンツを洗濯機に放り込むと、ピンクという以外に可愛げのない機能性だけのブルゾン羽織って家を出る。なんとなくだけど『宇宙戦艦ミカサ』の最新作を観る気にはなっている。


 ギュ


 豪徳寺のホームに立つと、いきなり腕をつかまれた。

 え!?

 そのままホームのベンチに座らされたかと思うと、そいつはジャケットの襟を立て、毛糸の帽子を目深にした。

「四ノ宮クン……!」
「シ……後ろは見ないで!」

 そう言って、ヤツは馴れ馴れしく腕を肩に回してきた。

 背後の階段から、三人ほどが駆け上がってくる気配がしたけど、言われたようにシカトして、直後にやってきた電車に乗った。

 あ……!

 ドアが閉まると同時に発見されたようで、三人のオジサンとオニイサンが口をOにして見送っている。ナリからしてマスコミ関係の人と見当がついた。

「なにか、やらかしたあ(´¬_¬) ?」

 こいつには、いろいろと前科がある。

「世間には暇な人もいるんだ(-_-;)」

 あたしが、渋谷に映画を観にいくんだと言ったら、ヤツも付いてくると言う。料金を出してくれるというので、アッサリOK。

 が、渋谷の改札を出たところでアウトだった。

「四ノ宮忠八さんですね!?」

 マイクを持ったレポーター風のオバサンを先頭に、カメラさん、音声さん、その他が待ちかまえていた。

「なに、この人たち?」

「すまん、巻き込んじまった」

「元華族の四ノ宮さん、お家を出られたというのはほんとうなんですね!?」

「こちらの女性は!?」


 え(OωO ) ?


 わけわかめのあたしだった……。


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
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