大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

RE・かの世界この世界:220『和を以て……敵中の作戦会議』

2023-12-17 17:03:41 | 時かける少女
RE・
220『和を以て……敵中の作戦会議』テル 



 振り返ったイザナギ殿は、カッと目を見開いて一瞬で顔を赤くした。


 ブチギレる寸前の父、オーディンにソックリで、思わず腰を落としてしまった。
 ブチギレた父は、その直後には四方八方に憤怒の気を放射させ、接見の間であれ、宮殿の大広間であれ、麗しの神苑であれ、爆砕してしまう。
 そのために、ヴァルハラ(父の宮殿)に務める者や近侍の者は腰を落として、憤怒の気の爆発と共に後ろに跳び退る。
 むろん、憤怒爆散の速度に追いつける者は多くはない。慈悲と医療の女神エイルとその弟子たちは治療の為に三日は働きづめになった。

 わたしは四歳で爆散の速度に追いつけるようになったが、着ている服を保護するところまではいかず、十歳で――オヤジに呼ばれた時はボロを着ていく――という知恵が付いた。「ヒルデ、おまえはいくつになっても女らしくならん」とボヤいていたが、それは、そう言う訳なのだ。
 しかし、わたしのトレードマークである漆黒の甲冑を作るにあたっては大いに役に立ったがな。

「主神オーディンの娘にしてヴァルキリアの主将! 堕天使の宿命を背負いし漆黒の姫騎士! 我が名はブリュンヒルデなるぞ!」

 この名乗りは伊達ではない、親父の憤怒の爆散に耐えてきた苦労と忍耐との歴史が染みついているのだ。弱小の魔族どもは、この名乗りを耳にしただけで泡を吹いて悶絶したものだ。

 だから、このイザナギ殿の表情に、わたしは脊髄反射で腰を落としてしまったのだ。

 しかし、イザナギ殿の反応は意表を突いた。


 なんと、この創造神は、次の瞬間双眼に大粒の涙を漲らせ、深々と頭を下げたのだった。


「申しわけない、心配をかけてしまいました。オノコロジマから幾月、わたしと行動を共にしていただき、やっと黄泉の国にたどり着きました。やっと妻とも出会えました。妻は黄泉戸喫(よもつへぐい)をしてしまい、現世に戻るには黄泉の神々との協議が必要……しかし、あまりに時間がかかり過ぎです。春闘だってこんなにはかかりません、20世紀の大学の大衆団交だってここまで時間を取りません。ラインを送ったのにずっと既読マークが付かないようなものです。人の世なら縁を切って終わりにも出来ましょうが、わたしたちは神です。天之御中主神 (アメノミナカヌシの神)以来いく柱もの神々に創造を託された身として、これ以上遅延を忍ぶわけにはいかず……申し訳ありません」

「大丈夫だイザナギ殿。我々は苦情を言いに来たのではない。みんな心配なのだ、自分のことのようにな。オノコロジマからここまで一緒に来て、イザナミさんのことは、もう私たち自身のことでもあるんだ」

 わたしの言葉を受けて、テルも顔を上げた。

「そうですよ、ここに来るまでにこの国の様々な姿も見ました。なんだか予告編を飛ばして本編を観てしまった感じですが、この黄泉の国のミッションをクリアーしなければ、全てが幻になってしまいます。みんなで駆け抜けましょう」

「テルのねえちゃんの言う通りだ、二号だけど、桃太郎だ。鬼退治しなきゃカッコつかねえ」

「退治するとは決まってないぞ」

「そういうケイトだって、矢をつがえたままじゃねえか!」

「うっせえ!」

「イザナギ殿、一度状況を分析して、役割と持ち場を考えて対処してはどうでしょうか。義経公は、その点を見逃されたため、手柄の割には……いや、余計なことを言う所でした。まあ、共通理解と申しましょうか……」

「ネット的に言いますと、並列化ということでしょうか」

「お、雪舟ねずみも進んだこと言うじゃない。わたしが言おうと思ったのに」

「すみません、ヨネコさん(^_^;)」

「ありがとうございます……聖徳太子のために残しておこうと思ったのですが『和を以て貴しとなす』というところですね」

「では、作戦会議ということにしましょう」

 タングニョ-ストが締めくくり、初めての作戦会議。

 すでに、黄泉の国、声を潜めながらも団結の気を漲らせる『黄泉の国を目指す神々の会』であったぞ。


 
☆ ステータス
 HP:20000 MP:400 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
 持ち物:ポーション・300 マップ:16 金の針:60 福袋 所持金:450000ギル(リポ払い残高0ギル)
 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)
 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)
 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 
 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト) 思念爆弾
☆ 主な登場人物
―― かの世界 ――
  テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫
 ケイト(小山内健人)  照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
 ブリュンヒルデ     主神オーディンの娘の姫騎士
 タングリス       トール元帥の副官 ブリの世話係
 タングニョースト    トール元帥の副官 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 
 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児
 ポチ          シリンダーの幼体 82回目で1/12サイズの人形に擬態
 ペギー         異世界の万屋
 ユーリア        ヘルム島の少女
 その他         フギンとムニン(デミゴッドブルグのホテルのオーナー夫婦)
 日本神話の神と人物   イザナギ イザナミ 那須与一 桃太郎 因幡の白兎 雪舟ねずみ 櫛名田比売 ヨネコ
―― この世界 ――
 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長
 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第23話《惣一の元旦》

2023-12-17 08:56:41 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第23話《惣一の元旦》惣一 



 思い立って明治神宮に行くことにした。


 豪徳寺からは小田急で駅六つ。参宮橋で降りればすぐそこだ。むろん初詣ではあるが、大げさに言うと、いろんな可能性を試してみたいという子供じみた気持ちからでもあった。逆に言うと、艦の不具合で急に与えられた休暇自体になにか運命めいたものを感じてもいたのかもしれない。


 なんの運命か……それは分からない。


「さつき、今日はバイト休みなんだろ。いっしょに初詣行かないか」

「お気遣いありがとう。でも、すぐ成人式だから、そのときに兼ねて行く」


 運命の一つが消えた。夕べ年越し蕎麦を食べているときに、さつきが見せた涙の訳を、それとなく聞いてやろうかと思ったが、どうやら見透かされている。何があったか分からないが、自分で解決するんだろう。オレがしゃしゃり出るようなことでもない。


 午前九時、自衛官としては課業中の時間だが、元旦の世間はまだ早朝と言っていい。駅までの道のりで開いている店は、デミーズとすみ屋ぐらいのもので、通行人も少なく、つい思索的になってしまう。高校生のころは、さくらと同じように友だちといっしょに大晦日の夜から初詣のハシゴをやり、そのまま渋谷やアキバで遊び、家に帰るのは元旦の夕方などという無茶をやっていた。

 さくらは、さすがに明け方には帰ってきて、風呂に入って、さっさと寝てしまった。健康的なものだ。

 オレが考えていることは、さつきが初詣に付き合うよりも、もっと確率の低いことであった。
 例えて言うなら、戦艦大和が初弾で、40キロの最大射程で敵艦に命中させるほどの確率もない。


 型どおりの参拝を済ませると、隣接する代々木公園に足を向けた。中央広場まで行って運命に出くわさなければ、そのまま参拝をしたということだけで帰ろうと思っていた。

 中央広場の外周ジョギングコースに差しかかると、運命の方から声を掛けてきた。

「あら、やっぱり佐倉君じゃないの!?」

 ジョギングの途中らしく、足踏みしながら盛大に白い息を吐きながら明菜が言った。

「ハハ、こんなこともあるんだな」

「よかったら、広場で待ってて。あと半周だから」

「ああ、そうするよ」

 明菜は、防大の同期だ。任官を拒否し、民間企業に就職している。国際関係論が専攻で、在学中に目が外に向きすぎた学生だった。外資系の会社に就職し、オレが陸上勤務だった半年ほど付き合いがあった。海上勤務になると自然に付き合いが無くなっていまに至っている。休暇のときに携帯を掛けてもアドレスが変わっていた。元の会社から探れば番号や住まいなど直ぐに分かることだが、オレはやらなかった。連絡が無かったということは、もう会わないという意思表示なのだろうから。


「おまたせ」


 湯気を立てながら、明菜が戻ってきた。


「歩きながら話そうか」

「うん、クールダウンしなくっちゃね」

 そう言うと、明菜はウエストポーチからウィンドブレーカーを取りだした。

「あかぎに乗ってるみたいね?」

「なんで知ってるんだ?」

「ハハ、引き渡し式の時カメラに写ってた。ユーチューブで見たわよ」

「そうか」

「必死で捜したって、言ってもらいたかった?」

「ハハ、明菜が、そんなことするわけないじゃないか」

「誰かさんは、するかもって……少しは賭けたんだよ」

「そっちから、切ったくせに」

「迷ってたんだ……仕事。残念、こんなとこで会うんだったら辞表なんか出さなかったのに」

「可愛いこと言うなあ」

「佐倉君て晴れ男じゃん。運のある男だと思ってた。だから運が付いてるようなら、もう少し……そう思って……一年か」

「辞めてどうする?」

「国に帰る」

「いつ?」

「明日」

「何時の新幹線?」

「内緒ぉ~」

 おどけて言うと明菜はブレーカーを着込んで足早に先に歩いて振り返って、傍らの木を指さした。

 だれかのイタズラだろう、桜の造花が枝に紛らせてある。

「元日のサクラなんて、早咲き過ぎ!」

「そうか、正月らしくて気がきいてるじゃないか」

「アハハ、ひょっとしたら、超遅咲きの間抜け桜かもね」

 そう言うと、ウエストポーチからスマホを出してパシャパシャと写真を撮る――いっしょに撮ろうよ――ぐらい言うかと思ったが、軽く手を振ると「じゃあね」と一言、ピクニックでも行くような足どりで駅の方に向かった。オレは声を掛けることさえしなかった。


 寝る前にスマホをチェックすると、桜の写真が送られてきていた。


 例の桜は――写真に撮ってアップすると幸運になる――という触れ込みで某放送局が仕掛けたものだった。スクロールすると東京都の公園管理規則に違反するとかで都の公園管理局が文句を言っている。

 曰く――これを見過ごせば、模倣する者が出たり、より過激な仕掛けやイベントをやられて収拾がつかなくなる――という見解が書かれている。

 一を許せば万になる! 許すな放送局のサラミ戦術! これくらいシャレじゃん  公園より都知事を管理しろ! 安すぎる企画、マスコミおわた!

 いろいろコメントが付いている。

 一を許せばとサラミ戦術は、アジアの某国に言ってほしいと思うが、正月には無粋。

 久々に親父と飲んで、親子そろって寝おちしてしまった。

☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 香取            北町警察の巡査
 
 


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