大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・193『春の七草』

2023-12-05 14:01:41 | 小説4
・193
『春の七草』メグミ 



 せり~なずな~ごぎょう~はこべら~ほとけのざ~すずな~すずしろ~


 思わず口をついて出てしまう。

 早春の西之島は休戦状態とは思えない長閑さで、春の七草を鼻歌のように節をつけてそらんじてしまう。

「七草って、みんな同じ順序で言うよね、なんでだろ?」

 巫女服にタスキ掛けのハナちゃんがアレコレ摘みながら聞く。

「ああ、和歌になってるのよ」

「ワカって『なにわづに さくやこのはな ふゆごもり いまや春べと さくやこのはな』って、やつだよな?」

「そうそう、ハナちゃん、序歌覚えたんだ」

「アハハ、かるた会の最初にやるからね。それに、最後の『さくやこのハナ』って、すごく感じいいし(^▽^)」

「あ、そうだね。なんだかハナちゃんの歌みたいだね」

「だろ! でもさ……『すずなすずしろ』で終わったら、字足らずじゃね?」

「ああ、最後に『これぞ七草』って締めになるのよ」

「え……せりなずな・ごぎょうはこべら・ほとけのざ・すずなすずしろ……これぞななくさ。ほんとだ!」

「でしょ」

「アハハ、和歌っていうか日本語っておもしろいよなぁ」

「あ、それは、ただの雑草だよ」

「え、ああ、こっちは分かりにくいなあ」

 漢明とは、あれ以来休戦が続いている。島の南部にはわずかだけど漢明軍が駐留しているが、大統領の命を守って大人しくしている。

 年末には氷室神社の敷地だけ返還されて鳥居に賽銭箱だけの神社だけど、三が日には島民やボランティア兵たちが初詣して賑わった。創建の時、シゲ老人が『本殿は海と空だ!』と言い放った時は横着なインチキ神主と思ったけど。これはいいアイデアだ。海と空なんて、核兵器やパルス兵器を使っても壊しようがない。
 神明造の鳥居は材木が四本あれば簡単にできるし、あり合わせの箱を賽銭箱にしてしめ縄の一つでもかけておけば立派な神社だ。

 ちょっと怪し気な神主(シゲ老人)と巫女(ハナ)だけど、なんだか神代の昔からのやっているという雰囲気で好ましい。


「どう、少しは採れたかい?」

 
 お岩さんが気の毒なほどの汗をかきながらやってきた。

「いちおう採ったけどよ、全部OKかどうかは自信ねえぞ」

「どれどれ……ああ……すこし違うのが混じってるねえ」

「使える?」

「まあ、仕方ないよ、戦闘でひっくり返されて雑草と一緒くたに生き残った七草だからね」

「足りねえ分はレプリケータだな」

「まあ、島のみんなに行き渡らせようと思ったら仕方ないさ。あ、それより、昼から久々に作戦会議だって、ベースで二時から」

「え、二時! じゃあ、急がなくっちゃ」

「なんだ、厨房はハナひとりかぁ?」

「終わったら、一気に作るから、昼寝でもして待ってな。あ、薬塗んの忘れないようにな」

「もう飽きたぜ、あの薬、傷跡がヒカヒカしちまってよ」

「ちゃんと治さないと、傷跡残ったままになるよ」

「いやあ、もう、こんなガラッパチな性格だからよ、こんくらいでいいよ」

「大事にしな、女の子なんだから!」

「わ、分かったよ。あ、メグミの持ってってやるよ、かしな」

「え、いいの?」

「ハナは力持ちだからよ、メグミこそ飯くらい落ち着いて食っていけよ」

「ありがとう、じゃ、頼むね。行こう、お岩さん」

「ああ、じゃあな、厨房は頼んだよ」

「おお、任しとけ(^▽^)」

 
 ドンと胸を張って手を振るハナ。


 笑顔が、ちょっといびつ。敵に待ち伏せ攻撃(147『待ち伏せ』)をかけた時に首の半分を失って、ラボで再生してやった。新造した方が早いのだけど「オリジナルがいい」と言って修理で済ませている。この戦争が本格的に終わったら、きちんと時間をかけて治してやろうと思う。

 二時からの会議は五分前には始まり、児玉元帥から気になる報告があった。

「敵は小笠原の東方、春の七草海山群、ホトケノ座に拠点を築きつつあります」

 さっき、七草を採っていたばかりなので、一瞬冗談かと思った。

 
 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 




 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第11話《待てない未来がある・2》

2023-12-05 06:37:57 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第11話《待てない未来がある・2》 




「そんなとこで、なにをしてるんだ!!」


 膠着した戦場に打ち込まれたロケット砲みたく無神経で野太い大声が噴き上がってきた。

 まくさは、こともあろうに体育科一番の無神経男の久田先生を連れてきた。

 キャァァァァァァ!

 校舎の外周にいた子達も屋上のあたしたちを見つけて悲鳴をあげる。

 ウ!

 白石さんは、うろたえてバランスを崩してしまった(;゜Д゜)!

「危ない!」

 わたしは、とっさに右手で白石さんを抱え、左手で柵の手すりを掴んだ。でも二人の体は屋上の縁から半分以上はみ出し、わたしの左手だけで、かろうじて二人分の体重を支えている。

「白石さん、柵を掴んで!」

「う、うん……」

 たった今まで死のうとしていた白石さん。こうやって物理的に死の淵に晒されてみると、恐怖で、とっさには体が自由にならない。

「は、はやく~(#>△<#)!」

「う、うん……」

 手すりに掴まろうとすると、反動をつけなければならず、そのためには、あたしを押さなければならない。少し冷静になると、そんな迷いが出てきたようだ。

「お願い、あたし、もう限界……」

「うん……いくよ」

 白石さんは、最小の反動を付けて手すりに掴まった。しかし、あたしの左手は限界を超え……て……いた。


 キャーーーーーーーーーーーーーーー!


 自分のだか人のだか分からない悲鳴がして、あたしは真っ逆さまに屋上から落ちてしまった。

 ビシ!!

 右脇から首の左側に痛みが走った。

 屋上のドアノブに結びつけていたロープがいっぱいに伸びきって、あたしをタスキがけに締め上げている。

 屋上と校舎の下で人の気配。

「大丈夫か!?」

 久田先生の威勢がいいだけの声。大丈夫じゃないことは見れば分かるじゃん! 

 そう思いながらも、ロープに胸が締め上げられ声が出せない……どころか息が出来ない(;゜Д゜#)。

 ガラガラ!

 上と下で窓が開いた。

「だめだ、届かない!」

「しっかりしろ、さくら!」

 担任の藤田先生の声がした。あたしは、どうやら三階と四階の間で宙ぶらりんになっているようだ。

「がんばれぇ! さくら!」

 だれかの声がして、足の先に手がかかった。その手はジャージの裾まで伸びてきて足首を掴もうとして、力尽きた……で、いっしょにジャージを引きずり下ろしてしまった。

 へっちゃらパンツ穿いてて良かった……そう思った。

 プツン

 ロ-プが切れた(;'∀')。


 気がついたら救急車の中だった。


 体中が痛い。それに、なぜか喉に違和感。吐き出すともどしそうなので、無理に飲み込む。そこで、また意識が無くなり、本格的に意識が回復したのは病院のベッドの上だった。

「さくら、気がついた?」

「う、うん。体中痛いけど……白石さんは大丈夫?」

「大丈夫だよ。ちょっと精神的なショックで、同じ病院で寝てるけど」

「よかった……」

 そう言いながら、話している相手ががまくさであることが、やっと分かった。

「まくさ、あんた最悪の先生呼んだね。よりにもよって、久田先生はないよ。騒ぐことしか能がないんだから」

「ごめん、あの先生しかいなくて。でも、他の先生やら生徒もすぐに気づいてみんなで助けようって……恵里奈が機転きかして、枯れ葉が詰まったゴミ袋の山を作ってクッションにしたんだよ(^_^;)」

「あ、救急車の中で飲み込んだの……葉っぱのカケラか」

 なんだか、可笑しくなった。

「さくら、大丈夫?」

 一瞬、わたしが入ってきたのかと思った。ほら、ドッペルゲンガーとか!

「どこか打った? あたしよ、さつき。あんたのお姉ちゃんだわよ!」

 普段は意識してないんだけど、やっぱり姉妹。似てるもんだとしみじみ思った……。
 

☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 香取            北町警察の巡査


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