巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
アイ・マイ・ミー、三人の猫又が敵をやっつけた。
奥宮駅の階段をオッサンとオネエサンが転げ落ちてきたのにはビックリしたんだけど、それは戦いの一部と言うか、ごく端っこのことで、決戦はガスタンクの中で行われた。
ガスタンクが、一瞬盛り上がったのが、そのシルシらしいんだけど、ガスタンクが上下するのはいつものことだし、目の前でバトルが行われたわけでもないので実感はない。
念のために学校まで付いて来てくれたけど、学校の制服着てるし、鼻歌歌いながらだったりするし、たった今何人何十人かの敵をぶちのめしてきたようには見えないから「クリスマスのあれ」「うまくいくと」「いいね!」三人で言ってくれたクリスマスイベントの事の方が気になった。
おーーい(^▽^)/
職員室前の廊下の窓が開いて手を振る二人はたみ子と真知子。
交渉がうまくいったんだ!
こっちも駆けだす、二人も本館前の車寄せに出てくる。
「やってもいいって!」
「生徒会は物品の貸し出しとかぐらいしかできないけど、共催でいいって、学校の許可も出たわよ。まあ、予想通り」
「生徒会自身は動かないけど、あちこち声はかけてくれるんだって!」
たみ子の方がテンション高く、真知子は落ち着いている。
MITAKAでもそうだったけど、真知子は、どこかフィクサーという感じがする。なにやっても冷静だしね。
「こんな感じ」
真知子のバインダーには――イブの集い――という地味なタイトルの企画書が挟まれている。
イブの集い(仮称)を通して、母校・宮之森高校への帰属意識、仲間意識を涵養。近年、三無主義などと呼ばれる不活性な状況を打ち破り、宮之森生みんなが希望と連帯感を持って新年、新学年を迎える起爆剤にしたい。
「チカラ入ってるでしょ」
「アハハ」
微妙にアジビラ。
三島事件とかあったし、去年までは学園紛争とかもやってたし、まあ、そういうことへのパロディー感が滲み出ていていいと思う。
「ほんとうは夕方から夜にかけてやりたいんだけど、さすがにねえ……」
企画書には、終業式終了後14時~17時までとなっている。
「まあ、日の入りが早いからフィナーレの頃はいい感じになるわよ! 中庭って、東西に開いてて日の入りとかは、すごくドラマチックだし!」
「問題はいろいろあるけど、昼前には終業式終わっちゃうから、14時まで、みんなを引き留めておくことが大事だなあ……」
そうだよ、一学期の終業式だって、早いクラスは10時半には終わってたからね。まして年の瀬の二学期、クリスマスイブだし、さっさと帰っちゃうよね。
「むろんプランはある!」
首一つ高いところから言われるんで、迫力倍増のたみ子。
「フフ、気合入ってるのよ、たみ子さん」
「試験中、テストが終わったら、中庭でフォークソングやるの。10分とか20分とかだけどね。去年、新宿フォークゲリラとかあったから、ギター弾いて歌ってりゃ、ぜったい人が集まる!」
「うん、本番で歌う歌とか、あらかじめ小出しにやっておけば、本番に繋がるとたみ子女史は言うのよ」
「要は、本番に向けての盛り上げ方次第!」
「あと、放送とか照明とか、解決しなきゃならない問題は多いけど、一番の難関は学校の許可だったからね。それが乗り越えられたから、あとは、わたしたちの準備次第かな」
「ウフフ、万博の時以上に燃えるかもねえ! 頑張ろうね!」
「はいはい、その前に期末テスト。切り替えて行こうね、たみ子」
わたしは、ほとんど聞き役になって三人で教室に向かう。
「あ、グッチ、土足ですよ!」
教室の階まで来ると、いつも通りに来ていたロコに指摘される。
「あ、ヤバイ!」
階段を駆け下りようと回れ右すると、廊下の窓の向こう、ガスタンクがビクッと上下するのが見えた。
あっちは、また始まってしまったのかもしれない(^_^;)。
☆彡 主な登場人物
- 時司 巡(ときつかさ めぐり) 高校一年生
- 時司 応(こたえ) 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
- 滝川 志忠屋のマスター
- ペコさん 志忠屋のバイト
- 猫又たち アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
- 宮田 博子(ロコ) 1年5組 クラスメート
- 辻本 たみ子 1年5組 副委員長
- 高峰 秀夫 1年5組 委員長
- 吉本 佳奈子 1年5組 保健委員 バレー部
- 横田 真知子 1年5組 リベラル系女子
- 加藤 高明(10円男) 留年してる同級生
- 藤田 勲 1年5組の担任
- 先生たち 花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
- 須之内直美 証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
- その他の生徒たち 滝沢(4組) 栗原(4組)
- 灯台守の夫婦 平賀勲 平賀恵 二人とも直美の友人