大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・066『例の許可がおりる』

2023-12-13 13:15:38 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
066『例の許可がおりる』   



 アイ・マイ・ミー、三人の猫又が敵をやっつけた。

 
 奥宮駅の階段をオッサンとオネエサンが転げ落ちてきたのにはビックリしたんだけど、それは戦いの一部と言うか、ごく端っこのことで、決戦はガスタンクの中で行われた。
 ガスタンクが、一瞬盛り上がったのが、そのシルシらしいんだけど、ガスタンクが上下するのはいつものことだし、目の前でバトルが行われたわけでもないので実感はない。

 念のために学校まで付いて来てくれたけど、学校の制服着てるし、鼻歌歌いながらだったりするし、たった今何人何十人かの敵をぶちのめしてきたようには見えないから「クリスマスのあれ」「うまくいくと」「いいね!」三人で言ってくれたクリスマスイベントの事の方が気になった。

 おーーい(^▽^)/

 職員室前の廊下の窓が開いて手を振る二人はたみ子と真知子。

 交渉がうまくいったんだ!

 こっちも駆けだす、二人も本館前の車寄せに出てくる。

「やってもいいって!」

「生徒会は物品の貸し出しとかぐらいしかできないけど、共催でいいって、学校の許可も出たわよ。まあ、予想通り」

「生徒会自身は動かないけど、あちこち声はかけてくれるんだって!」

 たみ子の方がテンション高く、真知子は落ち着いている。

 MITAKAでもそうだったけど、真知子は、どこかフィクサーという感じがする。なにやっても冷静だしね。

「こんな感じ」

 真知子のバインダーには――イブの集い――という地味なタイトルの企画書が挟まれている。

 イブの集い(仮称)を通して、母校・宮之森高校への帰属意識、仲間意識を涵養。近年、三無主義などと呼ばれる不活性な状況を打ち破り、宮之森生みんなが希望と連帯感を持って新年、新学年を迎える起爆剤にしたい。

「チカラ入ってるでしょ」

「アハハ」

 微妙にアジビラ。

 三島事件とかあったし、去年までは学園紛争とかもやってたし、まあ、そういうことへのパロディー感が滲み出ていていいと思う。

「ほんとうは夕方から夜にかけてやりたいんだけど、さすがにねえ……」

 企画書には、終業式終了後14時~17時までとなっている。

「まあ、日の入りが早いからフィナーレの頃はいい感じになるわよ! 中庭って、東西に開いてて日の入りとかは、すごくドラマチックだし!」

「問題はいろいろあるけど、昼前には終業式終わっちゃうから、14時まで、みんなを引き留めておくことが大事だなあ……」

 そうだよ、一学期の終業式だって、早いクラスは10時半には終わってたからね。まして年の瀬の二学期、クリスマスイブだし、さっさと帰っちゃうよね。

「むろんプランはある!」

 首一つ高いところから言われるんで、迫力倍増のたみ子。

「フフ、気合入ってるのよ、たみ子さん」

「試験中、テストが終わったら、中庭でフォークソングやるの。10分とか20分とかだけどね。去年、新宿フォークゲリラとかあったから、ギター弾いて歌ってりゃ、ぜったい人が集まる!」

「うん、本番で歌う歌とか、あらかじめ小出しにやっておけば、本番に繋がるとたみ子女史は言うのよ」

「要は、本番に向けての盛り上げ方次第!」

「あと、放送とか照明とか、解決しなきゃならない問題は多いけど、一番の難関は学校の許可だったからね。それが乗り越えられたから、あとは、わたしたちの準備次第かな」

「ウフフ、万博の時以上に燃えるかもねえ! 頑張ろうね!」

「はいはい、その前に期末テスト。切り替えて行こうね、たみ子」

 わたしは、ほとんど聞き役になって三人で教室に向かう。


「あ、グッチ、土足ですよ!」


 教室の階まで来ると、いつも通りに来ていたロコに指摘される。

「あ、ヤバイ!」

 階段を駆け下りようと回れ右すると、廊下の窓の向こう、ガスタンクがビクッと上下するのが見えた。

 あっちは、また始まってしまったのかもしれない(^_^;)。

 
 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第19話《大橋むつおとの邂逅》

2023-12-13 07:16:22 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第19話《大橋むつおとの邂逅》さつき 




 諦めない好奇心。

 恋は一筋縄ではいかないもの。


 帰りの電車と寝る前の一時間チョットで『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』は読み終えてしまった。

 ラノベらしく「アハハ」と笑っているうちに、主人公のまどかは乃木坂学院高校の演劇部を立て直し、友だちである大久保忠友クンが、タダトモから恋人になっていく大団円になる。読後感が爽やか。そして……。


 諦めない好奇心 恋とは一筋縄ではいかないもの


 この二つを胸に刻ませてくれる。人生捨てたもんじゃないよね。アッと驚く奇跡がおこる♪ ちょっと古いAKBの歌の中にあるような文句を、読み終わったら自然に思わせてくれる。

 世間は御用納めも済んだ二十八日。今日もバイトは早番だ。

「人生捨てたもんじゃないかもね」

「アッと驚く奇跡がおこるかも」

 遅番で交代の秋元クンと聡子には別々に呟いておいた。ささやかな種まき。

 しかし、アッと驚く奇跡が、その直後あたしに起こるとは思ってもいなかった。

 三時に仕事を終えて、書店の前のスクランブル交差点に出ようとすると、東急のガード下から自転車が走ってきて、横断中のオジサンに接触した。

「あ、あぶねえ!」の声だけ残して、自転車は道玄坂方向へ走り去っていった。

 オジサンは、転倒した拍子に腕を痛めたようで、腕を庇いながら起きあがれないでいる。みんな一瞥はくれるのだが、手を貸してやろうという人は誰も居ない。

「あたしの肩に掴まって」

 オジサンを信号の変わり目ギリギリで渡してあげることができた。


 当て逃げです!


 オジサンを連れて、そのまま駅前交番に向かった。

「いや、もう大丈夫ですよ。お嬢さん、どうもありがとう」

 オジサンは、関西なまりのアクセントでお礼を言った。

「防犯カメラで確認しますね……」

 男のお巡りさんが録画をチェック。もう一人の女性警官が被害届を書きながら事情を聞いてくれた。

「オジサン、お名前聞かせてもらえます」

「え、あ、はい大橋です」

「……下のお名前もお願いします」

「むつおです」

「大橋……むつおさん……ですね」

「はい、住所は……」


 え……?


 と、あたしは驚いて、二十分後喫茶SBYの四人がけにオジサン。いや、大橋さんと座っていた。


「昨日『乃木坂』読んだとこなんですよ」

 そう言うと大橋さんはびっくりした。

「え!? あの本読んでくれはったのは、日本中に数百人しかいてないんですよ( ゚Д゚)!」

 あたしは正直に書店でバイトしていることやら『乃木坂』が返本寸前になったのを、社員販売で安く買ったこと。きっかけは、自分自身高校演劇の出身で、作中に出てくる修学院高校に片思いの人がいたこと。そいで「諦めない好奇心。恋とは一筋縄ではいかないもの」のコンセプトに励まされたことを正直に言った。

「ありがとう。あれは、まどかという主人公に託して、ボクなりのエールを書き込んだもんです」

「エールですか、対象は、やっぱりティーンに向けて?」

「ええと……全年齢かなぁ……自分も含めて」

 大橋さんはかいつまんで自分自身と作品について照れながら話してくれた。

 びっくりしたことが幾つかあった。

 いささか波瀾万丈な半生を送ってこられたこと。見かけは五十代前半だけど、とっくに還暦を過ぎていること。そして、東京を舞台にした作品が多いけど現場には行ったことがないこと。で、この年末に、作品の舞台と作品にズレがないことを確かめ(乃木坂学院と修学院高校が実在すると言うと驚いていた)あわよくば次の作品のアイデアを拾って帰りたいこと。版元と渡りを付けておきたいこと。売上は二の次で、ただ書き続けていられたらいい……などなどを不器用に話した。

「すんませんなあ、僕ばっかり話してしもて。え、あ、サインですか?」

「……スマホの番号教えてもらっていいですか?」

 本にサインをしてもらいながら自然に聞いた。

「あ、ボク携帯は持たへんのんですわ」

「ハ?」

 絶句した。作品の中には、携帯やスマホがポンポン出てくる。で、作者自身は原始人みたくスマホレス!

 ポロロ~ン ポロロ~ン

 そこで、あたしのスマホが鳴った。駅前の交番からだった。

 大橋さんと接触したのは若い学生風だけど、特徴がないので絞り込めないこと、操作は続けることを済まなさそうにお巡りさんが言っていた。

「いやいや、ええんですわ。怪我もしてへんし、さつきさんとも仲良しになれたし」

 貸してあげたスマホでお気楽に答えていた。

「根拠のない楽観。難しいけど座右の銘です」

 で、パソコンとリアルのアドレス、固定家電話の番号を教えてもらった。


 気分良く家路につくと、お母さんからスマホで買い物を頼まれ、豪徳寺の駅前をスーパーに行ったり文具屋に行ったり。

 家に帰ると、掃除やらお正月の準備なんか言いつけられてさんざん。

「仕方ないわよ。お母さん原稿書きで忙しいから」

 二階から下りてきたさくらが気楽に言う。

「ほい、おみやげ」

「え、温泉饅頭?」

 こいつ、高校生の身分で箱根温泉?

 ちょっと腹立つ。
 
 おっと――根拠のない楽観――噛みしめて、年の瀬あれこれのルーチンにとりかかる佐倉シスターズでありました。


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 香取            北町警察の巡査
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