大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・195『広報係・胡盛媛中尉』

2023-12-18 15:53:26 | 小説4
・195
『広報係・胡盛媛中尉』孫悟兵 




 虫歯治療の為に麻酔をかけたらこんな感じだな。


 痛みは無いが、物言わぬ虫歯が地味にその存在を主張している。

 いや、腎臓結石をやって内視鏡カテーテルを突っ込まれた時の感じにも似ている。他人には言わないが、この孫悟兵、体のかなりの部分が生身だ。なによりも脳みそは、混じりけなしの100%自然のままアル。

 神社裏の崖から釣り糸を垂らすのが、ここのところのルーチンになりつつある。
 釣りはうまくない。義体やロボットなら、釣りのスキルをダウンロードすれば、並の名人程度には釣れる。
 生身だから、大いに連れる時もあれば、まるきりの坊主ということもある。

 そこが面白い。

 釣り糸を垂れながら、ボンヤリ思う。

 この戦の行方はどうなるんだ?

 全面戦争をやる気持ちは日本にも漢明にもない。たとえ勝利したとしても、とんでもない傷を負って、当分は今の国際的地位を失ってしまう。
 人類の活動範囲は百年前に太陽系(主に月と火星だけだが)に広がり、パルスギが採掘されるようになった現在では、銀河世界へ飛び出すのも時間の問題だと言われている。
 その変革の時に、枢要な国際的地位と力を保持し続けるためには、国力の疲弊は避けなければならない。

 だから、決定的な戦局を迎えることもなく、麻酔をかけたような平穏が続いている。

 自分の商売は、漢明においても日本においても、この西之島、アメリカ、ヨーロッパにおいても、拡大こそしていないが手堅くやっている。月や火星でも気まぐれに取引することはあるが、本腰を入れるつもりはない。十分に根が張っていない木が枝葉を伸ばしても仕方がないアルヨ。

 カサコソ

 神社の方で気配。

 神社は漢明の占領地にあるが、宗教施設なので非武装ならば出入りは自由になっている。大晦日から正月にかけては島民やボランティア兵、それに珍しもの好きな漢明兵も混じって初日の出を拝んだりしていた。

 折悪しく、神主のシゲも巫女のハナも留守にしている。

 しかたない、この孫大人が相手をしてやるアルカ……

「あのぅ、ちょっとすみません」

 きれいな女言葉に振り返ると、漢明の第一種軍装に身を包んだ女性中尉が見下ろしていた。

「お参りの仕方が分からないので、教えていただけると嬉しいんですが」

 国営放送のアナウンサーかと思うほどきれいな日本語だが、軍服に敬意を表して漢明語で応える。

「新米の中尉さんが神社に用事なのかい?」

「え、あ……漢明の方なんですか?」

 むこうも漢明語に切り替える。

「孫悟兵という年寄なんだがね、漢明と日本と両方相手に商売させてもらっとる。両方に顔がきくんで、釣りをしながら留守番をしとるんですよ」

「あ、それはよかった。こちらの神さまに着任のご挨拶にあがったんです」

「おお、それはそれはご奇特なことで」

「すみません、釣りをしていらっしゃるところでしたのに」

「いやいや、下手の横好き……お……今になって」

 グンと糸がひいて、竿がギギっとしなってきた!

「あ、大きいですよ!」

 グン ググン!

「おっとっとぉ……!」

「手伝います!」

 第一種軍装の上を脱ぐと、軽々と岩場に下りてきて、竿を曳いてくれる。

 緩急の力の入れ具合も良く心得ていて、二分余りで目の下一尺はあろうかという見事な鯛が釣れた!

「そうだ、お参りのお供えにしよう!」

「え、いいんですか?」

「いいもなにも、あんたの助けが無きゃ逃げられてましたよ」

 ころあいの石を見つけてお供えの台にする。

「中尉さん、お名前は?」

「あ、申し遅れました。守備隊広報係りの胡盛媛と申します」

「胡盛媛……たしかチルル空港の」

「あ、はい……第一次制圧隊長をやっていました胡盛徳の娘です」

「あ……そうでしたかぁ、お父上は残念なことでした」

 胡盛徳大佐は一次攻撃で瀕死の重傷を負って、一時は沖の艦隊に収容され、二度目の攻撃でお岩さんたちの待ち伏せ攻撃で戦死している(147『待ち伏せ』)。

「あ、いえ、軍人ですから(^○^;)」

 日本語で応えた、理由は主語を付けずに言えるからだろう。

 広報担当に選ばれるだけあって、言葉の感覚がいいようだ。


 日本式のお参りは二礼二拍手一礼であると見本を見せると、きれいに所作を決めた。


「教えていただかなかったら中華式でやるところでした、あれだと三跪九拝です……軍服、クリーニングしたてでしたから」

「アハハ、なるほど、ここに膝を突いたら洗濯のやり直しだぁ」

「ありがとうございました」

「そうだ、せっかく二人で釣った鯛だから、二枚におろして半分ずつにしよう」

「え、いいんですか?」

「いいさ、ここに供えていても酒飲み神主のサカナになるだけだからね」

 
 そのまま、お岩さんの食堂に行き、きれいにおろしてもらった。


 盛媛の明るさと礼儀正しさに、お岩さんも喜び、父の胡盛徳大佐の話になると、食堂に居合わせた者たちは、ちょっとシンミリしてしまった。

 休戦中とは言え、敵同士なので、いっしょに乾杯した後、盛媛中尉は鯛の半身をぶら下げて帰って行った。


「あ……孫大人、盛徳大佐ってロボットだったよ」

「え、あ……」

 盛媛中尉、いっしょに竿をひいた時の感触は、ぜったい人間だ。義体であったとしても義体率は50%は超えていない。お岩さんも、この孫悟兵も、そのあたりの見間違いはしない。


 その夜、漢明守備隊の広報誌が出て、昼間のエピソードが新広報係りの紹介と共に出ていた。

 胡盛媛中尉は盛徳大佐の養女であった。

 漢明は、ロボットと人間の養子縁組を認めていなかったが、劉宏大統領がPI後に民法の改正を示唆して実現したのだそうだ。

 この話を知った児玉元帥は越萌マイとして睦仁親王と共に盛媛中尉に「氷室神社参拝に感謝」と電信を打った。


☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟

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魔法少女なんかじゃないぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧ヘ≦)! 2『るり子の新型スマホ』

2023-12-18 06:27:24 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃないぞ これでも悪魔だ 悪魔だけどな(≧ヘ≦)!

2『るり子の新型スマホ』 
 
 これは旧作『小悪魔マユ』を改作したものです



「やあ、おはよう」


 今朝も門衛の田中さんが、いつものように挨拶してくれた。

 田中さんは元自衛官。五十五歳の定年で、この聖城女学院の門衛さんになった。だれに対してもキチンと顔を向け、目を見て挨拶してくれる。地獄の門番ケルベロスを連想する。もっともケルベロスは首が三つもあるので、大勢やってくる人間どもの顔を見逃すことはねえけどな。

 田中さんは、たった一人で、首も一つなのにケルベロスをやってのけているぞ。

 ウワサだけど、田中さんは千二百人いる生徒や教職員の顔と名前を全部覚えているらしいぜ。一度チャンスがあったら、ゆっくり話がしてみたいと、マユは思っているぞ。

 だけどな、マユは、転校というカタチで人間の世界にやってきて間がないんだ。魔界の補習のためにやってきているんだ。あまり余計な時間はとりたくねえ。さっさとやることをやって魔界に戻りてえのが本音ってとこだぜ。


 教室に行くと、いつものように、半分くらいの生徒が来ていた。


「おはよう、里依紗」

「あ、おは……」「おは……」「お……」


 里依紗のそっけない返事。沙耶と知井子も簡単すぎる挨拶しか返ってこねえ。事情は聞かなくても分かってる。この三人は、昨日、骨髄性の難病で休職中の恵利先生の家に行ってきやがったんだ。

 マユが写メにちょっとした細工をしたのが嬉しくて。ただ送信すればいいだけのそれを、わざわざ電車に乗って、恵利先生に会いに行った。で、赤ちゃんの清美ちゃんにも対面しやがった。


「「「メッチャかわいい(〃▽〃) !」」」


 女子高生のボキャ貧な感嘆詞も恵利先生は嬉しかった。

 恵利先生の嬉しさには、二つの理由がある。

 教え子がわざわざやってきてくれたことと、持ってきてくれた清美ちゃんの写メだ。

 画面にタッチすると十七歳になった清美ちゃんの姿になるように魔法がかけてある。それも見るたびに、微妙に表情なんかが変わるようになっていて、見飽きることがねえ。

 そして、なんと言っても、赤ちゃんはかわいいもんだ! で、つい長居しちまって、遅く帰った三人は、宿題ができてなかった。

 で、三人はホームワークシェアリングをやって、分担したのを写しあっている最中ってわけだ。

 三人の必死の形相にマユは、小悪魔らしくほくそ笑んだぜ。


 ウワアアアアアアアア!


 窓辺の日当たりの良い席から歓声があがった。


「チョーおいしそう!」

「オタカラスィーツじゃないっすか!」

「でしょでしょ(^▽^)/」


 三番目の声の主は、クラス一番のタカビーの指原るり子。

 こいつは小悪魔のマユがほれぼれするほどに意地が悪い。

 この窓ぎわの特等席も、席替えのときにズルをして、取り巻きどもと占拠したんだ。
 恵利先生がいたら、こんなズルは出来ないんだけど、副担のトンボコオロギこと坂谷のたよりなさに乗じてやりやがった。
 みんな不満に思ってるけど、だれも面と向かって文句を言わねえ。だからマユも干渉はしねえ。これでも悪魔だからなψ(ΦwΦ;)ψ 。


「キャー、このパンナコッタ、ヤバイよ!」

「このティラミスもヤバ~イ!」

 取り巻き連中が、半分お追従、半分本気で、羨ましがってやがる。

「どーよ、8Kの3Dだから、すごくいいっしょ。むろん、このスィーツも帝都ホテルの特製だから、そこらへのスィーツとは比べモノにはならないんだけどねぇ」

 るり子は、最新のスマホで、昨日食べてきた帝都ホテルのケ-キバイキングの写メを見せびらかしてやがる。

「チ、うるさいなあ……」

 知井子が小さく舌打ちした。

「なんか言ったぁ……?」

 取り巻きの一人が耳ざとく聞きとがめて、るり子の取り巻きたちがいっせいに三人を睨んだぜ。

 ジロ

「あいつら、いまごろ宿題やってますよ、るり子さん」

「オホホ、ごめんなさいねぇ。そんなとこで、ドロナワで宿題やってるなんて気がつかなくってぇ!」

 るり子がトドメを刺す。

 キャハハハハ(^Д^) (*`艸´)(^▢^) 

 取り巻きたちがいっせいに笑った。知井子が立ちかけたが、里依紗が止めた。

――挑発にのったら、宿題できなくなる――

「あら、素敵なスマホじゃない。マユにも見せてくれる(^〇^)!?」

 マユは満面の笑みを浮かべて、るり子たちに近づいたぜ。

「あら、マユも見たい。どうぞどうぞご遠慮なくぅ」

 背中に里依紗たちの視線を感じながら、マユはるり子たちの輪の中に入っていったぞ。

「このサバランなんて、いけてるのよぉ、ラム酒に漬けた生地使ってるからとても香りもいいの。残念ねぇ、香りはしないけど、3Dの映像で我慢してねぇ」

 るり子が、鼻を膨らませやがる。るり子が得意になったときのクセだ。

「あ~ら、もったいないこと。このスマホ、匂いも再現できますのよ。知らなかったぁ?」

 マユはカマしてやったぜ。

「ほんと?」

 タカビーだけど、るり子はこのへんは素直……というか単純。

「ちょっとかして……このアプリをダウンロードしてと……」

「「「おお!!」」」

 教室にラム酒の混ざった、サバランの甘い香りが満ちたぜ。

「さすがルリさん! 元華族!」

「あ、それナイショ(;^_^」

 と言いながら、るり子は積極的には制止しなかった。しかし、取り巻き達は「華族」と「家族」の区別がつかず、キョトンとしていたぜ。サバランの甘い香りの中で、しぶしぶという自慢顔でるり子は説明したがった。

 里依紗たちの怖い顔に、マユはウィンクで応えたぜ。


 るり子のスマホの噂は、昼頃には学年中に広まって、るり子の自尊心は東京タワーのてっぺんぐらいに高くなっちまったぜ。


 そして、それは昼休みのキャフェテリアで起こったぞ。

「ねえ、ルリちゃん。噂聞いたわよ。ちょっと見せてよ!」

 カレーライスをトレーに載せた隣のクラスのタカビーが寄ってきた。ここのキャフェテリアのカレーはよその学校みてえな業務用なんかじゃねえ、自家製で、聖城女学院の名物メニューなんだぞ。

「いいわよいいわよぉ」

 るり子は気前よく、スマホを取りだしてスイッチをいれた。

「またやってる」

 いまいましいので、里依紗たちはキャフェテリアを出て、中庭からガラス越しにそれを見ていた。

 ギャーーーーーーー!!

「なんか変だわよ……?」

 沙耶が、ベンチから立ち上がった。キャフェテリアの中は大騒ぎになっていた。

「な、なにがあったのかしら!?」

 立ち上がった三人にマユは説明してやりたい衝動にかられた。

――あのスマホには、仕掛けをしておいたんだ。写したものはちゃんと時間経過した姿と匂いで現れるようにしてあるんだぜ――

 最初に再生したときは、写したときの姿と匂いがしているけど、次に再生したときは、写したときから同じ時間がたったときのそれになって出てくるんだ。

 で、るり子がスィーツを食べてから、十二時間ほどが経過していた……。

 スマホから再生したスィーツたちは、食後十二時間たった状態だ。姿はキャフェテリアの名物に似ていたぜ(๑ ิټ ิ)。
  

☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生
  • 指原 るり子   マユの同級生 意地悪なタカビー
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