大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

くノ一その一今のうち・90『潜入城塞都市』

2023-12-21 11:52:49 | 小説3
くノ一その一今のうち
90『潜入城塞都市』そのいち 



 日干し煉瓦の家や店舗、少しは鉄筋らしいのも混じっているけど、ちょっと見すぼらしい。
 しかし、商業地区らしい活気はあって、道路というか通路というかは微妙にうねっていて、でたらめに紐やら電線やらケーブルやらに商品や看板や洗濯物がぶら下がり、道路というか通路というかには商品やゴミ袋が我がままに場所を占め、年末特番の障害物競走をやるのにいいロケーション。住民や買い物客は慣れていて、よそ見したりお喋りしながら器用に行きかっている。
 
 お祖母ちゃんが子どもの頃、曽祖母ちゃんの手伝いで走り回っていた闇市というのは、こんな感じだったのかもしれない。

『区角割りされてるようですね……』

 スカーフに化けたえいちゃんが耳もとで呟く。

 高さ3mほどの壁が家や店の間から覗いている。壁のところまで行ってみると、所どころに正規のものやそうではない出入り口があって、人も犬も自由に行き来している。

 壁を抜けると車が通れる道、道を挟んで商業地と住宅地が混在していて、その向こうには多少の低層の鉄筋コンクリート。多少というかまばらなのは、商業地区同様に古い町並みを抱えているからだと思われる。

 皇居と丸の内を合わせたよりも大きな城塞都市だけども、ちょっと手狭。

 街の活気は、育ち盛りの子どものよう。子どもが、お下がりの服や靴が窮屈で、陽気に身もだえしているみたいだ。

 町を一巡して道路に戻って北に目を向けると、他の地区とは異なる城壁。城壁の向こうにはお伽の国のような宮殿が聳えている。

『長瀬の街に似ています』

 ああ、長瀬も駅から商店街が伸びていて、どん詰まりには西洋の城郭を思わせる大学の楼門が聳えている。

 しかし、向こうに聳えているのは日本の平和な学問の府などではない。

 実力で中央アジアの国々を従わせようという悪の城だ。

『見てください、あれを』

 えいちゃんに促されて目を向けると、夜間仕様になったプロジェクターが通りの広告や商店の明るさを圧倒していた。


 新首都建設!


 英語と現地語のタイトルが浮かび出て、数秒で別の標語に入れ替わる。

 中央アジア国家連合建設!

 続いて滲み出てきた地図はA・B・C・D四か国を間に挟み高原の国をも含んだものだ。

 そして、新首都として明滅しているのは、いまの高原の国の都だ!

 オオ! すごい! さすが! やるもんだ! ついにきたんだ! 待ってました! 大同団結! 盟主は草原の国だ! 我らが草の国だ!

 いろんな賛辞が飛び交って拍手が起こった。

 草原の国の国民は、国家連合が出来て、そこの盟主に自分たちの国王が収まると思っている。そして、それがそれこそが正義であると高揚しているんだ。

『……ノッチ、街の外に車の気配……軍用車両です』

 えいちゃんの感覚はさらに研ぎ澄まされたようで、わたしよりも先に気が付いた。

――見に行こう――

 裏通りを駆け抜けて東側の城壁に上る。


 グゴゴゴゴ……


 数両の戦車と兵員輸送車が城壁に沿って走っている。

『あの時の生き残りですね』

 わたしとえいちゃんとで混乱に陥れた機甲部隊の生き残りが帰ってきたんだ。

『北側に出入り口があるようですね』

「よし、行ってみよう!」

 もう少し街の様子を探りたかったけど、忍者の勘は――さらに奥に進め――と言っていた。

 魔石も再び熱を帯びてきた。警告か鼓舞か、わたしは忍者の勘に従った。

 

☆彡 主な登場人物
  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
  • 豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟
  • ミッヒ(ミヒャエル)   ドイツのランツクネヒト(傭兵)
  • アデリヤ         高原の国第一王女
  • サマル          B国皇太子 アデリヤの従兄
 

 

 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第26話《まだやってこない新年》

2023-12-21 07:30:25 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第26話《まだやってこない新年》さつき 




 大晦日はショックなことが二つあった。


 一つは、ご贔屓の服部八重のAKPの卒業。いろんな意味でショック。

 個人的には同年配に属するAKPは好きだ。あたしの思春期の時代とも重なり、人並みのファンであるという自認もある。他のメンバーよりも服部八重は矢藤萌と並んでAKBの大黒柱。

 卒業はショックだったけど、そろそろという気持ちはあった。でも、あの発表はないと思う。

 AKPのイベントならともかく、紅白という国民的行事、その出演者の一人に過ぎない八重の個人的な卒業は発表すべきではない。おかげで二輪明治さんの出演後のインタビューも吹っ飛んでしまったし、そのあとの大御所西島三郎さんの五十回目にして最後の出演が霞んでしまった。

 AKPって、いつの間に「わがままな子」の集団になってしまったんだろう。


 ま、それはいい。しょせん芸能界の話だ。


 大晦日の日『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』の作者大橋さんが挨拶にこられた。
 こちらはサイン会とか出版にかかわる営業とかじゃない、渋谷駅前で自転車に撥ねられた時に、たまたまお助けした(第19話《大橋むつおとの邂逅》)お礼にこられたのだ。

「どうもありがとう。これから大阪に帰ります。最後に顔見てお礼言いたかっただけです。ほんなら」

 と、あっさり一言だけ言っていかれた。過不足のない大人の対応だと思った。


 で、このあと、別口のあっさりが来た。


「よう、さつきじゃないか!」

 本棚の整理をしていると声をかけられた。

「あ、島田さん……!」

 高校時代、思いを寄せていた修学院高校の島田健二が立っていた。

「昼の休憩いつ? 飯でも食おうや」

 で、あっさり昼食の約束をした、


 いつも程よく空いているアケボノという洋食屋で待っていた。


 島田さんは、高校時代、名門の修学院高校演劇部の舞台監督をやっていた。

 やることに無駄が無く、他校の生徒への気配りもできる有能な人だった。二度ほどコンクールの打ち合わせのあとマックに行ったことがある。

「さつきは、思っているより華があるよ。帝都は役者の使い方間違えてる」

 リップサービスかと思ったら、小さいけど分厚いノートを出してページを繰った。

「なんですか、それ?」

「ああ、レパ帳。やりたい芝居が書いてあるんだ……うん、さつきなら、ざっと見ただけで五本くらい主役張れる芝居がある」

 町井陽子、井上ひさし、木下順二、イヨネスコ、大橋むつお、チェ-ホフ等から、女だけ、あるいは女が男役をやってもおかしくない芝居をたちどころにあげた。

 あたしはメモを取りながら、大した人だと思うと共に、憧れてしまった。


「おれたち、将来付き合うことになるかもしれないな」


 ドキッとするような一言をマックの帰り道に聞かされ、それっきりになっている。

 そんなトキメキを感じていたのは、ほんの三十秒ほど。

「あ、さつき、こっち!」

 奥のシートから声がかかった。大晦日の昼食なんで、ランチで済ます。卒業後のあれこれを喋っているうちに時間が過ぎていく。ほんの数秒スマホをいじっただけで、高校時代の気分にもどしてくれた。

「どう、あの時の将来が来たんだと思うんだけど?」

「え、ああ……」

 直截な言い方に、あたしは赤くなって俯くだけだった。


 アケボノを出てびっくりした。


 二十歳過ぎの女性が、敵意に満ちた目で、あたしたちを睨んでいる。


「新しい彼女って、この子ね!?」

「そう、一応合わせてケジメはつけておこうと思って」

「このドロボウネコ!」

 彼女の平手が飛んできて、思わず目をつぶってしまった。

 平手は寸止めで終わってしまった。島田さんの手が彼女の手を掴んだからだ。

「ショックかもしれないけど。こういうのはアトクサレ無くサッサとやった方がいいから」


 あたしは、この舞台進行のようなさばき方がショックだった。


「あたし、仕事あるから」


 そう言って、逃げるようにバイトに戻った。

 なにをしているのか分からないうちにバイトが終わり、家に帰ると、思いかけず自衛隊にいっているソーニーが帰ってきていた。


「よう、さつき……」


 あたしの表情を読んだんだろう、それ以上は何も言わずに、もう食べたはずの年越し蕎麦をいっしょに食べてくれた。

 兄貴って、こんなに良いヤツだったっけ……そう思うと、涙が流れてきた。


 そして、テレビでは服部八重が卒業宣言をしていた。


 あたしは、卒業はおろか、今年が、まだ終わっていない。



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
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