巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
令和の時代から昭和の宮之森高校に通ってる。
多少の問題はあった、学校のトイレがみんな和式で音姫も付いてないとかね。体育の時間はブルマだとかね。むろん授業はつまらないけど、それは令和でも同じだから問題ない。
狭い学校の付き合いだから断言はできないけど、人間はおもしろい。
1970年は、前の年に学園紛争というのが完全に敗北。10円男に聞くと、主題は日米安保阻止だったとか。
「ええ、なに言ってんの、安保無しでどうやって日本守るの?」
「それは……」
いろいろ十円男は言ったけど、ぜんぶタワゴト。やれ、革命だ! 造反有理だ! 国連だ! 話し合いだ! 共産主義だ! ゲバラだ! 毛沢東だ!
あ、面白かったのがゲバラ。
10円男は「チェ!ゲバラ!」と、かならず名前の前に「チェ!」って言うから「尊敬する人に、どうしていちいち『チェ!』なんて舌打ちすんのよ?」と聞いたら、スペイン語かなにかで「チェ」っていうのは「やあ!」とか「よ!」とかの呼びかけの言葉で、まあ「ダチ」ってな意味なんだって。
あっちの国で「同志ナニナニ」って言うのと変わらない。
で「チェ加藤!」って呼んだらムッとしてた。
ホームルームや委員会でも、けっこうアグレッシブ。MITAKAじゃ、けっこう盛り上がってるしね。真知子、たみ子、ロコ、佳奈子も前向きな子たちで、いっしょに万博旅行したのは一生の思い出になるかもしれない。
クリスマスイブの24日に『イブの集い』をやるために『フォークの集い』をやっている。
まだ二回やっただけだけど、手応えは十分。
『エーデルワイス』でスッゴク盛り上がった。直前に『青年は荒野を目指す』をやってたんだけど、その三倍は盛り上がって、特に女子は四倍くらいに熱が入っていた。
ちょっと不思議なんで家に帰ってから、改めてググってみる。
ああ、そうなんだ!
『エーデルワイス』は『サウンドオブミュージック』ってミュージカル映画の挿入歌で、映画は65年のアメリカ映画で、アカデミー賞を五つも獲ったっていう不朽の名作。小学校で習った『ドレミの歌』も、この映画の歌だって発見して、グッと親近感。みんな、この映画『サウンドオブミュージック』の印象があるから、あんなに盛り上がったんだよね。
これをスラスラギターで弾いた10円男は、根は案外のロマンチストなのかもしれない。
その昭和の宮之森の数少ない不満が一個。
土曜日にも学校がある!
週休二日っていうのは世界の常識! お祖母ちゃん流に言うと神武以来の決まり事! だと思うんだけど。
でも、今までは、そんなに気にしなかった。
でも、今週は疲れたからね……ひとしおなんだと思う。
ええ、すごいじゃん( ゚Д゚)!!
『フォークの集い』も三日目の今朝、商店街をロコといっしょに学校に向かっていたら、真知子とたみ子が追いついて来て「演劇部が大発明してくれた!」と言って、教室に行く前に演劇部の活動場所である図書分室に向かった。ドアを開けて、思わず三人口を突いて出たのが「「「ええ、すごい( ゚Д゚)!!」」」だよ。
まるで、本物のファイアーストームだよ!
四角い箱の中に薪がくべてあって、そこから真っ赤な炎がボウボウと燃え盛ってるんだけど、これが、ちっとも熱くない。
「ええ?」「なんか、仄かに涼しいくらいですよ」「どういう仕掛けぇ?」
不思議に思っていると、ジャージ姿の美人さんが腰に道具袋(あとで聞いたらガチ袋というらしい)を下げて入ってきた。
「千秋、どういう仕掛けなのぉ?」
美人さんは智満子の知り合いで千秋というらしい。
「あ、演劇部の部長の牧内千秋。こっちはMITAKAの仲間」
「どうも、ほんとはもっと早く仕上げるつもりだったんだけど、まあ、気に入って頂けた感じだからよかった」
「で、どういう仕掛けになってるんですか?」
ロコが子犬みたいにピョンピョン。
「いったん、スイッチ切るわね」
ペチ
見ると箱からはコタツみたいなコードが伸びていて、そのスイッチを切ると、炎は瞬間で輝きも勢いも失って沈んでしまった。
ええ?
「覗いてみて。説明するよりも早い」
どれどれ(._.)
オオ! なるほどぉ!
箱の中には小さな扇風機とライトが入っていて、箱の縁には、ダミーの薪と、その内側に炎の形に切られた赤とオレンジの布切れが張ってある。
「スイッチ入れると、扇風機で布が吹きあがって、ライトに照らされて、まあ、ファイアーストームに見えるわけです」
「す、すごい発明です!」
ロコは、もうノーベル賞受賞者を見る目だよ(^_^;)
「ううん、昔からある手法よ。でも、こんなものでも女子だけのクラブだとなかなかでねえ。まあ、今日からは、ほかの照明も含めてなんとかするから」
「そうね、これでいちだんと盛り上がるわ、ありがとう千秋」
「いいよいいよ、役に立ったんならこっちも嬉しい」
放課後、三回目の『フォークの集い』が盛り上がったのは言うまでもありません。
おかげで、わたしのLED照明も忘れられて、ホッと胸をなでおろしたよ。
☆彡 主な登場人物
- 時司 巡(ときつかさ めぐり) 高校一年生
- 時司 応(こたえ) 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
- 滝川 志忠屋のマスター
- ペコさん 志忠屋のバイト
- 猫又たち アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
- 宮田 博子(ロコ) 1年5組 クラスメート
- 辻本 たみ子 1年5組 副委員長
- 高峰 秀夫 1年5組 委員長
- 吉本 佳奈子 1年5組 保健委員 バレー部
- 横田 真知子 1年5組 リベラル系女子
- 加藤 高明(10円男) 留年してる同級生
- 藤田 勲 1年5組の担任
- 先生たち 花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
- 須之内直美 証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
- その他の生徒たち 滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部)
- 灯台守の夫婦 平賀勲 平賀恵 二人とも直美の友人