大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・194『作戦会議中断』

2023-12-12 11:49:45 | 小説4
・194
『作戦会議中断』メグミ 




「困ったことに評判がいいんです」


 役人の頃の癖が抜けないのか、及川市長の言葉に深刻さは無い。

「春の七草海山群というのは、21世紀日本が付けた名前なのですが、まるで海底にお花畑でもあるような名前なので、いかにも平和ニッポンというイメージです。むろん、日本の領海でも排他的経済水域でもありませんので、浮体構造の調査拠点を作ることに苦情は言えません」

「七つあるうちの『ほとけのざ』にした狙いはなんだい?」

 お岩さんが身を乗り出す。

「七草のうち、あそこが一番浅いんです。他の海山は水深1000mを超えますが、ほとけのざは120mしかありません」

「狙いは、なんと言うとるんじゃ?」

 シゲ老人が神主服のまま手を挙げる。

「パルス資源の調査と開発です」

 フフ

 作戦室に緩いせせら笑いが湧く。

 春の七草海山群は太平洋プレートの上にある。我々の西之島は小笠原諸島の東にあって共にフィリピン海プレートの上にある。

 パルス鉱の鉱脈はフィリピン海プレートの東側に集中し、太平洋プレート側ではほとんど確認されていない。

 パルス鉱はプレートが隣接する別のプレートに潜り込んだところで発生するようで、潜り込む側のプレートでの発見例は少ない。僅かに発見されたものも、純度が低く採掘には膨大な資金が必要であるので、本気で採掘に乗り出す国は無かった。

「調査に名を借りた軍事拠点の建設ではないのか?」

 元オーストラリア軍の大佐が腕を組んだまま発言した。

「それが……」

 及川市長が続けようとすると、モニターを操作していた情報官が「劉宏大統領のスピーチが入ります!」と手を挙げる。


『漢明国民のみなさん、そして、これをご覧になっている世界の方々にご挨拶いたします。漢明大統領の……最近は春華と呼ばれることが多いですが、劉宏です』

 春華 春華 春華 春華 春華 春華 春華 春華! 春華♡……の文字が漢字、英語で流れる中に、劉宏がその半分、残りは春華=劉宏などが流れる。

『私たちは休戦状態ではありますが、西之島と戦闘状態にあり、日本国とは準戦時状態で国交が途切れています。しかし、わたしたちは戦争ばかリやっているわけではありません。世界二位の人口を養い、かつ国際社会の一員として生きています。そのために、世界のあちこち、関係諸国のご理解を頂きながら資源の開発と採掘に乗り出しました』

 88888888888 好! 好! 8888 好! ♡ (^▽^) 好!

 仕込もあるんだろうけど、王春華の姿をした新劉宏は国の内外で人気がある。

『どうもありがとう、漢明国民のみなさん、日本のみなさん、世界のみなさん』

 オーディエンスに応える劉宏の笑顔は200年前『ローマの休日』をやった時のアン王女の笑顔にも例えられ、PI前と比べて、その支持率は倍以上に高くなった。

 オホン

 及川市長の咳払いで、緩みかけていた空気がピリっとする。

 が、次の春華、いや、劉宏のスピーチで緩んでしまう。

『西之島のみなさん、わたしたちは、このほとけのざで少しずつ進めて参ります。パルスガ、パルスギなどの高純度のパルス鉱は望むべくもありませんが。パルス鉱、パルスラ鉱など低純度の鉱石の採掘に力を注ぎます。より安価により大量にパルス鉱を採掘精製できれば……例えば、速度は出ずとも大陸間移動のエネルギーが今の半分以下の燃費でいけるとしたら、産業用家庭用のエネルギーが半分になるとしたら、素敵なことだとは思いませんか? 一日も早く休戦が、ほんとうの終戦になって、お互い資源開発やイノベーションで鎬を削れる時代が来ることを望んでやみません。むろん、パルスギなんかが見つかったらラッキーですけどね(^▽^)! その時はごめんなさい(๑´ڡ`๑) 。あ、すみません、ちょっとハジケすぎました(⁄ ⁄•⁄ω⁄•⁄ ⁄) 。それでは、ほとけのざ資源プラットホームから劉宏のご挨拶でした!』

「稚拙なプロパガンダに過ぎんのだが、なかなかやる」

 再び緩みかけた作戦室の空気を引き締めるように、元海兵隊中将のアメリカ人が顎を撫でる。

 劉宏の笑顔のまま停まった画面には、劉宏を賞賛するコメントが横殴りの吹雪のように続いている。その多くは劉宏ではなく春華の愛称になっている。

「いやはや、わたしもソフト路線でやらなきゃいかんかなあ」

 児玉元帥が眉をしかめるけど、こちらもミテクレは美人社長で名の通った越萌マイのボディーで勘が狂う。

「どうやら、新局面に入ったようだね」

「敵の様子を観察、分析を進めます。暫時休憩といたします」

 社長、いや睦仁様が苦笑いされ、作戦会議は中断された。

「七草がゆとランチが出来てるから、希望者は食堂へ。七草がゆは数に限りがあるから、遅れた人はレプリケーターのでがまんしてね」

 劉宏のスピーチで情報の取り直しと分析のやり直しになって、作戦会議は中断して仕切り直しになった。

 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第18話《パス》

2023-12-12 08:49:34 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第18話《パス》さつき 



 3Dビジョンの広告が新しくなったのに気付いてスマホを向ける。

 渋谷駅前の3Dビジョン広告は有名だ。猫が飛び出したり犬が飛び出したり、ほんとうにそこに居て、路上の自分を見ているよう。新しいのを動画でアップすると、すぐにアクセスが伸びる。特にアクセス稼ぎが目的じゃない、動画撮る人っていっぱいいるからね。

 どんな撮り方や編集をしたらアクセスが多いか。映画研究部としては、そっちの方に興味がある。ま、ちょっとしたカメラワークの勉強ですよ。

「阿倍派議員のパーティー券のキックバックをどう思いますか?」

 いきなりマイクを突きつけられてびっくりした。油断していたら、こっちが撮られる側になっていた(^_^;)

「え、ああ……安倍派以外とか野党でも同じことやってると思うんですけど。なんで安倍派だけ突っ込まれるのか考えた方が面白いかなぁ……そういうのはパスかなぁ……」

 考えをまとめようとしたら、リポーターは次の通行人にマイクを向けていた。カメラにN放送のロゴ、ああ、意に添わないわけだ……そう思った。

 N放送は、日本で、ただ一つ受信料をとっている放送局。だけど偏向していることは、あたしみたいな、ペーペーの大学一年生でも分かる。大学の講義でも、N放送局が作った司馬遼太郎さんのドラマが原作を離れて反日的な表現をしていたか話していた。

 あたしの次にマイクを向けられたオジサンはA新聞の社説みたいなことを口角泡を飛ばしてまくし立てている。あたしのはカットされるだろうな……気づいたら、無意識に今のやり取りを撮ってしまっていた。

 面白そうなので、そのまま『N放送にパスされた(^_^;)』とタイトルを付けてアップしてバイトに向かう。


 開店前の書棚の整理。秋元クンは一見平気な顔をして仕事をこなしている。

 だけど、聡子と吉岡さんの仲を直に見せてやったので、パスしようとしている。


 でもパスしきれない。


 意識的に聡子のことを見ないように考えないようにしている。

 あたしは、秋元クンの届かぬ恋を可哀想に思っていた。だから、卒業したはずの帝都のセーラー服まで着て、秋元クンに分からせた。

 秋元クンの恋は届かないよ。

 もし、秋元君にN放送ほどの図太さ、あるいは無神経さがあったら切り替えられるだろうにね。

 もう少し見守ってあげるか。3Dビジョンの広告も新しくなったし、また、なにか思い浮かぶかもね。

 パチパチとホッペを叩いて切り替える。

「さっちゃん、これ返本。バックヤードお願い」

 文芸書の西山さんが台車を示した。

「はい」

 台車を転がしながら、一冊の本に目がとまった。


『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』


 大橋むつおという大阪の劇作家が初めて出したライトノベル。入荷したときから売れないだろうと思った。本業は劇作。それがいきなりライトノベル。

 この人の作品は、高校時代に中央大会の上演作品として観た。これでも、高校では演劇部だったのですよ(^○^;)。面白い本だと思った『ダウンロード』という一人芝居。

 でも、ラノベとしては売れない。ラノベ作家としては無名であること。版元が小さく、ろくに営業にも来ないこと。そして値段がラノベとしては高すぎること。バイトとは言え、本屋が売れないと思うのには十分な条件だと感じた。

 しかし、本の中味を読んで判断したことではない。

 装丁は、意識してのことなのか単なる不器用か、昭和の匂い満々。

 ム~~

 数秒唸って、パスせずに『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』を社員販売で買った。

 そして。

 ここから、意外なドラマが始まることになるとは想像もできないあたしだった……。


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 香取            北町警察の巡査
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魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ 小悪魔だけどな(≧ヘ≦)! 1『お早うございます』

2023-12-12 00:28:32 | 不思議の国のアリス
魔法少女なんかじゃねえぞ これでも悪魔だ こ 悪魔だけどな(≧ヘ≦)! 
本作は旧作『小悪魔マユ』を改作したものです

1『お早うございます』 




 校門をくぐると昇降口に着くまでの三十メートルほどが、ちょっとした森の小道みたいなアプローチになってるんだ。ナラとかブナとかトウヒとかが植えてあって「赤ずきんとか白雪姫とかが歩いていそう」と知井子なんかは言う。赤ずきんと白雪姫が似合うんなら、オオカミだって毒リンゴの魔女だって似合うんだけどな。口に出しては言わねえ。


「お早うございます」

 門衛のオジサンに、つものように朝の挨拶。

「おはよう」

 自衛隊を定年退職した門衛の田中さんは、きちんと姿勢よく挨拶を返してくれる。まだ、生活指導の先生が立つのには早い時間なんで気分がいいぜ。

 一度ちょっとしたことで遅刻寸前に登校したことがあるんだけどな。

 コンビニの角を曲がったところから、生活指導の先生たちが、ブタを追い立てるようにセカせているのに出くわしてイヤな思いをした。

 オラァ! 走れぇ! 閉めるぞぉ! 遅刻っ! オラオラ! 

 字にすると、ちょっと下品というていどだけどな。ちかごろの教師は「殺すぞ!」「しばくぞ!」「死ねぇ!」とかの定番の罵声を使えない分、籠められた気持ちがひでえ。 

 地獄の番犬ケルベロスだって、もう少し情があるぞ。もうちょっとでセンコウどもをゴキブリに変えて踏み潰……したらバッチイから、殺虫剤かけて殺してやろうと思ったけどな。補習中でA級魔法は禁止だから、グッと堪えたぞ。

 それから、マユはかなり余裕をもって登校するようにしてる。ブタ扱いもヤだし、つまらないことでキレる自分もヤダし、むろん補習に落ちるのもヤダしな。

 え、なんの補習かって?

 そりゃ、またあとでな。
 

 そのアプロ-チを半分ほど行くと、左の森の方で楽しげな声がしたぜ。

 森っていうのは、正門入った脇に木が固まって植えてあるとこな。外から見える学校のイメージを良くすんのにこさえてあって、学校案内の表紙にもなってるって聖城学院自慢の森だ。外から見るとアプローチの森と重なって、どっかから『魔弾の射手』の魔弾が飛んできそうな趣かあるんだ。

 で、その声が、沙耶と、里依紗と、知井子であることがすぐに分かったぜ。

マユ:「おはよう、なにしてんだ、そんなとこで?」

里依紗:「あ、おはよ!」

沙耶:「おはようマユ!」

知井子:「おは~(^▽^)/」

 三人は、ちょっとびっくりしたように挨拶を返してきたぞ。

「なんか、楽しいことでもあったのかぁ?」

 互いに顔を見交わす三人。


里依紗:「……マユならいっか」


 里依紗が言うと沙耶と知井子が頷いて、写メを見せてくれる。


マユ:「うお、カワイイじゃん!」

沙耶:「でしょでしょ、でしょ(´;ω;`)!」

 沙耶が、感情移入しすぎて、涙目で言いやがる。

知井子:「ほんと、こんなにかわいいのに……」

里依紗:「可哀そうだ……」


 知井子と里沙のリアクションも変だ。

 写メには、生後五ヶ月ぐらいの赤ちゃんの笑顔が写っている。

マユ:「里依紗の隠し子か?」

 バカを言ってみた……いつもならオバカなリアクションが返ってくるのに、シンとしちまいやがる。

マユ:「な、なんだよ」

里依紗:「こ、これ、恵利先生の赤ちゃんなんだ……」

マユ:「恵利先生?」

沙耶:「マユが転校してくる前に、お産で休んだ先生。マユは知らないわよね」

知井子:「ほら、これが恵利先生だよ(´•̥ ω •̥` ) 」

 唐突に切り替えられた写メには、赤ちゃんをダッコした幸せ満杯の女先生が写っていたぜ。

マユ:「お、聖母子(きらいだけどな)みたいじゃねえか!」

 うちはミッションスクールだから、一番の誉め言葉で例えてやった。

里依紗:「清美ちゃんていうんだ、この赤ちゃん(^_^;)」

 涙が止まらない沙耶に代わって、里依紗が言う。

 清くて美しい……ますます聖母子だ、クソ!

 三人の心が開いて、ぜんぶ分かった。

マユ:「……恵利先生って病気なんだなぁ(-_-;)」


 登校する生徒達のさんざめきが一瞬途絶えたような気がした。


知井子:「ん? どうして分かったの……?」

 知井子が不思議な顔をした。

マユ:「あ……なんとなく。だってよ、とっても嬉しい話しなのに、三人とも涙流したり、悲しそうにしてるじゃねえか」

沙耶:「そ、そうよね、こんな顔してたんじゃね。ワケありだって分かっちゃうよね」

知井子:「骨髄性ナントカって病気で、あと二年ほどしか生きられないんだ」

里依紗:「妊娠中に分かったんだけど、それでも恵利先生は清美ちゃんを産むことにしたんだよ」

沙耶:「中絶すれば、放射線治療とかもできたらしいんだけど……ね……」

 沙耶が、また言葉につまりやがった。

知井子:「で、やっと心の整理もついたんで、昨日会いに行ったのよさ、三人で」

沙耶:「先生、清美ちゃんが三歳になるまでは生きてられないって……」

知井子:「でも、心はずっと清美ちゃんといっしょだって言うのよさ、先生」

里依紗:「この写メ撮ったあと、先生、ポツンと言ってた……せめて、この子があなた達ぐらいになるのを見届けたかった……って」
 
 生活指導の先生達が、校門に向かい始めた。

 二年の学年担当の梅崎が、チラリとこちらを見やがる。

「なにやってんだ、そんなとこで! スマホで変なサイト見てんじゃないだろうな。授業中だったら没収だぞ!」

マユ:「始業には、まだ十分あるしぃ」

 梅崎の命を縮めてやりたい衝動に駆られたぞ。むろん、今のマユには、そんな力はねえ。A級魔法は禁止だしな。

 校門に向かう梅崎の背中に、四人で思い切りイーダ!をしてやった。

マユ:「その写メ、マユのに送って」

里依紗:「いいよ。ね?」

 里依紗は、沙耶と知井子の顔をうかがった。ボーイッシュだけどこういうさりげないところで、友だちを大事にする里依紗をマユは好きだぞ。

マユ:「ほい、チョイ待ってね……」

 送られてきた写メにちょっと手を加えた。

マユ:「送り直すぞ……ほい!」

沙耶:「どうかした?」

マユ:「@マーク出して、二回クリックしてみ」

 トントン

「「「……わあ、なにこれ!?」」」

 里依紗たち三人は、画面に釘付けになりやがったぜ。

マユ:「清美ちゃんの十七歳の姿だ」

知井子:「わあ、カワイイ……ってか、美人なのよさ!」

里依紗:「すごい変換機能がついてんだね……」

沙耶:「あ、もとの赤ちゃんにもどっちゃった!」

 三人は、ちょっぴりしぼんだ顔になりやがった。

マユ:「一日一回、十秒間しか見られねえんだ。それと、三回コピーしたらコピーガードがかかっちまうから、必ず最初に恵利先生に送ってあげるんだぞ」


 そのとき、無情な予鈴が鳴った。

 チャラーンポラーン チャランポラーン……と、マユには聞こえてしまう。


――あの写メ、一回見れば一日寿命が延びる。そういう魔法がかけられている――


 ギリギリギリ……

 頭のカチューシャがギュっと締まってきやがる。

 イテ……!

 このカチューシャ、悪魔としてやってはいけないことをすると頭を締め付ける仕組みになってやがる。

 でも、痛みは一瞬だった。

――フフ、魔界としても今のは判断に苦しんだんだな。しっかりしろよデーモン先生、マユは魔界の補習のためにこの世界にきてるんだぞ――


 靴を履きかえるとき、マユが顔をしかめたのに知井子は気づいた。


――チ、お仕置きすんのはいいけど、気づかれっちまうじゃねえか!――


 デーモン先生からは返事は無くて、何事もない聖城学院の一日が始まったぜ。


☆彡 主な登場人物
  • マユ       人間界で補習中の小悪魔 聖城学院
  • 里依紗      マユの同級生
  • 沙耶       マユの同級生
  • 知井子      マユの同級生

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