やくもあやかし物語 2
散れ!
ネルが両手を広げて叫んだ!
わたしは左! ネルは右!
ハイジは、いっしゅん迷って後ろに逃げた! 真ん中に居たので、どっちへ行っていいか分からず逃げるしかなかったんだろう。仕方がない(-_-;)。
「フフフ……目くらましのつもりか」
ドラゴンの背に跨ったデラシネは不敵に笑うと、ドラゴンと共に空に飛んだ。
「森は、わたしの庭のようなもの、チョロチョロ走り回っても居所は知れている……そこだ!」
ビシ!!
すぐ後ろ、木々の枝や葉っぱを貫いて電撃みたいなのが地面に突き刺さる。
一年前のわたしだったら、悲鳴も上げられずにうずくまるか気絶してしまうかだったと思う。
でも、いろんな妖たちと戦ったり、時には共通の敵から身を守ったりしてきたから、取りあえずは逃げられる。
ビシ!
離れたところに衝撃、ネルの方を攻撃したんだ……でも、走る気配はしているから、命中はしていない。
来る……ビシ!!
直前にゾワってくるんで、しゅんかんで横っ跳び。左の頬に痛みが走る。
破片が当たったんだ、拭った拳に血が付いた。
ビシ!
今度はネル。でも、気配は同じテンポで走ってる。まずは大丈夫。
「ちょこまかと三月うさぎのように……まあいい、いつまでももつはずもない、ゆっくり退治してやるからね……そこだ!」
ビビッシ!!
さっきの倍ほどのが落ちてきた! 直前に速度を上げて無事だったけど、髪の焦げる臭いがする。
ちょっとヤバイ、続けられたらもたないかもしれない。
ビシビシ!
二連発……それもネルじゃなくてわたしに!?
そうか、わたしの方がチョロいと踏んだんだ! くそ、集中攻撃されたらもたないかもしれない(;'∀')!
ビ ビシビシ!
次のは遅れたし、微妙にためらいが……?
『ネルよ、ネルが直前に後ろを走ってドラゴンを惑わせたのよ』
御息所が首だけ出して後ろを指さしている。
そうか、フェイントをカマシてくれたんだ。
ビビ ビシビシ!
次もズレた。今度はいっしゅんだけネルの後すがたが見えた。
今度はわたしが助けなきゃ!
走りながらネルの居所を探る。
ん?
ネル以外にもチラホラと気配がする。木の上……岩の陰……窪地のヘリ……倒木の洞……そうか、森の妖精や精霊たちが、あちこちで様子を伺ってるんだ。
面白がってるのや迷惑がってるのや怯えているのや、なかには感情の読めないのも居る。
ビビ ビシビシ!!
ネルの気配が近づいたので、こちらからネルの後ろに走る。案の定、狙いは大きく外れて、離れたところで火のついた葉っぱや枝が舞い上がった。
――あたしはいい、体力的にはヤクモの方が弱い、庇っていてはもたないぞ!――
あ、それもそうだ。
鬼の手のお蔭で瞬発力は鬼強いけど、これを何時間もやられたら、ちょっと自信ないかも。
「そうか、ヤクモうさぎの方がねらい目か……」
グゥゥゥーーーン
くそ、高度を落として真後ろに貼り付かれた(;゚Д゚)!
ビシビシビシ!!!
っく!
かろうじて避けたけど、右足と左手に痛みが走る。
トリャーーー!!
ネルが飛び蹴りを食らわせて、当たらぬまでもドラゴンの進路を狂わせる。
でも、次はダメかもしれない(;'∀')。
ビシビシビシ!!! ビシビシビシ!!!
あ、もうダメだ……
『ヤクモ、あの岩壁をめざして』
御息所が小さな声で言う。
「右、左、どっち?」
それまでも、二度ほど岩壁の前まで走って曲がっている。
岩壁は単なる障害物、飛び越えるには高すぎる。曲がるしかないんだ。
『直前でストップ、ぶつかる覚悟で』
「え、あ、うん」
理解したわけじゃないけど、このままじゃもたないからね。
ズザザザザ……ドシン!
なんとか急ブレーキ! やっぱり岩にぶつかって、死にはしなかったけど、そのまま仰向けに倒れてしまう。
倒れながら見えた。
ドラゴンは岩にぶつかって粉みじん……じゃなくて、岩に吸い込まれるようにして消えてしまい、デラシネ一人、岩に顔をこすり付けながら急上昇し、悔しそうにブンブン手を振って飛んで行ってしまった。
プギャァァァァ……ドシン!
そして、なぜかハイジが遅れて岩にぶつかって落ちてきた。
☆彡主な登場人物
- やくも 斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
- ネル コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
- ヨリコ王女 ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
- ソフィー ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
- メグ・キャリバーン 教頭先生
- カーナボン卿 校長先生
- 酒井 詩 コトハ 聴講生
- 同級生たち アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
- 先生たち マッコイ(言語学)
- あやかしたち デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン