大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・068『10円男の伴奏とエーデルワイス』

2023-12-16 15:28:06 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
068『10円男の伴奏とエーデルワイス』   




 ほほぉ……あ……なぁるほどぉ……   そそ……その感じ……


 昇降口で履き替えて教室に向かっていると、中庭から声が聞こえる。

 テスト中でもあるし、普通ならそのまま通路通って北館の教室へいく。

 でも、このヒソヒソ声にロコと二人で立ち止まる。

「「え( ゚Д゚)!?」」

 ロコと二人声を上げてしまう。

「おはよう、グッチ! ロコ!」

 ギター抱えて元気よく挨拶してくれる真知子。

 その横で、真っ赤になってる10円男。

「おはぁ……(^△^;)」

「こ、これはいったい……(;゚Д゚)?」

「いやあ、加藤君がね、指使いとか教えてくれてぇ、言われた通りにやってみたら、自分じゃないみたいにきれいに弾けるのよぉ(^▽^)/」

「あ、いや、ちょっと……惜しいなあって、いや、横田さんの見込み早いから、いや、もう大丈夫だよ」

 十円男に、こんな特技があったんだ!

「あ、じゃあ……(-_-;)」

「待って、どうせだったら、いっしょにやってくれない? 昨日だって、そこで聞いてくれてたでしょ」

「そうそう、なんか機嫌悪そうだったから、なんか文句あるのかと思ってたぞ」

 10円男は留年生で、去年は三年のバカたちといっしょに学園紛争やってて、体育祭でもデモごっこやって笑われてたし(057『ウィッチカモミール』)、こういう微温的なイベントは、ぜったいバカにしてると思ってた。

「え、あ、そう言うわけじゃないけど、レパートリーが……」

「今日はね最後に『エーデルワイス』やってみようと思うんだけどね」

「エーデルワイス?」

 あ、なんか食いついてきた。

「うん、サウンドオブミュージックで有名だし、ナチスドイツへのプロテストソングでもあるわけでしょ。みんな聞いてくれるし歌ってもらえると思うの」

「あ、うん、いいんじゃないか」

「でも、弾いたことないから。ね、よかったらやってくれないかなあ(人>ω•*) 」

「え、あ……まあ、伴奏だけなら」

「わあ、やったーー!」

 ヤッター! ヤッター!

 いっしょになって喜ぶ。

 こういう女子のノリとノセカタは令和も昭和もおんなじ。

 感じ悪~の10円男だけど、MITAKAにも顔出してるし、モブとして使ってやるのはアリだと思う。

 しかし、真知子は、けっこうな人たらしだと思うよ。


 ウワア! めちゃくちゃ明るいです!


 放課後はロコが大感激。

 昨日は、ギターもボーカルも暗かった(西日が差す中庭で、東向きにやってるしね)、家からLEDの照明持ってきた。

「これで、コード無しとか信じられません!」

「ほんとに明るいわねえ、乾電池?」

「なんだっけ、たぶんリチウムイオン電池?」

「え、リチウム?」

 わたしの答えにロコもたみ子も怪訝な顔……ひょっとして、この時代はリチウムイオン電池無かった(;゚Д゚)!?

「万博とかに出てた、新時代の電池ですかねえ」

「これだけ明るいのに、ぜんぜん熱くなってないよ」

 佳奈子も不思議そうにライトを撫でまわす。

 ヤバ、LEDとかも、ひょっとして発明されてない?

 これ以上騒がれたらどうしようかと思ったけど、人もチラホラ集まってきたので、10円男がポロンとギターをつま弾き始め、二日目の本番になった。

 昨日と同じ順に『遠い世界に』『この広い野原いっぱい』『受験生ブルース』『友よ』加えて『青年は荒野を目指す』と進んで、中庭に集う人たちは昨日の倍以上になってきた。

「では、今日のトリは映画『サウンドオブミュージック』でも有名な、美しいアルプスの花の歌『エーデルワイス』で締めくくりたいと思います……」

 真知子がしっとりと言うと、10円男が――こいつがかぁ!?――と思うような美しい伴奏をかましてくれて、中庭の――イブの集いに向けたフォークの集い♪――はいっきょに盛り上がった!

 か~おれ朝の風に~ と~わに~なが~く~♪ エーデルワイス エーデルワイス……(^0^♪

 エーデルワイスのリフレインのところは、中庭に集まった100人あまりの他にも、北館と本館の窓を開けて歌ってくれる人もいて、めちゃくちゃ感動のうちに大拍手になった!


☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  

 


 

 
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くノ一その一今のうち・89『再び草原の国』

2023-12-16 06:15:08 | 小説3
くノ一その一今のうち
89『再び草原の国』そのいち 


 散らばった破片に見覚えがある。


 以前、米軍の輸送機で草原の国に潜入した時に戦った跡だ。

 破片の向こうに城壁が聳えている。

 大きい!

 以前来た時は、城外で戦っただけで、中に入ることはしなかった。

 あの時は月も半ば雲間に隠れ、城壁は篝のある正面がぼんやり浮かぶ程度で、その果てまでは見通せなかった。
 作戦の目的は王子の奪還であり、やっと奪い還した王子は猿飛佐助が化けていたものだった。正体を現した佐助と城外で戦った、その時の跡が片づけられることも無く、そのままになっている(32『王子を逃がす』33『猿飛佐助の陰謀』)

 あの戦いは、おそらくは時間稼ぎ。そして、鈴木豊臣家への警告。

 あるいはブラフ。

 すでに敵は高原の国への工作には失敗している。

 B国の同時多発の爆破には成功しているけど、機甲旅団は壊滅させた。

 テストの点数で言えば30点。赤点のオンパレードで追試験。

 しかし、城壁の外から伺う限り、このまま赤点を認める風もなく、来たらば来たれと待ち受けている様子。

 ようし、赤点を確定させてやる!

 下忍には過ぎた判断かもしれないけれど、高原の国への攻撃を断念させるという命令は生きている。

 取りあえず潜入、懐の鉤爪に手を伸ばす。

『空から行きましょう!』

 魔石を包んでいるえいちゃんが力強く提案する。

「空から?」

『はい、ちょっと自信がつきました。空からの偵察にも慣れました、機甲旅団も空から攻撃できましたし、ソノッチ一人ぐらいなら城内に運べると思います!』

「そうか、じゃあ……」

 すぐにその場から飛び立つようなことはしない。

 姿勢を低くし、岩や灌木の陰を拾いながら城の西側に周る。とっくに太陽は西に傾いているので、太陽を背に侵入するには西側に出なければならないのだ。

 長い……皇居は東西方向に、永田町―桜田門―日比谷と地下鉄で二駅分、1.5キロほどだけど、この草原の城は優に2キロ四方、それ以上はありそうだ。

 ようやく南東の櫓が見えて城の西側。

 300mほど走ると、城壁の向こう側にさんざめきや車の音、陽気な呼び込みの声やらがしはじめて……どうやら西側は商業地域のようだ。

 よし!

 えいちゃんを西風に載せ、わたしは、軽く地面を蹴った。

 グーーン

 太陽を背に、無事に西の城壁を超えた……

 
☆彡 主な登場人物
  • 風間 その        高校三年生 世襲名・そのいち
  • 風間 その子       風間そのの祖母(下忍)
  • 百地三太夫        百地芸能事務所社長(上忍) 社員=力持ち・嫁持ち・金持ち
  • 鈴木 まあや       アイドル女優 豊臣家の末裔鈴木家の姫
  • 忍冬堂          百地と関係の深い古本屋 おやじとおばちゃん
  • 徳川社長         徳川物産社長 等々力百人同心頭の末裔
  • 服部課長代理       服部半三(中忍) 脚本家・三村紘一
  • 十五代目猿飛佐助     もう一つの豊臣家末裔、木下家に仕える忍者
  • 多田さん         照明技師で猿飛佐助の手下
  • 杵間さん         帝国キネマ撮影所所長
  • えいちゃん        長瀬映子 帝国キネマでの付き人兼助手
  • 豊臣秀長         豊国神社に祀られている秀吉の弟
  • ミッヒ(ミヒャエル)   ドイツのランツクネヒト(傭兵)
  • アデリヤ         高原の国第一王女
  • サマル          B国皇太子 アデリヤの従兄
 
 

 

 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第22話《半舷上陸》

2023-12-16 05:53:39 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第22話《半舷上陸》惣一 



 突然の半舷上陸になった。


 本来は、洋上で慣熟公試のため越年の予定だったが、機関室の装備配置が被弾時の緊急行動上欠陥があって、公試自体にも支障があることが分かり、急遽横須賀に戻り装備配置の変更工事をやることになった。その間、乗組員は五日ずつの半舷上陸が許された。


 わたしの乗艦は『いずも』の拡大型新鋭艦『あかぎ』だ。諸元は排水量26000トン、全長270メートル、最大幅42メートル、速力30ノット以上、全通甲板式の空母形護衛艦で、オスプレイ12機、対潜ヘリ8機搭載などの新鋭艦である。


「班長は、どこで正月を?」

 砲雷科の杉野曹長が、ニヤニヤしながら聞いてきた。

「どこって、世田谷の実家に帰るだけですよ」

「そうですか、なかなかのおめかしなんで、別口かと思いましたよ」

「あ、そんな風に見えます?」

「はい、十分」

「光栄だなぁ。ユミクロとABDマートで、しめて一万八千円でお釣りの来るナリですよ」


 自衛隊を見る国民の目はだいぶ変わってきたが、制服を着て街中を歩けるほどではない。


 渋谷に着くまでは、潮っけが抜けなかったが、京王井の頭線に乗り換え下北沢で小田急に乗り換える頃には、ただの佐倉惣一にもどっていた。

 豪徳寺のデミーズでアメリカンクラブハウスサンドを適量買って半年ぶりの我が家に向かう。

「帰って来るなら、電話ぐらいしなよ!」

 家に入る前に三階のベランダから気づいて声を掛けてきたのは、下の妹のさくらだ。


 デミーズのサンドを半分近く食べると、さくらは三階の自分の部屋に上がろうとして振り返った。

「明菜さんとは会う約束してんの?」

 口封じのサンドの効き目は食べている間だけだった。

「防衛機密だ」

「早く手ぇ出しとかないと、尖閣みたいにややこしくなるわよ」

「うるさいなあ、尖閣と一緒にすんな!」

「丘に上がった時しかチャンスないんだから、なんなら、あたしから明菜さんに連絡しようか?」

 言うが早いか、さくらはスマホを取りだした。

「こらあ、余計なことすんな。それにどうしてさくらが明菜のアドレス知ってんだ!?」

 オレは、完全に海自の士官から、ただの兄貴に戻って、さくらにヘッドロックをかまし、そのままカーペットに横倒しになった。スマホを持つ手を押さえようとして、さくらの胸に触れてしまった。

「おお、女らしくなったな」

「セクハラぁ! 防衛大臣に言っちゃうぞ!」

 ちょっと前なら、横抱きにしてお尻に二三発食らわしてやるんだが、さくらも、もう女であることを尊重してやらなければならない様子なので止めた。親父とお袋は、ただニヤニヤ笑っている。


「あれでも、こないだから人助けを二回もやってるんだ。大した妹だぞ」

「え?」


 親父は、さくらが学校で自殺しかけた女生徒を助けた話しをした。で、ゴミ市で買ったコキタナイ人形がさくらの身代わりに割れたことを自慢し、わざわざ人形を見せびらかした。

「土偶のような……まねき猫のような……」

「さくらが、屋上から落ちた時に、身代わりに袈裟懸けに割れたんだ。そこを……あれ、継ぎ目が分からん」

「これ割れたの?……ぜんぜん分からないよ」

「今どきの接着剤は、よくできてるからね。あとで父さんトイレの便座の割れたのも直してくださいよ」

「それなら、オレがやるよ。そういう家庭的なことをするのが、オレには休養なんだから」

 そして、お袋は、さくらが昨日急性盲腸炎の女の子を助けた話しをしながらコーヒーを淹れてくれた。正直『あかぎ』のコーヒーの方が美味いが、我が家の素朴な味は格別だった。


 コーヒーのあと、トイレの便座を直しに行ったら、ドアを開けたその場に無防備な状態でさくらが座っていた。

「セクハラ自衛官!」

 オレは、素直に閉め出されてやった。兄妹の機微というものである。

 リビングに戻り、妹が出た気配を感じて五つ数えてトイレに入った。

――臭いぐらい消してからいけよなあ――

 思ったが、口には出さない。こういう油断が兄妹である証しなんだろうからな。
 
 便座は、根本の支持棒のフックのところが、疲労破壊で折れていた。破断面がピッタリなんで楽にくっつくかと思ったが、微妙に変形していて難しい。

「う~ん……」

 思わずうなり声が出る。

 すると、ドアがいきなり開いて、ガキのころそのままのさくらが覗いた。

「なんだ、便座の修理か……」

 つまらなさそうに、さくらは行ってしまった。


 こういう臭いところの防御をやるのがオレの使命だ!


 そう気合いを入れると、破断面はピタリと合った。

 紅白が始まる頃に年越し蕎麦になった。我が家のお茶の間は昭和の空気がゆったり流れている。

 九時頃になると、さくらが出かけた。年越しの初詣のようだ。入れ替わるようにさつきが帰ってきた。

「あら、お珍しい」

 そう言うと、コートを脱いだだけで年越し蕎麦を食べ出したので、お袋に言って、もう一杯作ってもらった。人間は食事とか人間的な行動を共にすることで絆が確認できる。

「さつき、お前も人並みに苦労してるみたいだな……」

「自衛隊ほどじゃないけどね……」


 さつきの目から、一筋の涙が流れた……。


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 香取            北町警察の巡査
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