大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・197『お岩食堂のレトロテレビ』

2023-12-29 14:49:32 | 小説4
・197
『お岩食堂のレトロテレビ』お岩 




 中華メニューを始めたら妙なことになった。


 いや、なにね、漢明が占領を解いて、軍人を引き上げさせ、代わりに連絡員を置いて行った。ほんの10人前後なんで、食事とかはレプリケーターで済ませているんだ。

 レプリケーターは、メニューを選んでボタンを押したら10秒で大昔のレンジみたいな「チン」の音をさてご飯もおかずも出てくる。古い日本語では食餌合成機っていうんだよ。

「え、食事じゃねえのか?」

 最近漢字を覚え始めたハナが指を立てる。

「ううん、食餌さ」

「それって、大昔の病院のご飯のことだよね」

 さすがにメグミは知っている。

「ええ、餌(えさ)なのかよぉ(^_^;)」

「だからさ、中華メニューも作ったんじゃないか。あ、そっちのテーブルもカタしといて」

「ええ、もう巫女服着てんだけどぉ」

「エプロンすりゃあいいだろがぁ、あ、メグは、まだゆっくりしてるといいさ」

「いいわよ、本務以外の事やるのもいい休憩になるから」

「そうかい、済まないねえ」

 そう言って、メグとハナは、ついさっきまで漢明の連絡員たちが使っていた座敷を片付けに行く。

 座敷は六畳が二つ。ちゃぶ台が四つ置いてあって、レトロな茶の間の雰囲気にしてある。

 ちょっとした遊び心でやってみたんだけど、意外なことに漢明の子たちに人気で、いつも、ここで食事をしていく。
 で、お気に入りが日本の家庭料理というんだから恐れ入る。
 まあ、中華の方も島の人間やゲストには人気で、まあ、無駄にもなっていないからいいんだけどね。

「お岩さん、カタしたら、ちょっと横になってていい?」

「いいよ、ランチまではヒマだしねえ」

 カタンカタン バサ バフ プチ

 ちゃぶ台の脚を畳む音、座布団を並べて横になる気配、テレビが点く音もして、あっぱれ日本のくつろぎタイムの雰囲気が出来あがる。テレビは、AIが生成しているということさえ忘れてしまえば、古典的なワイドショーのスタイルで周回遅れのニュースを流している。

 まあニュース性なんかは二の次、雰囲気を楽しむものだからねえ。でも、リアルタイムで見逃したトピックスなんかに、面白いのがあって、ちゃぶ台共々、食堂の人気アイテムなのさ。

 ええええ!?

 メグがワイドショーのゲストに贔屓のアイドルが出てきたような声を上げる。

「お岩さん、ちょ、スゴイよぉ!」

「え、なにぃ?」

 カウンターから首を出すと、テレビは漢明のトピックスを流している。


――昨年PI措置をして新ボディーになった劉宏大統領は、大連工業地帯の視察を行いましたが、視察先の工場でとても珍しいものを発見しました――

『いや、お恥ずかしい、なんだか昔の友だちに出会った感じです!』

 なんせ、新ボディーは大統領秘書だった王春華だ。王春華だったころは、秘書らしいショ-トボブの髪型に硬いスーツ姿だったけど、今は、ロングにしたりポニテにしたり、ファッションも軽やかで、フォーマルな時以外は活発な女子学生という雰囲気さ。

 その劉宏が、頬を染めて指さした先には、埃まみれのマイドがガラクタに混じって見えている。

『マイドは、漢明と日本が緊張状態になる前、日本の大阪で開発された超小型のパルスボートです。漢明や大陸では大型のピックアップボートが一般的だったんですが、このドアツードアをコンセプトに開発されたマイドは、積載量は一トンですが、静粛性、運動性能、航続距離に優れていて、なによりも可愛い!』

 埃がたつのも気にせずマイドを撫でまわす姿は、ちょっと反則なぐらいにチャーミングだ。

『ねえ、工場長、これ譲ってください。ちゃんと時価で買わせてもらいますからぁ!』

 工場長にカメラが振られると『いや、差し上げます(^_^;)』と言うのを『ダメです、ちょっとハンベで検索……こんなもので、どうですか?』とカメラにハンベを向ける。

 ハンベには、このお岩が見ても妥当な金額が示され……いや、エンジンやら、あちこちのオーバーホールを考えたら少し高い金額が示されている。


「いやあ、懐かしいなあ」

 
 いつの間にか、社長(睦仁親王殿下)が入り口に立っている。

「殿下、ひょっとして、今から朝ごはんかい?」

「あ、申しわけない。打合せを先に済ませたら、こんな時間になって(^_^;)」

「簡単なものしか作れないけど?」

「ああ、なんならご飯にカツ節かけたのでもいいよ」

「そんなネコマンマみたいなのは作らないさ、十分ほど待ってて」

「うん、じゃあ、座敷で待たせてもらう。メグミさん、お邪魔します」

 やっぱり畳敷きは人気だ。

「あ、殿下、いや社長、劉宏がこんな玩具を見つけましたよ!」

「あ、ああ……マイドじゃないですか! ボク、このプロトタイプの制作に関わってましたよ!」

「ええ!?」「そうなのか、社長!?」

「うん、金剛山に天狗……いや、東大阪工業組合の研究室があって、そこで居候している時に、マイドの試作機作っていてねぇ、ちょこっとだけ手伝いました。劉宏大統領も見かけは変わったけど、りっぱなオッサン趣味だねえ(^_^;)」

「こんなちっこい乗り物のどこがいいんだぁ」

「スピードは出ないけど燃費がいいから、衛星軌道からのシャトルにも使えるんだよぉ、そうだ、ちょっとハナに似てるかもよ」

「え、そうなのか(n*´ω`*n)」

「そうだね、ハナは整備助手もやるし、食堂の手伝いもやるし、神社の巫女もやるし、いざという時は立派に戦闘員の働きもしてくれるしねえ」

「アハハ、褒めてもなんにも出ねえぞ(^〇^;)」

「この映像は先週のだから、もうあちこちいじってるかも……さすがに、まだ無いか」

「さあ、そろそろ巫女さんの仕事すっかなあ……あれ、連絡所の方でジタバタやってんぞぉ……おおい! フーちゃん、なにやってんだあ!?」

 ハナが窓を開けて呼びかけると、フーちゃん(胡盛媛)が藁をもつかむって顔で駆けてきた。

「大変なんですぅ! うちの大統領が急に連絡所の視察に来るって! もう、どんな準備していいのか、みんな舞い上がってしまって(;゚Д゚;)」

「「「ええ( ゚Д゚)!」」」


 面白いけど、なんか大変なことになってきたみたいだよ。


☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑第三高校二年、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑第三高校二年、 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     扶桑第三高校二年、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑第三高校二年、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
 



 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第34話《覚悟はできていますか!?》

2023-12-29 05:45:03 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第34話《覚悟はできていますか!?》さくら 




 次は映画の撮影だ!


 東京郊外の原っぱまで事務所の車はぶっ飛ばした。


「『蒼空のゼロ』って映画。主人公がゼロ戦に載って特攻に行くシーンだ。さくらはヒロインのクラスメートの女学生。飛行場で飛び立つ主人公を見送るモブシーン。さくらはヒロインの横で涙しながら見送るだけ。一応台本もらったから、シーンのとこ読んどけ」


 ヒロイン役の等々力あやめ(とどろき あやめ)さんの横だ。わたしは緊張して台本を読んだ。自分は台詞が無いので、人の台詞とト書きをきっちり読んだ。きっちり過ぎるほどに。

 ロケ現場は、R大学が手放した建設予定地。更地の半分に航空隊と滑走路のセット。ダミーのゼロ戦が三機停まっている。ロケバスの前が、エキストラのメイクと衣装のコーナーになっている。


「ああ、君だねオノダプロのサクラさん。バスの中で衣装に着替えてね、出てきたらメイク、簡単にね。言っとくけど、おもタンのプロモのナニで急遽出てもらうことになっただけだから。あんな感じで気持ち作って、見送るだけでいいから。あくまであやめちゃんの引き立て役。そこんとこよろしく」

「あなたがさくらさん? 実際お会いすると普通の女子高生なのにね。あのプロモはすごかったわよ。よろしく(^▽^)」

 あやめさんが自分からあいさつにきて声まで掛けてくれた( ゚Д゚)。


 が、がんばらなくっちゃ(,,•ω•,,)و !


 ロケバスの中でセーラー服のもんぺ姿になり、バスの前のテーブルを前にして座ると、ヘアーメイクのオネエサンが信じられない早さで三つ編みのお下げにし、メイクさんが三分ほどでファンデを塗って、眉を書き足していった。

 鏡の中には佐倉さくらではなく、ヒロインのクラスメートAが居た。あたしは池島潤子という名前を勝手に付けた。衣装の胸の縫い込みに、その名前が書いてあったから。


 最初は、出撃するゼロ戦を見送るシーンから。


 ダミーのゼロ戦はワイヤーでトラックに曳かれていく。あとでCG処理で、トラックとワイヤーは消すらしい。

 女学生のエキストラは十人ほど。ちょっとショボイけど、これも合成で倍くらいの人数にするんだろう。

 ゼロ戦のパイロットは、安全を考えてスタントマンが載っている。ダミーのエンジンが動き、唸りを上げてプロペラが回り出した。

 だんだん見送りの気分になってきた。

 わたしは、ソーニイが初めて護衛艦の乗り組みになって見送りに行ったときのことを思い出した。『しらくも』って、チャッチイ護衛艦。南西諸島方面に行くので心配だった。中国と緊張状態になり始めたころだったから。中学生になったばかりのあたしは、ソーニイが、このまま生きて帰らないんじゃないかと、胸に迫るものがあった。

「ソーニイーー!!」

 涙流しながら、大声で叫んだのを思い出した。兄ちゃんは登舷礼で固い顔をしていたけど、一瞬わたしの顔を見た。ソーニイも緊張し覚悟をしていた。その姿が頭に浮かんだ。むろん兄貴は無事にかえってきて、互いに、あの緊張感は笑い話になった。でも、あんなに兄妹の絆を感じたことは無かった。


「ヨーイ……スタート!」


 監督の声でゼロ戦が走り出す。あたしたちは千切れんばかりに手を振って、助監督の合図で、走るゼロ戦を追いかける。ソーニイの初出航と重なって涙がこぼれる。拭おうともせずに追いかける。主役のあやめさんも涙の笑顔で、あたしと抜きつ抜かれつになった。

 このシーンは、一発でOKになった。みんなあやめさんの演技に拍手した。あたしも拍手した。


 問題は次のシーンで起こった。


 順序が逆なんだけど、パイロットたちがゼロ戦に乗り組む前に見送りの女学生の前を通るシーン。

 主役の猪田史郎が、他のパイロットたちと、あたしたちの前に迫ってきた。

――違う―― 

 これでは、せいぜいサッカーの練習試合が始まる程度だ。目の緊張、笑顔が偽物だった。

「……覚悟はできてますか?」

 思わず言ってしまった。一瞬芝居が停まってしまった。

 すると、猪田史郎の顔が強ばり、赤くなったかと思うと、こう言った。

「もちろん……」

「坂井さん……!」

 あやめさんがアドリブをかます。猪田さんは、そのままの顔で、あやめさんの肩に手を置く。そして猪田さん演ずる坂井少尉は搭乗機へと駆け出した。


「カットォ!」


 監督の周りにスタッフが集まり、真剣な話し合いが始まった。


「すみません、へんなこと言っちゃって(;'∀')」

 ちょっと凹んだ。

「………」

 あやめさんは、返事もしないで監督たちの話し合いを見ていた。

 十分ほどして、監督が吾妻プロディユーサーを連れてやってきた。

「覚悟してくれ、いくつか撮り直す」

「え……」


 え、やっぱりマズかった……。


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
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