大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語2・018『森の中の三叉路』

2023-12-01 10:34:01 | カントリーロード
くもやかし物語 2
018『森の中の三叉路』 




「「「え?」」」

 三人同時に声が出た。

 オーベロンがつけてくれたのは獣道。

 獣というのは四つ足だから、通る道は、道なのか、ちょっとだけ草がまばらなところなのか区別がつかない。むろん獣は四つ足で歩いているから人の目の高さあたりは薮や茂みと変わりがない。気を付けて歩かないと、見失ってしまう。

 それが、いきなりホワっと広がった。

 中一の時に街の森林公園でオリエンテーリングをやった時を思い出す。
 所どころに先生が立っていて、カードにスタンプを押してくれる。
 そういうところは交差点になっていて、地図をよく見ないと間違ったルートに入ってしまって遠回りをさせられる。

 そういう所に出てしまった。

 ホワっと広がって、ある程度は見通せるんだけど、そこは三叉路で、上りの道と下りの道がある。こういうところって、次元の狭間って感じがする……上りを選ぶか下りを選ぶかで、ぜんぜん別の世界に踏み込んでしまいそうな、そんな怖さがあるんだ。

 崖道のお屋敷の庭、草ぼうぼうのお厨子の前でスマホを拾ったら、伏見稲荷みたく前後に鳥居が続いていたときの恐怖だよ(やくもあやかし物語03『フフフフ』)。間違えた鳥居を選んだら永久に二度と元の世界に戻ってこれないような。

 ここは上の道と下の道の二拓だけど、きっとその先でも枝分かれしていて、怖くなって振り返ったら、もう、どこから来たか分からなくなってるみたいな。


「「「どっちだ?」」」


 声が揃ってしまったので、お互いに聞くわけにもいかない。
 
「ヤクモのサキュバスは分からねえのか?」

『サキュバス言うなあ!』

 ハイジに腹を立てる御息所だけど、ポケットの中には引っ込まないで、目をキョロキョロさせて真剣にあたりの様子を探っている。

『悪意を感じる……道に迷わせて泣きべそかかせてやろうって』

「な、泣きべそなんかかかないぞ(৹˃ᗝ˂৹) 」

 ハイジが泣きそうな声で強がりを言う。

「よし、姿が見えるところまで行って、大丈夫そうだったら手を振るから、続いてきてくれ」

 ネルが指と耳を立てて決意表明。

 さすがはエルフ、森の中の行動には責任を持たなきゃと思ってるんだ。

『やめた方がいい、それくらいのことは見通してると思うわよデラシネのやつ』

「でも、このままじゃ身動き取れなくなってしまうぞ、サキュ……」

『ん?』

「ミヤスドコロ」

『この際だから言っとくけど、わたしの正式な名前は六条の御息所よ』

「ちょっと長いなあ」

『エルフの耳ほどじゃないわよ。でも、読み方はロクジョウノミヤスンドコロだからね、憶えておいてちょうだいな。ほら、みんなで言ってみ』

「「「ロクジョウノミヤスンドコロ」」」

「言いにくい、意識を集中しないと間違えそうだ(;'∀')」

「じゃあ、同じ程度に意識を集中して、コーネリア・ナサニエル、耳を貸して」

 ネルをフルネームで呼んでヒソヒソ命じる御息所。

「じゃあ、あたしが先に行って様子を探るから、OKだったら〇、ダメだったらペケで知らせるから」

 明るく言って、ネルは右の道を100mほど進んだ。

「あ、〇のサインだぞ!」

『ちょっと待って!』

 足を浮かしたハイジを呼び止める御息所。わたしも体が前に出ちゃったんだけどね(^_^;)。

 フワ

 音もなく、瞬間でネルが目の前に戻ってきた。

『やっぱりな』

「え?」「どういうことだ!?」

「意識だけ向こうに飛ばしたんだ、ミヤスドコロが意識を集中させてくれてな」

「あ」

「そのために、舌噛みそうな名前呼ばせたんだな」

「それだけじゃない、サインは♡マークにしろと決めてあった」

「え、だって〇だったぞ」

『つまり、幻を見せて迷わせようって魂胆だったのよ。そういうケチなやつなのよ、デラシネって』

 ここは連係プレーだって気がして、わたしはみんなに言った。

「フン、つきあってらんないわ。もう帰ろ」

「お、おい」「ヤクモ」

 ビックリしながらも、ネルもハイジも回れ右した。

 ホワン!

 音がして、振り返ったら道は素直な一本道になっていた。


 
☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン
 
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ここは世田谷豪徳寺 (三訂版)第7話《拡散 さつきの側から》

2023-12-01 06:47:14 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第7話《拡散 さつきの側から》 
 
 


「『お帰りぃ』ぐらい言いなよ」
 
 遅番のバイトを終えて帰ってくると、風呂上がりのさくらと狭い階段ですれ違う。
 
 いつもなら「ただ今」に対し「お帰りぃ」と返して階段を空けて待っている。わが妹の数少ない美点の一つ。

 それが、挨拶もしないで階段ですれ違う。すれ違いざまにリンスの香り。

「あ、あたしのリンス使ったな!」

「え……あ、お帰り……」

 腑抜けた妹は、ことの本質を理解せずに、そのまま三階の自分の部屋に上がった。

「ちょっと、さつきぃ」

 今度は、お母さんが階段を降りてきて、あたしの部屋にやってきた。

「なに、お母さん?」

「……さくら、ちょっと変なのよ」

「やっぱり。で、いつから?」

「帰ってきたときは普通だったんだけどね、夕食の途中にスマホをいじってるうちに……食事残したまま部屋に籠もっちゃって、訳聞いても何にも言わないし、やっとお風呂にだけは入ったとこ」

「さつきに聞いてもらうのが一番かと、母さんと言ってたんだよ。イテ……」

 お父さんは爪を切り損ねながら付け加えた。

「親の死に目に会えなくなるわよ」

「え……あ、だな」

  お父さんも気にしてるようなので、あたしは真っ直ぐ妹の部屋に向かった。

 「入る……」

 言い終わらないうちに、ドアを開けた。

 さくらは慌ててスマホの電源を落とした。

「どうしたの、スマホでトラブってんの?」

 さくらは、そのままうつむいてしまう。

「さくら、これが原因?」

 スマホの電源を入れると、アッサリそれが出てきた。

 たなびいたスカートの下にレイア姫のおパンツがむき出しになったさくらの後ろ姿が写っている。

「なにこれ?」

「拡散しちゃったぁ……( ノД`)!」

 泣く泣くさくらは説明した……。

「そういうことか……お姉ちゃんにまかしときな。あたしが、これからなんとかしたげるから( ̄^ ̄)」

「ほんと?」

 泣きはらした目で見つめる妹。

「うん、今夜中にはなんとかするよ」

「お父さんお母さんには内緒でね!」

「まかしときな。スマホ借りるよ」

 とは言ったものの、確実な自信があったわけじゃない。

「……もしもし、北町署ですか。地域課お願いします」

 から始めた。昼間お世話になった妹の礼を言い、拡散していることを話した。

――承知しました――

 こういう場合の警察の「承知しました」は「なんとかする」を意味しない。ただ、当方が困っていることと、通報の実績を残しておくためのアリバイ。これで、最初に投稿した前田某は、もう少し痛い目にあうだろう。

 それから、自分のスマホで、バイト仲間の秋元クンに電話。

「……というわけなのよ。秋元クンなら、パソコン詳しいだろうと思って……そう、うん。そう……有難う、持つべきモノはバイトモだ!」

 秋元クンは、同じバイト仲間の聡子ちゃんとの問題がある。円満に解決するためには、こういう関係のない問題で繋がりを持っていた方が、いざというとき役に立つ。

「どうだった?」

 リビングに戻ると、お母さんが心配顔で聞いてくる。

「うん、大丈夫。手は打った。解決したら話すから。先にお風呂入るね……」

 お向かいのお葬式や、お母さんの風邪ひきもあったんだけど、それを理由に一週間連続のオデンもたまらない。まずはひとっ風呂浴びるとする。
 
 フニフニの竹輪麩はお父さんがやっつけてくれたようで、大根と、すじ肉、玉子、コンニャクでオデンをやっつける。
 
「そんな、無理して食べなくってもいいんだから」

「お腹は空いてたの……」

 言葉に余韻を残して、自分の部屋に。

 秋元クンから、――処理した。帝都女学院の画像見て――のメールがきていた。

 相変わらず、さくらのレイア姫が出ている。中にはお尻のアップや、豪徳寺一丁目の住居表示のアップも。

「どこに処理……あ、これか」

 さくらの姿がマリリンモンローの有名な姿に入れ替わり、尻尾が生えている。住居表示も狸寺三丁目になっていて、パロディーとして面白いものになっていた。
 
「さくら、解決しといたよ」

「ほんと!?」
 
 朝、通学前のさくらに耳打ち。さくらはスマホの画面を見て吹き出した。

「一件落着と……」

 一晩で、どこにでもある女子高生のパンチラ画像などは消えてしまい、モンローもどきの写真に置き換わっていた。さすがは秋元クンではある。

 「で、さくらの事って、何だったのよ?」

 朝ドラのボリュームを絞ってお母さんが顔を寄せてくる。

「え、ああ、あいつも年頃だからね。ちょっとした恋愛問題。もう片づいたから、ほら」

 家の前を、足どりも軽く学校へ向かう末娘の姿を見たお母さんは納得した様子。
 
 しかし、この軽い嘘が、後に現実になるとは、知るよしも無かった……。
 

☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 香取            北町警察の巡査
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