大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ライトノベルベスト・一週間物語・1〔ゲゲゲの月曜日〕

2021-05-10 06:42:40 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

一週間物語・1〔ゲゲゲの月曜日〕  




 月曜日は目が覚めるとゲゲゲだ。

 目はパチッとなんか覚めない。ボンヤリ濁った底から意識が浮かび上がって……朝かな、と微かに感じる。見ていた夢が、急速におぼろになって、記憶の底の底に沈んでいく。楽しい夢だったら、なんとか尻尾だけでも掴まえておこうと思うけど、なかなかうまくいかない。

 あたしは夢を覚えておくのが苦手だ。楽しかった、怖かったという思いだけが残って、肝心の夢の中身はドライアイスのケムみたく消えてしまう。
 で、次に「今日は月曜なんだ!」という厳然たる現実が暖かいお布団を突き抜けて、あたしの胸に突き刺さる。

 小学校の頃から学校って嫌いだから、この「今日は月曜なんだ!」は切実。
 今日から、五日間も、あのしんどい学校に行かなければならないのかと思うと「ゲゲゲ!」になる。
 学校が嫌いな理由はいっぱいある。

 一口では言えないから、この一週間だけ付き合ってくれる? そしたら、なんでか分かるから。

 今日は、ゲゲゲのあとにニンマリしてしまった。今日は振替休日なんだ。だからお母さんの「妙子、もう7時よ!」の声もしなかった。

 でも、こういう時、若いって損だ。目が覚めてしまうと、もう寝られない。他の子は違うらしい。二度寝、三度寝というのができるらしい。あたしの、このクセっちゅうか体質は年寄りに近い。世間のお婆ちゃんは「目が覚めると、寝てられなくてね」と早起きする。うちのお祖母ちゃんは、この点少女だ。二度寝が、あの歳になってもできる。

 お祖母ちゃんとは、去年の春から同居している。

 61の時に三つ年上のお祖父ちゃんが亡くなった。で、一人暮らしになったお祖母ちゃんは、自分から言いだして同居しだした。今年で65になるけど、まだ仕事をしている。信じられないことに高校の再任用の先生。22の歳からやってるから、ええと……43年も先生。よくやると思う。あたしなんか小中と高校一年半だけで顎が出かけてる。

 おトイレ行って、部屋着用のジャージに着替える。寝てる時はバーゲンのジャージなんだけど、起きてる時は、あたしなりのブランドジャージ。むろん、この季節なんで下にはヒートテック。
「ポチ、お散歩」
 飼い犬(ペットなどという範疇のものでは無い)のポチが「あれ?」っという顔をしている。ポチの散歩は、お父さんが帰ってからの日課になっている。散歩というと夕方か、夜のものだと思い込んでいる。それにお嬢様のあたしが声をかけたんで二重のビックリ。

 朝のポチはオズオズと歩く。

 調子を出すためにリードを引っ張って駆けてみる。瞬間嫌がったけど、そこは犬の習性。ランナーズハイになって、どっちが引っ張られているのか分からなくなる。
 公園に差し掛かると、多分他の犬のニオイいに触発されたんだろう、ウンコをしたがる。用意したウンコセットで、しっかりとってやる。思い付きの散歩だけど、このへんのヌカリはない。

 あたしは、ヌカリのない女子高生だよ。

 覚えた?

 30分ほど散歩して帰ると、予測通りお母さんとお祖母ちゃんが朝ごはんを作ってくれている。

 お祖母ちゃんが同居するようになってから、朝食は和食が多くなった。インスタントだけどお味噌汁に玉子焼き。それに漬物が少々。どれもお母さんよりも上手い。
「珍しいわね、休日なのにポチ散歩に連れてってってくれたの?」
「休みなの忘れて目が覚めちゃったから」
 そう言いながら、心の屈託が、ポワポワと心に浮かんでいるのに気付く。そうなんだよね、今朝の早起きは、今週中に解決しなきゃならない幾つかの問題のせいでもあるんだ。

 歯を磨く前に、もよおしてくる。トイレに急ぐと、ちょうどお父さんがパジャマ姿でトイレから出てきたところだ。ちょっと怯んだけど、三つ数えただけでトイレに入る。脱臭はされているけど、そこはかとなくお父さんが用を足した臭いが残っている。ファブリーズして……便座に座る。早朝散歩のお蔭か、ゲゲゲと思うくらい、すっきりする。

 この一週間で、あたしの問題もすっきりすればと願って、一週間物語の始まりだよ。


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