大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

ライトノベルベスト『魔法か高校の劣等生』

2021-06-21 06:53:41 | ライトノベルベスト

イトノベルベスト

『魔法か高校の劣等生』 




 ボクは悩んでいた。

 魔法か高校か……。

 魔法か高校のどちらかを選ばなければならなかった。

 と、書いたらオヤジギャグのように思われるかもしれないが、ボクは真剣だった。

 ボクが通っているR高校は……ちなみに瑠璃高校とか、蘭高校とか雅やかな高校のイニシャルではない。

 ある高校をもじったR高校(あーる高校)という意味。だから、君の高校かもしれないよ。その時は責任もてないのでヨロシク。

 ボクは衰退化しつつある魔族の末裔だ。

 一族の多くは人間との混血が進み、ほとんど魔力を失っている。

 従兄弟のKなんか、なけなしの魔力をマジックとして見せてマジシャンやってるけど、エンタティナーとしての魅力が無いために、食っていくのがやっとだ。もう一人の従姉は、人相を変える魔力しかないので、メイクによる変身術などと動画サイトに投稿、最近は本なんか出して、ほそぼそとやっている。彼女は、本物ソックリに変身できるんだけど、目立ちすぎるので、顔の下半分マスクで隠し、わざと似せないで、やっている。

 もう、純粋な魔属は、ボクの家系だけだ。

 一般に魔属は長生きで、三百歳なんてのがごろごろ居た。ボクは六十だけど、人間に換算すれば、やっと十七歳ぐらい。もう四十五年も高校生をやっている。

 その割りには、ずっと劣等生だ。

 高校の勉強なんて「答は?」と念ずれば、たちどころに答案用紙に正解が浮かび上がる。

 でも、ボクは、その手は使わない。人間達と一緒になって、頭を捻っている。

 やがて、魔属では無くなるであろう子孫のために、なるべく人間的にやることを心がけているのだ。

 ところが、今度入ったR高校で困ったことになった。

 校舎が老朽化したため、ちょっとしたショックで崩壊することが分かったのだ。

 むろん街の教育施設課は状況を掴んではいるが、立て替えには莫大な予算が必要なため、歴代の課長はずっと先送りにしてきた。

 ボクは、入学三日目で気づき……というより。崩壊に気づいたので、魔力で崩壊を食い止めている。むろん人には言えない。

 夏休みなどの休暇を利用して魔法を解き、崩壊させようと思っているのだ。

 だけど、部活や合宿などで、絶えず何人かの生徒がいる。

 魔法を解いても、その瞬間に崩壊するわけでは無い。何分か、何時間か、数日かのスパンがあるのだ。それが分からないので、うかつには解けない。

 しかし、この春は決意した。

 深夜を狙って魔法を解く。夜明けまでに崩壊すれば、犠牲者を出さずに済む。

 しかし賭のようなものだ。授業中までずれ込めば、ここの能なしな教師たちは、生徒達を誘導しきれずに相当な死傷者が出る。何度シュミレーションをやっても百人以下には犠牲者を押さえ込めない。

 でも、決意した。

 ぼくは、四十五年間劣等生を十五あまりの学校でやってきたが、落第させられたのは初めてだ。学校は、自分達の指導力の無さには、ぜんぜん気づかずに、あるいは気づこうとはしないで、原級留置ということで幕を引いた。だから、今回はやる。断然やる!

 ところが、状況が変わった。

 うちのクラスにスミレという美少女が転校してきたのだ。

 セミロングの髪がフンワリ。日によってはポニーテールや、クラシックなお下げにしたり。スカートも膝上三センチという粋な長さ。太もも露わにするよりも、座ったときに膝小僧がチラッと見えるぐらいがちょうどいい。女子高生としてのたしなみを心得た子だ。

「おまえ、それでいいのか?」

 オヤジは、そう言った。

 今度支え続けるとしたら、二年間は力が抜けない。スミレが卒業するまでだ。

 校舎崩壊を支える魔力はたいていではなく、かなり体力、気力を消耗する。

「では、誓いをたてよ」

 魔王さまの言うままに、ボクは誓をたてた。

 魔法か高校に決着をつける!

 この三年間は学校を護るぞ!

 しかし、スミレは、紫陽花が蕾を付け始めたころに、また転校していってしまった。

 三年間と誓いをたててしまったので、三年間は魔法を解けない!

 

 嗚呼!


 ボクは、最後の、そして間抜けな魔族だ……!


コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« コッペリア・30『ステップ... | トップ | かの世界この世界:192『... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

ライトノベルベスト」カテゴリの最新記事