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ボクは悩んでいた。
魔法か高校か……。
魔法か高校のどちらかを選ばなければならなかった。
と、書いたらオヤジギャグのように思われるかもしれないが、ボクは真剣だった。
ボクが通っているR高校は……ちなみに瑠璃高校とか、蘭高校とか雅やかな高校のイニシャルではない。
ある高校をもじったR高校(あーる高校)という意味。だから、君の高校かもしれないよ。その時は責任もてないのでヨロシク。
ボクは衰退化しつつある魔族の末裔だ。
一族の多くは人間との混血が進み、ほとんど魔力を失っている。
従兄弟のKなんか、なけなしの魔力をマジックとして見せてマジシャンやってるけど、エンタティナーとしての魅力が無いために、食っていくのがやっとだ。もう一人の従姉は、人相を変える魔力しかないので、メイクによる変身術などと動画サイトに投稿、最近は本なんか出して、ほそぼそとやっている。彼女は、本物ソックリに変身できるんだけど、目立ちすぎるので、顔の下半分マスクで隠し、わざと似せないで、やっている。
もう、純粋な魔属は、ボクの家系だけだ。
一般に魔属は長生きで、三百歳なんてのがごろごろ居た。ボクは六十だけど、人間に換算すれば、やっと十七歳ぐらい。もう四十五年も高校生をやっている。
その割りには、ずっと劣等生だ。
高校の勉強なんて「答は?」と念ずれば、たちどころに答案用紙に正解が浮かび上がる。
でも、ボクは、その手は使わない。人間達と一緒になって、頭を捻っている。
やがて、魔属では無くなるであろう子孫のために、なるべく人間的にやることを心がけているのだ。
ところが、今度入ったR高校で困ったことになった。
校舎が老朽化したため、ちょっとしたショックで崩壊することが分かったのだ。
むろん街の教育施設課は状況を掴んではいるが、立て替えには莫大な予算が必要なため、歴代の課長はずっと先送りにしてきた。
ボクは、入学三日目で気づき……というより。崩壊に気づいたので、魔力で崩壊を食い止めている。むろん人には言えない。
夏休みなどの休暇を利用して魔法を解き、崩壊させようと思っているのだ。
だけど、部活や合宿などで、絶えず何人かの生徒がいる。
魔法を解いても、その瞬間に崩壊するわけでは無い。何分か、何時間か、数日かのスパンがあるのだ。それが分からないので、うかつには解けない。
しかし、この春は決意した。
深夜を狙って魔法を解く。夜明けまでに崩壊すれば、犠牲者を出さずに済む。
しかし賭のようなものだ。授業中までずれ込めば、ここの能なしな教師たちは、生徒達を誘導しきれずに相当な死傷者が出る。何度シュミレーションをやっても百人以下には犠牲者を押さえ込めない。
でも、決意した。
ぼくは、四十五年間劣等生を十五あまりの学校でやってきたが、落第させられたのは初めてだ。学校は、自分達の指導力の無さには、ぜんぜん気づかずに、あるいは気づこうとはしないで、原級留置ということで幕を引いた。だから、今回はやる。断然やる!
ところが、状況が変わった。
うちのクラスにスミレという美少女が転校してきたのだ。
セミロングの髪がフンワリ。日によってはポニーテールや、クラシックなお下げにしたり。スカートも膝上三センチという粋な長さ。太もも露わにするよりも、座ったときに膝小僧がチラッと見えるぐらいがちょうどいい。女子高生としてのたしなみを心得た子だ。
「おまえ、それでいいのか?」
オヤジは、そう言った。
今度支え続けるとしたら、二年間は力が抜けない。スミレが卒業するまでだ。
校舎崩壊を支える魔力はたいていではなく、かなり体力、気力を消耗する。
「では、誓いをたてよ」
魔王さまの言うままに、ボクは誓をたてた。
魔法か高校に決着をつける!
この三年間は学校を護るぞ!
しかし、スミレは、紫陽花が蕾を付け始めたころに、また転校していってしまった。
三年間と誓いをたててしまったので、三年間は魔法を解けない!
嗚呼!
ボクは、最後の、そして間抜けな魔族だ……!