大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

オフステージ・(こちら空堀高校演劇部)・37「トランクの中身は……!」

2020-02-11 06:40:55 | 小説・2
オフステージ(こちら空堀高校演劇部)37
「トランクの中身は……!」                      




「「「「「「キャーーーー!」」」」」」

 中庭にこだます悲鳴!

「え、なに!?」「きゃ!」「なに!?」「なんだ!?」
「ちょっと見てくる!」「なにごと!?」「見にいこ!」

 部室棟の中を捜索していた演劇部員たちは、ほかの部室棟の住人たちと中庭に飛び出した。

 車いすの千歳と付き添いのミリーが部室棟を出た時には古井戸を覗き込むように人だかりがしていた。
 どうやら、部室棟から運び出されたガラクタが並べられて、演劇部の札が立てかけられているところだ。
 えーー あーー うーー 人だかりは声にならない唸り声をあげている。
「わ、わたしいい(^_^;)」
 人だかりに怯えたのか、なにかを予見したのか、千歳は車いすを止めて尻込みした。
「ほんなら、ここで待ってて」
 安全な場所に車いすを停めると、ミリーは人だかりの中に突入した。
 人だかりの中心からは変な臭いがして、みんな手やハンカチで口と鼻を押えている。

 OH MY GOD!!

 めったに出ない母国語が口をついた。
 人ごみの真ん中には古ぼけたトランクが口を開いている。
 そして、トランクの中には信じられないものが収まっていた。

 それは、古いセーラー服の制服を着て海老折りされたミイラ。

 見るんやない!
 
 立ち会いの松平先生がトランクの蓋を閉めたので、ミリーが見たのはほんの一瞬だった。
 でも、その姿は一瞬でミリーの脳に焼き付いた。

 くぼんだ眼窩には乾ききった梅干しのような眼球が収まり、鼻の先は欠落して二つの鼻孔が露わになっていた。
 唇は周囲の皮膚と一緒に乾ききってめくれ上がり、異様に白く見える歯列が覗いている。
 長い髪は整って、上になっている左頬を隠しながら体に掛かっていたが、古い絹糸の束のように艶が無く、幅広のカチューシャだけが艶めいていた。

「うーーーーえらいもん見てしもたあ」

 部室に戻ったミリーは腕組みをしたまま椅子に座り固まっている。
 啓介も口を利かない。
 須磨は椅子を車いすに寄せて千歳の手を握ってやっている。
 四人とも中庭の方を見ようとしない。
 中庭には、運び出されたガラクタが並んでいて、その真ん中には古いカーテンを掛けられたトランクが鎮座している。
 
 部室棟残留物の捜索は打ち切られ、急きょ現状保存のためのロープが張り巡らされた。

 他の文化部員たちは早々に下校したが、トランクの出所が演劇部の部室だったので、発見者の生徒たちと足止めを食っているのだ。

 梅雨時の湿った空気のせいか、地獄の使者を思わせるくぐもったサイレンが響いてきた。

「警察が来たわ、大変だけど中庭に集まってちょうだい」

 生徒会副会長の美晴が、四人を呼びに来た……。
 
 

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