オフステージ(こちら空堀高校演劇部)
107『リスペクトの気持ち』
リスペクトの気持ちはあるんや。
なんちゅうても空堀高校演劇部は看板だけで、放課後の居場所が欲しいという動機だけでつるんでる。
もともとは俺一人だけで普通教室の半分もある部室を占拠してて、それが生徒会に睨まれて、生徒会規約どおりの部員が居なければ存続を認めないと言われて、必死こいて集めた。
実態は、放課後のスクールライフを優雅に過ごすためのサロンになってる。
せやけど、看板に演劇部を名乗って連盟に加盟している限り、コンクールの受付ぐらいはやらんとあかん。
演劇部としての実態が無いことが、逆に高校演劇へのリスペクトの気持ちになってる。
「あ、全員で来られたんですか(^_^;)」
一時間前に着いた俺らは、どこに行っていいか分からへんかったんで、そろいのジャージで走り回ってる真田山の生徒を掴まえて聞いた「どないしたらええんでしょ?」
「あ、あわわわわ、椅子の数増やしますね」
ジャージはすっ飛んで行って、お仲間とパイプ椅子を両手に抱えて戻って来た。
「えと、これで人数分はあると思います」
受付には七脚のパイプ椅子が並んだ。
「あ、わたし車いすだから要りません」
千歳が生真面目に返答。
「あ、え、でも出してしもたから」
「そ、そですか」
ゼミテーブル一つだけの受付に六人(引率の朝倉先生込み)ちょっと多い。
どうやら受付というのは二人も居たら間に合うようで、開始直前になっても手持無沙汰この上ない。
「まだ二十三人だよ」
「パンフは五冊売れただけだ」
千歳と須磨先輩が何べんも来客数をカウントする。この二人が本来生真面目なのがよく分かる、観客が少ないのをなんだか自分たちのせいだと感じている風情がある。
「ハー、なんかギャップだわね」
「ギャップてなんやねん?」
「だって、ホールも学校もすごくいい設備じゃない、打ち合わせの時も人数多かったし。その雰囲気と、受付通った人の数がね……」
なるほど同感だ。
ミッキーが耳打ちしてミリーがスマホをいじりだした。
「なにしてんねん?」
「連盟のサイトをね……えと……難波高等学校演劇連盟でよかったわよね?」
「え、あ、たぶん」
「おかしいわね……」
「なにがですか?」
千歳が車いすを寄せ、それが合図だったようにみんなの首がミリーのスマホに集まった。
「コンクールの予告とかプログラムとか地図案内とか……なんにもないのよ」
「えー、うそ?」
朝倉先生まで乗り出した。先生は規定で引率責任者が必要という教師としての義務感だけで来ている。
その義務感からすると、コンクールは貴重な休日を潰されることに相応しいイベントでなければ「ぶっ殺すぞ!」と言いだしそうな気迫がある。
「なんにも出てませんね」
「ちょ、貸して! あ、自分の使えば……」
先生は自分のスマホで検索し始めた。
「東京なんかは詳しく出てるよ~」
悔しさがにじみ出ているけど、この人は休日を潰された事のショックだ。ま、分かりやすいんやけど。
「打ち合わせの最後にさ、役員の先生が言ってたじゃん『開会式には必ず全校出てください』って」
そう言えば言ってた。
「あれって、コンクールの大切さってか、参加する心構え的に言ってるんだと思ったけどさ……」
「参加校だけでも揃わなきゃ観客席が寂しすぎるってことじゃね?」
「あ、まあ……」
それ以上は本番前の受付で喋るのははばかられ口をつぐんだ。
そして開会のブザー、ホールのドアを閉めようとすると、開会の挨拶を始めた役員の先生の声がした。
その挨拶も終わったのか、ドアが静かに開くと七人が出て行った。プログラム一番の北浜高校だ。
「……てことは」
観客は十六人だけ……という言葉を呑み込んだ。