やはり書いておこう
書こうか書かまいか迷っていたが自分の人生に大きな影響を与えた存在なのだから
やはり書こう
福島屋旅館の解体が始まった、とシグナスさんから連絡を受けたのは2月の事だった。
いつかはその日が来ると思っていたが実際に知らせを聞くと動揺し
軽いパニックのような状態となった。
「あの福島屋旅館が本当に無くなる」
福島屋旅館ご主人のWGさんこと松尾さんが亡くなりサヨウナラ
シグナスさんのご尽力によって旅館は復活するも私は訳あって二度目のサヨウナラ
しばらくして旅館は長く続かず廃業したと人から聞いた時にまたサヨウナラ
めっきり熱海を訪れる回数も減った
皮肉なことに松尾さんが亡くなった後に熱海はメディアで取り上げられる頻度が増え
温泉街は若い人で賑わうようになった。
もしもまだ松尾さんがいれば福島屋旅館も違った事になっていたのだろう。
横須賀線、東海道線を乗り継ぎ
相模湾の車窓を眺めて熱海駅。
商店街を抜けて坂を降りて行き右カーブを曲がると福島屋旅館。
それはあるのが当たり前な存在だった。
存在を知ったのは20歳の頃でいつかは泊まってみたい宿だった。
(初めて泊まった際に撮影)
ブログを書き始めた頃なのだが実際には書ききれない程に訪れていた。
家ではないのに自分の帰る場所
独身故の贅沢な?逃避先だった。
生きていて嫌な事辛い事があっても
この仕事が終われば福島屋だ
緑色の薄いスリッパを穿きギシギシと音のする木の板の階段を上がり奥のかもめの間に
入り荷物を置き窓を開けて見慣れた街並みを眺める
浴衣に着替えて別の階段で浴場へ降り木製の戸を開け
年季の入った籠に衣類を入れて熱い湯に入る
あぁ、帰って来たなぁと幸せを感じる
湯船からあがり木製ベンチに座り扇風機にあたり身体を冷ましてから浴衣に着替え
共用冷蔵庫に入れておいたビールを取り部屋に戻る。
窓辺に座り団扇をあおぎ冷たいビールを飲んで普段は吸わない煙草を吸う
夜中に目を覚ますと廊下に出て蛍光灯の灯りの下でイスに座り
静まり返った中に聞こえてくる蛍光灯の安定器から出るジー、という音
何気ない事だけど癒される大切な場所だった
先日、三島へと出かける用事があったので途中熱海で下車をして
もう更地となっているという福島屋旅館を訪れた
坂町の寺桜の角を曲がると旅館が見えるのだが直前まで見ないように下を向き進み
玄関のあった辺りで顔を上げると
当然だが懐かしい福島屋旅館の姿は何ひとつ残っていなかった
残っていなかった、というより
消えていた
映画「ニューシネマパラダイス」のエンディングを思い出していた
呆然と立ち尽くし
左手に帳場がありその上に「かもめの間」があって浴場があの辺りで…
いろんな思い出が頭を過り未練がましく30分はいただろうか(あと10分いたらパトカーのサイレンが迫ってきただろうか…)
今度こそ本当にお別れだ‥‥私の愛した福島屋旅館
これからは
福島屋旅館を訪れ
ロビーのソファに座り松尾さんと煙草をのみ
あとからやって来たさまひさん安全さんと「かもめの間」で酒を飲んで
車庫にはあのコルト
そんな夢を
私は見続けるのだろう
コメントありがとうございます。
福島屋旅館、もうあのような世界は
無いでしょうから体験出来た思い出を
大切に生きることにします。
ブログは書きたいのですが
なかなか時間が無くて。
ネタだけが消えてしまい残念です。
時おりは書けるようにありたいです。
今後とも宜しくお願いします。
そうです、更地です。
もう二度とあのような「居場所」に出会う事は
無いと思います。
>>私も保養所がなくなって~
ともこさんも同じような居場所があったんですものね。
お察しします。
私もブログを読んでその存在を知り何度か前を通って「いつかお風呂に入りたいなぁ」って思ってました
私も保養所がなくなってめっきり熱海に行かなくなりました‥
寂しいですねぇ‥
ありがとうございます。
いつまでも引きずって行くと思いますが
それも悪い事ではないと思いますので
背負って生きていきます。
これは、悲しいお話ですね。
文面から、如何にこのお宿を愛されていたか、痛いほど伝わってきます。
あの日、あの時の、思い出を、大切にされてください。
彩雲四号さんが覚えていてくれれば、亡きご主人もお喜びになると思います。
m(_ _)m