『夢の小筥』

再び廻り来る事のない、この刻(いま)を、そっと筥に納めてみました。

 何となく・・

2008-08-03 14:17:22 | Weblog

  

 今日も、どんよりと重い雲が垂れ込めています。時々思い出したように、雨の雫が落ちてくる。

 嫌だナァ~と思ってもどうしようもなく、ボンヤリと外を眺めています。

 何を勘違いしたのか?木蓮の花が咲いてます。今頃咲いても、誰も褒めてはくれないのに・・・

 今日も昔話を一つ

   道真の登天石(水火天満宮)

  その昔、都で藤原氏がたいそう盛えておった頃のことじゃった。
 蒸し暑いある夏の日、急に空が曇ったかと思うと、紫色の大稲妻が走り、途端に天地も割れんばかりの雷が鳴り出した。
京の人々は生きた心地もせず、口々にこんなことを囁き合った。

 「これはきっと、筑紫の大宰府で亡くなられた道真さまのたたりに違いない」
                  
 「何でも右大臣じゃった道真様が、太宰権帥(だざいごんのそち)に左遷されたのは、左大臣、藤原時平様が、讒言(ざんげん)されたためらしいぞ」

  その年、延喜3年、2月25日、大宰府に流された道真が亡くなってから、都で不思議な天変が起こると、人々はみな、それを道真のたたりだと信じこんでおった。
大雨や落雷、そして水害、それだけならまだしも、道真の左遷に一役かった藤原菅根が、雷雨の中で変死し、相次いで噂の張本人、時平が死んだとなると、京の都では、誰一人として道真のたたりを信じぬ者はおらん、とうとうしまいには、時平の讒言を聞いて道真を大宰府に流した醍醐天皇までが、不安を抱くようになったそうな。
 そこで天皇は、道真が生前師と仰いでおった延暦寺の尊意僧正を呼んで、祈祷を命じたんじゃと。

 さて、命を受けた僧が、雷雨のなか、宮中へと向っておると、途中で不思議なことが起こった。
 加茂川にさしかかった頃、突然川の水が増え始めると、みるみる土手を越えて町に流れこんだんじゃ。
 僧はそれを見ると、少しもひるまずに持っておった数珠をひともみ、川に向ってお経を唱え始めたそうな。
するとどうしたこと、水の勢いはたちまち弱くなり川の中から一つの石が現れた。
しかもその上には、道真が立っているではないか。
道真はじっと僧を見ると、やがて静かに雲の中へと消えていった。
と、途端に今まで荒れ狂っておった雷雨も、ぴたりとやんだという。

 後、僧は道真の立っておった石を持ち帰ると、その霊を懇ろに供養した。

  これが、今、水火天満宮にある”石”だと伝えられている。

     お終い。