平家物語を読むということの大変さを、身をもって感じています。
疲れた頭を癒すため、昔話の本を繙き(ひもとき)ました。
子供が小さいころの本です。和紙を使って黒のタコ糸(のような)で綴じてあります。
初めは「あら、懐かしいな‥」と思いながら、読み進むといつの間にかすっかり、填まってしまい、ただ今、五冊めに突入。それで、その中から心に残った物語をいくつか、書いてみます。
大江山の鬼たいじ
その昔、丹波の大江山に、酒呑童子(しゅてんどうじ)という恐ろしい鬼が住んでいました。その酒呑童子が、酒をのんでは、五人の手下と一緒に、京の都で大暴れするので、いつのまにか、都の通りは、夕方になると人ひとり通らない、寂しい都になってしまいました。
ある日、大臣からの依頼で鬼退治をする事になった源氏の大将、源頼光は、長男、頼国の率いる六百の兵と共に大江山へ行きました。
やがて、六百の軍勢が山を取り囲んだという合図の白旗があがると、山伏し姿の六人の武士が、大江山へと向かいます。
先に立つのは、道案内の藤原保昌、次に頼光、そしてそれに続くのは、坂田の金時、渡辺の綱、卜部の季武、そして碓井の貞光の四天王たちでした。
ところが、一行が橋の向こうの関所にさしかかったとき、小さな酒つぼを持った、一人の老人が現れました。
そして、 「これは、鬼がのめば酔いつぶれ、お前たちがのめば力百倍になる不思議な酒じゃ。これで鬼どもを退治するがよい」 と言うと、すっと姿を消してしまったのです。
老人のくれた不思議な酒を持って、いよいよ頼光たちは、鬼の住み家へとやってきました。
「たのもう、私たちは、道に迷った山伏しの者、今夜一晩宿をお願いしたい」
鬼の岩屋の門の前で、季武が大声で呼ぶと、恐い顔をした鬼が出てきて、一行を睨みつけました。
と、すかさず金時がポンと酒つぼのふたをとると、うまい具合に、匂いをかぎつけた酒呑童子が出てきて、一行を奥へと通したのです。
こうして頼光たちは、うまく鬼の住み家に入ることができました。
さて、それからは酒盛りが始まり、飲めや歌えの大騒ぎ、ところが、しばらくすると、鬼どもはすっかり酔いつぶれ、ぐうぐういびきをたて始めたのです。
さぁ、この時とばかり、頼光たちは、鎧兜(よろいかぶと)に身を固めると、鬼どもの足を鎖でつなぎ、刀をふりあげました。
「起きろ、酒呑童子、我こそは源氏の大将、源頼光なるぞ」
ふいを突かれた酒呑童子は、あわててはね起きようとしますが、足が自由にならず、ひっくり返ってしまいました。
と、そこを、グサリと季武が胸を刺し、頼光がすばやく首をはねたのです。
怒り狂った童子の首は、天井までとび上がると、頼光めがけてかみついてきました。
しかし、八枚の鉄板を重ねて作られた兜に守られ、頼光は、危うく命拾いをしたのでした。
こうして一行は、逃げる鬼をも一人残らず退治し、一晩のうちに戦いは終わったのです。
かっては鬼の住んだと言う大江山も、今は静かにねむっていますが、ふもと金山の里では、このお話が、何代にもわたって語り継がれ、二十五年ごとに、賑やかにお祭りが行われています。
お終い。