『夢の小筥』

再び廻り来る事のない、この刻(いま)を、そっと筥に納めてみました。

 ”三十三間堂の棟木”

2008-08-22 15:11:56 | Weblog

 只今、まだ昔話の間を行ったり来たり・・・

 その昔、三浦半太郎吉勝という人が、紀伊国、熊野権現の近くを通りかかったときのこと。
大きな柳の木を囲んで、大勢の人がなにやらワイワイと騒いでおった。
何でも、殿様の鷹が足の綱を柳の枝にからませてしもうたげな。
またその木があまりにも大きくて、誰も助けに行く者がいないので、木を切ろうと騒いでおるところじゃった。

 「立派な木なのに・・・」
かわいそうに思うた吉勝は、狙いを定め、ひょうと矢を放った。
と、見事に矢は鷹の足の綱を射切り、鷹は無事に殿様の腕に飛び戻ってきたそうな。
それからしばらくたったある晩のこと、吉勝のもとに、一人の美しい女が現れた。
女は何かと吉勝の身の回りの世話をやくようになってなぁ、いつしか二人は夫婦になったんと。
やがて二人の間には元気な男の子も生まれ、毎日幸福に暮らしておった。

ところがそんなある夜、妻は悲しげに吉勝を見ると、こんなことを話出した。

 「実は私は、あなたに助けられた柳の木、御恩返しにとお側においてもらいましたが、今夜でお別れせねばなりません。京の東山にお寺が建てられるそうですが、その棟木に私が使われることになったのです。どうかこの子をよろしくお願いします」

そしてそれだけ言うと、すうっと姿を消してしもうたそうな。
吉勝はあまりのことに涙も出ず、ただぼんやりと幾日かを過ごしておった。

やがて妻の言うた通り、あの柳の木が切られる事になった。ところが無事に木を切り終わり、都に運ぼうというときになって、不思議な事が起きたんじゃ。
どんなに大勢の人がいくら頑張っても、木はびくともせん。
この話を聞いて思うところのあった吉勝は、さっそく子供を連れて熊野へとかけつけた。
そして切られた木の上に手をおいて、なにやら優しく言葉をかけたんじゃと。
するとどうじゃ、びくともしなかったあの大木が、まるで枯れ枝のようにするすると動き出したではないか。

 こうして柳の木は無事、京へと運ばれてなぁ、東山に、三十三間堂という立派なお寺が完成したそうな。

 その後、吉勝は僧となり、このお寺の住職に任じられた。

 そうして、棟木となった柳の木のため、熱心に供養を続けたと伝えられている。

 

 お終い。 昔話といっても、考えさせられることがいっぱい・・