愉しむ漢詩

漢詩をあるテーマ、例えば、”お酒”で切って読んでいく。又は作るのに挑戦する。”愉しむ漢詩”を目指します。

閑話休題97 酒に対す-19;北宋 / 王安石:元日

2019-01-10 17:05:37 | 漢詩を読む
この一句:
 東風 暖(ダン)を送って 屠蘇(トソ)に入る

新年を迎えて、お屠蘇の話題から始めます。約1,000年前、お隣中国の元日の様子を詠った王安石の詩「元日」(下記 参照)の第二句(承句)です。

屠蘇はなくなったようであるが、爆竹を鳴らして新年を祝う風習は、今の中国に生きているようです。また現在の“春联”は、詩中“新桃”に当たるのでしょうか。

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 元日  北宋 / 王安石
爆竹声中一歳除、爆竹(バクチク) 声中(セイチュウ) 一歳除(ジョ)す、
東風送暖入屠蘇。東風 暖(ダン)を送って 屠蘇(トソ)に入る。
千門万戸曈曈日、千門(センメン) 万戸(バンコ) 曈曈(トウトウ)たる日、
争挿新桃換旧符。争って挿(サ)す 新桃(シントウ) 旧符(キュウフ)に換(カ)えて。
 註]
  曈曈:出たばかりの太陽があかあかと輝いているさま
  新桃:桃の木で作られた新しいお札。桃の木は、厄払いの力を持つと信じられていて、そのお札を門に貼っていた。

<現代語訳> 
 元日
爆竹の音が賑やかに鳴り響く中、新年を迎え、
暖かい春風が吹いてきて、お屠蘇を頂く。
どの家でも、明るく輝く初日(ハツヒ)を迎えて、
桃の木でできた古いお札“桃符(トウフ)”を新しいのに取り替える。
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作者の王安石(1021~1086)は、臨江郡(江西省清江県)の人。北宋の政治家、詩人、文章家。詩人としても有名であり、特に七言絶句では、北宋第一と評されるほどである。文章家としては、唐宋八大家の一人に数えられている。

王安石の家は家族が多く、必ずしも裕福ではなかったようです。22歳で進士に合格しますが、中央官僚より給料が良い ということで地方官を歴任する。1058年(38歳)、政治改革を訴える上奏文を出して注目された。

北宋は、建国(960)以来ほぼ100年経って、類まれな平和な経済大国となっていた。しかし北方異民族に対する莫大な歳幣(サイヘイ)や軍事費、文官政治下での大量の官僚数やその高額の俸給など、歳出が多く、国家財政は破綻の危機に見舞われていた と。

一方、一般民衆の中では貧富の格差が大きかった。富裕層は諸種の特権が与えられている一方で、中小農・商民は富裕層からの搾取に晒されていた。歳入を増やすには、税負担に耐える健全な農民層を増やす必要があるが、その層が薄くなっていっていた と。

時の皇帝神宗は、政治の改革に情熱を持っていて、その施行者を求めていた。そこで、注目を浴びていた一地方官の王安石を抜擢して、翰林学士(1067)、副宰相(1069)、主席宰相(1970)へと任命して、政治改革に当たらせた。

王安石の考えは、財政再建の前提は、中小農民・商人を救済することにある とした。彼が採った政策は、大地主・大商人たちの利益を制限して、中小農民・商人たちを保護することで、結果的に政府も利益を上げるということであった。それを「新法」とよんでいる。

とくに有名な新法に「青苗法」がある。貧農は、端境期に資金が欠乏すると、種もみ等を買うのに、収穫時に返済する約束で地主から借金をします。その金利は、6,7割、ときには10割であった と。農民の貧窮からの脱出は叶わないわけである。

新法では、2割以下の低利で国家が貸付け、返済は、穀物とし、穀価が高くなれば銭でもよい と いうことになった。借金地獄から脱出して、“健全な農民”が一人でも増えれば、国家財政も潤う との考えです。

国家改造の必要性は誰しもが感じていたようではあるが、反対する人々も多かった。特に地主層の反発は強かったようである。また王安石の政策は“性急すぎる”として抵抗する人々もあり、その筆頭は司馬光であった。彼らは「旧法派」と通称されている。

1074年、河北で大旱魃が起こると、“これは新法に対する天の怒りである”との上奏があった と。そこで時の皇太后・宦官・官僚の圧力があり、神宗はやむなく王安石を解任、地方へ左遷することになる。

王安石は、1076年に辞職、翌年引退して隠棲した。1085年、神宗が崩御、翌年、王安石も没する。その後、「新法派」対「旧法派」は醜い党争を繰り返し、大きな政治的混乱が続いていく。国力の低下を招き、北宋が滅亡する大きな要因であったでしょう。

上掲の詩は、副宰相に昇進して「新法」を作り、新しい国造りに取り掛かるときに作った詩である。新年の喜びに重ねて、新しい出発を喜んでいる様子が見てとれ、読む方も明るい気分になります。

何はともあれ、伝統行事は大事に育み、次代に伝えていきたいものです。最近、文化遺産として公的に認められる例もあり、心強い限りです。


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