雨あがりのペイブメント

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読書案内「張込み」 松本清張著

2015-01-25 11:56:01 | 読書案内

読書案内

『張込み』 松本清張著 (傑作短編集5)

 

(写真・新潮文庫1965年版松本清張短編集収録)

 

 

 文庫本にして三十数ページの短編小説。刑事の『張込み』を通じて、「女の性(さが)」がクライマックスの最終章で浮き彫りになる。

 

 女のやりきれない寂しさが浮き彫りにされる。

 

 罪を犯して逃亡しているのは、3年前に別れた昔の男だ。

不治の病に侵された男と女の詳しい関係は一切述べられていない。

「昔恋愛関係にあった」たったこれだけのことで張込みが開始される。

女にどんな経緯があって、二十歳も年上の吝嗇家で3人の子持ちと再婚したのか、小説では一切の説明を省いている。

 

女28歳、亭主48歳。

(三年も前に別れて、しかも人妻になっている女に未練があるものだろうか)。

一抹の不安を抱きながら、刑事の張込みは続く。

 

5日間の張込みを通して、「幸せそうには見えない女の日常」が、刑事の目を通して淡々と描かれる。

5日目に動きがあり、男女は密会する。

 

 そこで刑事が見た女は、この5日間の張込みで見てきた生気のない女とは別人だった。

『別な命を吹き込まれたように、踊りだすように生き生きとしていた。炎がめらめらと見えるようだった。

刑事は、男に接近することができなかった。彼の心が躊躇していた』。

 

 男は逮捕され、張込みは功を奏したが、小説はこれで終わらない。

 

 平凡な日常生活から逸脱しかける女が踏みとどまり、再び日常へ戻って行ったのは、張込みを終えた刑事の一言だった。

その後の女のゆくすえを案じて小説は終わる。

 炎のように燃え上がる刹那的な血の騒ぎに埋没するのか、平凡だけれど約束された日常に帰っていくのか。

含蓄の深い小説である。

 

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