憎しみの連鎖 報復の連鎖
パリ同時多発テロ(3)
パリで起きた同時多発テロでは、130人もの尊い命が失われた。
14年前の2001年9月11日には、アルカイダによる米国での同時多発テロが発生した。
どちらの事件も「テロ許すまじ」という大義名分のもと、空爆を強化拡大してきた。
このやり方には人間が長きにわたり築いてきた、「英知」のひとかけらも感じることができない。
簡単に言ってしまえば、「目には目、歯には歯」、「やられたらやり返せ」の喧嘩殺法の展開だ。
空爆には一定の効果があるのは事実だが、これでISを撲滅することなど不可能なことは、誰にもわかる。
誤爆があり、巻き添えで犠牲になる一般人も多く、
こうした空爆の報復が更なる憎しみを生み出し、
やがてテロへの過激思想に発展していくケースも多いだろう。
わかりきったことなのに、テロに対して米国もフランスも空爆という報復を強化拡大する。
ここには、空爆する側にも受ける側にも何のメリットもない。
不毛の戦いは、互いの憎しみを増長させるだけで何の解決にもならない。
繰り返しになるが憎しみの連鎖は更なる憎しみを生み、
イスラム過激派を巡る問題はますます泥沼に入ってしまう。
なぜ報復としての空爆なのか。
その一因を伊勢崎賢治氏(東京外語大教授)は、次のように述べている。
なぜフランスも米国も空爆するのか。それは正当な民主主義国家だからです。テロ攻撃でたくさんの国民が死亡した。これに対して報復しなければ「弱虫大統領」などと言われてしまう。(そうなれば)政権維持が難しくなり、次の選挙で負けてしまう。選挙で政治家を選ぶ民主主義国だからこそ、「テロとの戦争」を掲げざるを得ないのだ。
これはある種のナショナリズムの表れなのかもしれません。
短期解決は望めないが、放送大教授・高橋和夫氏は、
空爆よりも効果があり国際社会が力を注ぐべきなのは封鎖と圧力だ。(略)人と物と金が(過激派イスラム圏に)入らないように、もっと国際社会が協力して封じ込めを強めるべきだ。と述べています。
宗教問題は武力により解決はできません。心の問題だからです。イスラム教に対する宗教的差別や経済格差をなくすことが解決の糸口なのだが、残念なことに、世論は報復の手段としての「空爆」を支持しているようです。
(昨日の風 今日の風№34) (2015.12.3記)