「逝きて還らぬ人」を詠う
③ 逝く者に見送るものに舞う小雪……
『大切な人が逝ってしまう。
人の世の宿命とは言え、余りに辛い体験はいつまでたっても心が癒されない。
悲しいことではあるけれど、
人間(ひと)はいつかはこの試練を乗り越えて生きていかなければならない。
死は予測された時間の中をゆっくり訪れる場合もあり、突然訪れる場合もある。
どちらの場合も、無常観と切り離すことはできない。』
逝く者に見送るものに舞う小雪すべてを過去にしてゆく小雪
………(福島市) 美原凍子 朝日歌壇18.02.04
あの日、津波が襲い、追い打ちをかけるように原発が容易ならざることを引き起こし、
原発の安全神話が崩れた日。恐怖と不安におびえ安全な場所を求めて逃げ惑う人々。
あの日も雪が降っていた。
小雪はあの日のことを思い出させるが、逝ってしまった者も生き残った者全てを
過去と言う波にのせて押し流して行ってしまう。
妻どこに!娘は何処に!7歳の孫と迎える七年目の春
………福島市 加藤哲章 朝日歌壇2017.03.13
7年目のあの日がやって来た。孫と2人出迎えた7年目の春。
穏やかに見える春だが、胸の奥では、「妻はどこに! 娘はどこに!」と、未だ発見できぬ2人
に向かって叫んでいる。慟哭の春である。
百歳は大往生と分かるけど泣く人いない通夜は悲しい
…………川崎市 小島 敦 朝日歌壇2016.09.05
一緒に歩んできた大切な人達はすでに、彼岸へと旅立ってしまった。
父、母、兄弟、子どもたち。失うには辛い大切な人達が逝ってしまった。
あまり長く生きすぎたのだろうか。悲しいはずのお別れの夜なのに、
どこかに安堵の時が流れる。
この星に吾を置き去りにせし君のソファの窪みに埋もれてすごす
………福島市 渕野里子 朝日歌壇2017.05.15
喪うにはあまりに大きな悲しい渦の中に漂っている私。
一人だけの夜に、決して温もりの還らないソファに、君の残した窪みの感触が新たな悲しみを
湧き上らせる。
亡き妻のベッドをそっと振り返る静かな静かな春の夕暮れ
………さいたま市 阿曽義之 朝日歌壇2017.06.05
春の日が朧(おぼろ)に暮れていく。
あぁー妻が逝ってからどれだけの時が流れたのだろう。
在りし日の妻の温もりが残っているようなベッド。
一日の終わりを告げる夜の帳(とばり)が、静かに降りてくる。
妻と私が共有できる唯一の時間だ。
父逝きてりんご畑は税金の相続のみの荒地となりぬ
………東京都 村上ちえ子 朝日歌壇2017.07.24
後継者のいないりんご畑。疲れたりんごの木。
丹精込めて手をかけて来たりんご畑。荒地になっていく果樹園。
負の遺産になってしまったりんご畑。今さらながら父の働く姿が目に浮かんでくる。
(人生を謳う) (2019.06.03記)
参考ブログ
「逝きて還らぬ人」を詠う ① 永遠に座る人なき椅子ひとつ……
(つれづれに…心もよう)2018.11.04
「逝きて還らぬ人」を詠う ② 悲しみは深爪に似て……
(つれづれに…心もよう)2019.02.28
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