公安が来た ① 銃強奪の事件の犯人は?
公安が私を名指しで来た
お客様が見えています。事務員が私を呼びに来た。
二人の男が私を待っていた。
風体から普通の人ではないなと思いながら、尋ねられるままに名前を言うと、
警察手帳を開き、静かなところでお話を伺いたいというので、応接室へと通す。
再び私は名前を確認された。
警察が私に何の用事なのか、思いつくまま訪問の理由を尋ねると、
それには答えず、「最近人を雇いましたか」といきなりの質問だ。
「ムッ」としながら「はい」と私。
「よろしかったら名前を教えていただけますか」と若いほうの刑事。
「理由も教えていただけずに、いくら警察でも名前を教えるわけにはいきません」
と私。今なら「個人情報にかかわることは教えることはできない」というところだ。
「4人ばかりをこの四月に採用しました」と私。
「その中に男は何人いますか」と若い刑事。
つまりは、最近採用した男のことを知りたいのだ。
「新規採用で男子一名を採用しています」と私。
「年齢は?」と聞き役の若い刑事。
それならそうと、回りくどい訪ね方をしないで、最初から「最近採用した男がいれば、年齢を
教えてほしい」と単刀直入に聞いてほしかった。
「学卒の新規採用です」と私。
「職種は?」と畳みかけるように問いかけてくる。
堪忍袋の緒が切れた私は、一気に相手を責めた。
「大体失礼ではないか、なぜ私を名指しで来たのか。質問の理由の説明もない」と私。
このような理不尽な訪問の仕方に、私はイライラしていた。
「あなた方の質問には一切答えるつもりはない。どうしても情報が欲しいなら、終業後に
従業員を捕まえて聞いてみたらいい。
ただし、会社の敷地の外でやってください。
ほとんどの人は送迎用のマイクロバスで最寄りの駅まで行きます。
バスの運行を妨げるようなことがないよう注意してください」と私。
「警察に疑われるようなことなど、私も会社もやましいところは何もない」と
よけいなことまで言ってしまった。
私は若かった。
相手は20代後半の若い刑事と40半ばの二人。
「捜査の秘密」とやらで、相手の機嫌を損ねることなど百も承知の刑事たちだ。
「質問しているのは俺の方だ」と言わんばかりに、私のイライラなど一向に気にかけず
「ボイラーの管理は、有資格者がしていますか」と聞いてくる。
「私には答える義務はないが、拒否する権利はある」と私。
意固地になっている私に、年上の刑事が言った。
「これから先は、捜査ではなく、茶飲み話ということで話を進めましょう」
「お互いに聞かなかったこと、言わなかったことにしていただいても結構です」
黙っている私を気にとめることもなく、
「〇〇の猟銃強奪事件は知っていますか」と、年上の刑事。
能面のように感情の表現を殺した顔から、
緊張を解きほぐしたような穏やかな顔に戻り、
冷えたお茶を音を立ててすすりながら、つぶやくように言った。
(つづく)
(つれづれ日記№81) (2023.03.05記)
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