雨あがりのペイブメント

雨あがりのペイブメントに映る景色が好きです。四季折々に感じたことを、ジャンルにとらわれずに記録します。

読書案内「詩の礫(つぶて)」 言葉が読者の感性に突き刺さる

2017-08-21 08:30:00 | 読書案内

読書案内「詩の礫」 河合亮一著 徳間書店 2013.3刊

 
放射能が降っています。静かな夜です。
                               2011.3.16  

   全ての言葉の無駄をそぎ落として、読む人の感性をぐさりと突刺します。
   ただただ沈黙して瞑想する。
        そこに見えてくるのは、ひっそりとわが身を包み、家を包み、

   故郷を包み込んでひたひたと襲い来る放射能の恐怖なのでしょう。
   『静かな夜』という表現に込められた詩人の思いが読む人の心を捉えます。
   

誰かに呼ばれた気がして振り向いた瞬間に、
 空気が恐い顔をしている、福島の雲の切れ間
                   2011.3.27
                                    
 

   雑草に覆われ原野に戻っていく無人の故郷に立っていると、
   誰かに呼ばれた気がして我に返った。
   詩人はそこに放射能の舞い上がる汚染された空気を感じたのでしょう。
   雲の切れ間からも汚染された光が降ってくる。
   恐ろしく不安で、淋しい風景だ。

 
あなたにとって、懐かしい街がありますか。
  私には懐かしい街があります。
   その街は、無くなってしまったのだけれど
    失われてしまったが私の想いの中には、しっかり刻まれた懐かしい故郷があります。
    あなたはそんな故郷を持っていますか。
          かけがえのないものを失ってしまった詩人の悲しみが伝わってきます。

  夜更けに 田園で桜の木が一本だけ
  満開のまま立っている 立ち尽くしている
   あれは きみだ
   「ほら 始発が近づいている 一緒に 旅をしよう」
         訪れる人のいない夜更け。
    立ち尽くす一本の満開の桜。
        「あれは きみだ」。
         同時にそれは自分自身でもある。
         佇むのはやめよう。
         最初の一歩を僕と一緒に踏み出そう。
         ここが始発駅だ。
         さあー桜の花が散る前に旅に出よう

 

 制御とは何か。余震。
あなたは「制御」しているか、原子力を。余震。
人類は原子力の素顔を見たことがあるか。余震。

 
巨大な力を制御することの難しさが今、
福島に二重に与えられてしまっている。
自然と人工とが、制御できない脅威という点で重なっていく。余震。
                          2011.3.22         

    ここに紹介した詩は、原発事故直後 の2011.3.16から誰も居なくなった我が家に避難所から戻り、
140文字というツイッターの中で著者がつぶやいた言葉の集大成です。(詩の末尾に示した数字はつぶやいた日付です)。原発事故が起きて6年が過ぎたが、いったいどれだけの復興や廃炉作業が進んだのか。多くの物を喪失した心の傷はどれだけ回復したのか。
「詩の礫」を読むと、福島の事故がまだ終わっていないことを実感できます。
そして、再稼働の歩みも少しずつ進んでいます。「核のゴミ」の最終処分場の問題もやっとスタートラインに立ったばかりです。10万年という果てしのない時間は、人類には予測の範囲を遥かに越えた時間です。こんな長い時間の予測ができるのなら、何故原発の危険性を予測できないのでしょう。なぜ再生エネルギーの問題に積極的に取り組まないのでしょう。そんな思いを抱かせる詩集です。
        (2017.8.19記)       (読書案内№102)

 

 

 

 

 

                   


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