「内部告発」その後の展開と問題点
山口県田布施町が固定資産税の課税ミスを内部告発した職員を、
町役場とは別棟の公民館の畳の部屋に移動させた。
課税ミスは、何の改善もされずそのまま放置され、2年が過ぎる。
この職員は、2年間にまったく関連性のない部署へ3度の異動の辞令が降りた。
「正しいことをした人間にこういう仕打ちをすれば、他の職員は何も言えなくなる」
痛恨の思いである。
「隠蔽」「パワハラ」の疑い明らかな事象に町は、町はまったく誠意を示さず
9日の町議会で、東町長は「隔離をするとか、人間関係を切り離すというつもりはない」
と正当性を主張していた。
10日、全国区の新聞やメディアに一斉に報道される。
町民の反応は素早かった。
報道以後、町には抗議の電話やメールが600件以上も寄せられ、爆破予告の電話まであり、
町長たちの思わぬ方向に拡大していった。
町の対応は早かった。
6月18日、朝日新聞の記事。
「町長謝罪、職場変更へ」
移動が報道された9日以降、職員と数回面談し、直接謝罪。
人事評価も内部調査の結果、適正な評価ではないと撤回、訂正。
(こんな、不適切な人事評価をした人物は何らかの咎めがあってしかるべきではないか。
だが、この評価が町長がらみで行われた場合、どう決着をつけるのか)
町は今後、職場での問題を外部の弁護士に直接相談できる体制を整えることも検討している。
職場環境の健全化と労働環境の透明化等については、期待するところ大である。
しかし、問題もある。
町が選任する弁護士等はどのように選任するのか。
小さな町で特定の弁護士を選任しても、町や町長と同じ穴のムジナになってしまっては
なんのための是正策かわからなくなってしまう。
かって、第三者委員会の設置が義務付けられたとき、
そのメンバーをトップの知り合いや、利害関係で繋がる人を選任し(設置要綱にはこうしたことがないよ
うに人選の注意事項も示されているのだが)、
第三者委員会の信用性を失墜させてしまった例はいくつもある。
6月1日から、パワハラ防止対策を義務付けた「女性活躍・ハラスメント規制法」が施行された。
法によるパワハラ規制は初めてで、成果が期待される。
各地の労働局に寄せられた相談で、パワハラを含むいじめや嫌がらせは、約2万2千件にのぼっている
(2018年度)。7年続けてのトップである。
経営者や上司等の意識改革をしなければ、
この規制法は絵に描いた餅になってしまう。
内容にも問題がある。
労働者側が強く求めていた罰則規定が盛り込まれていないことである。
業務上必要な指導とパワハラとの線引きが、曖昧であるというのが、
経営者側の反対した理由である。
しかし、往々にしてパワハラ問題が表面化するのは、
「業務上必要」だとして行った「指導」の行き過ぎで、問題になり、
表面化する労働問題はたくさんある。
指導する側とこれを受ける労働者側の解釈の違いで、
発生し人権問題にまで発展するケースは多々見られる。
罰則規定がないから、「注意勧告」で終わってしまうのか。
国際労働機関(ILO)は、2019年ハラスメントを禁じる条約を採択した。
罰則規定や被害者救済措置も明記されていることから、単なるハラスメント禁止条項ではなく、
労働者の人権を守ろうとする意図が感じられる。
田布施の問題が示すように、パワハラは人権問題だという意識を喚起するような
指針が必要なのではないか。
今回の事例が示すように、
定見のない指導者や上司がいる職場は
不幸である。
町長をはじめとして、職員が一丸となってより良い職場づくりを心掛けることが必要と思う。
ぜひ、今回のことがそのための試金石になれば幸いである。
※ 参考資料 朝日新聞 中国新聞デジタル
(昨日の風 今日の風№110) (2020.6.25記)
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ご無沙汰しております
田布施町のこの一件は本当にひどい話だ、と私も思っておりました
それにしても難しい問題だとも思います
ハラスメントかどうかを判断する側の人間の資質について考える時、今の政治やいい加減な法律を見てますととても不安でもあります。
以前仕事上で関わった会社が、解雇した従業員から訴えられたケースがありました。
私は解雇された従業員を良く知っておりましたが、残念ながら私でも解雇したくなるような人でした。
ところが労働審判になりますと、結局企業側が大幅に折れて結構な金額を支払うことになりました。
仕事柄このようなケースを多く見てきましたが、やはりその線引きは非常に難しいように思っています
ありがとうございました
線引きが本当に難しいですね。
社会福祉事業に携わっていたとき、理不尽な訴えに唖然とし、馬鹿々々しい思いをしたことが何度もありました。
直接「パワハラだから訴えます」と、言われたこともありました。いずれの場合も「どうぞ」ということで、行政機関から
監査がありましたが、すべて当方の主張が通りました。
是正するところは是正し、相手の意見にはよく耳をかたむける姿勢が必要と思います。
そして、いちばん大切なことはゆるぎのない定見をもち、自分の法人で起きたことは、トップの私が全面的に盾になって部下を見捨てないという姿勢かと思います。
理事長からトップを拝命したときから、私はポケットに辞表を忍ばせ、業務にあたりました。責任の所在を明らかにしたいという思いの表れではなかったかと思っています。
何だか偉そうなことを述べてしまいましたが、小平次さんのおっしゃる通り、「線引き」をきちんとすることが重要なことではな以下と思います。