読書案内「真鶴」川上弘美著 文芸春秋2006.10 第一刷
女性作家の小説はあまり読まない。神経の細やかさと、感情の襞(ひだ)を分け入るような表現に男の私はなかなかついていけない。(例外として、山崎豊子の著作「沈まぬ太陽」や「運命の人」などはスケールが大きく、面白く感じた)。川上弘美の小説も初めてだが、なかなか読み進めることが出来なかった。ストーリー性に乏しい小説は苦手だ。
12前に、突然夫が失踪してしまう。
日記に残された「真鶴」という言葉に惹かれ、東京と真鶴を何度か往復する主人公・京。
真鶴に何があるのか。夫の失踪の原因が発見できるのか。夫は真鶴にいるのか。
実母と夫・礼との間の一人娘・百(もも)との3人暮らしであるが、家族のある青茲との不倫関係もある。
真鶴行には、不可解な女『ついてくる女』が登場する。突然現れ、突然に姿を消す。
これは京のもう一人の自分なのか、分身なのか、説明はない。
幻覚と幻聴なのか、京の精神が病んでいるのか。一切の判断は読者にゆだねられている。
不倫相手の青茲との関係も満たされてはいるが、失踪した夫・礼への未練があるのだろう。
未練というより、京を捨てて失踪した夫への断ちがたい情念の炎か。
失踪した夫は、京に殺されたのではないか。私にもこうした妄想が湧いてくる。
先の見えない物語に終始惑わされつつ最終章を迎えてしまった。
釈然としないまま、私の心に残ったものは、女の理解しがたい情念の世界だ。
それは、石川さゆりが情感こめて歌う「天城越え」(作詞・吉岡治)の現実と情念の世界が混然と一体化するような、理解しがたい世界だ。
……誰かに盗られる くらいなら
あなたを殺して いいですか
……ふたりで居たって 寒いけど
嘘でもだかれりゃ あたたかい
この小説にとって、私はよい読者ではない。主人公・京の心の動きを理解することなくペンを置くことになる。
評価☆☆☆ (同じ装丁で文春文庫でも発刊) (2015.6.19記)
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