「それは卑怯な言い方です。私がいれば、佐久間は討たせはしませんでした。たとえ兄上であっても」。
田鶴は眼を光らせ、気合いを発して斬りこんでくる。
激しい斬りあいのさなか、
「若旦那様。斬ってはなりませんぞ」新蔵が叫んだのが聞こえた。
切迫した声だった。
勝負の結末を述べるのは、
無粋であり、興味をそぐことになるので控えます。(観て、読んで、お楽しみ)。
……朔之助は橋を渡り、来た道を戻っていく。
藤沢周平の原作は最後に、
『橋の下で豊かな川水が軽やかな音を立てていた』と述べて終わっている。
象徴的な終わり方です。
豊かな川水が軽やかな音を立てている状況を、イメージして欲しい。
このイメージは、朔之助たちの幼い日のイメージに繋がっています。
「義」を貫いた朔之助であったが、最後の場面で一転し、
「情」の世界へと導く手法に読者は安堵し、観客も救われる。
映画ではさらに、
両親が朔之助の帰りを待つ庭の木に、白い花を一斉に咲かせて、
結末のさわやかさを暗示する。
小説にはこの部分はない。
「なりゆきを、決然と生きる」芥川賞作家で僧侶の玄侑宗久の言葉であるが、
菅総理の座右の銘でもある。
混迷の時代を生きる私たちには、
重く、そして、勇気づけられる言葉であり、
朔之助の武士としての生き方にも通じる言葉である。
大地震、津波、原発と東日本大災害の中で被災者が失ったものは大きい。
しかし、支援の輪が広がり、この悲劇を教訓として、コミュニティの中で養われた、
人と人の絆がどんなに大切であるかを、私たちはあらためて知らされました。
どんなに打ちのめされようとも、厳しい現実に立たされようとも
「なりゆきを、決然と生きる」強い意志を持っているのだと、
朔之助や忠左衛門の生き方に共感を覚えました。
原作:藤沢周平著「闇の穴」所収「小川の辺」新潮文庫
(おわり)
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