雨あがりのペイブメント

雨あがりのペイブメントに映る景色が好きです。四季折々に感じたことを、ジャンルにとらわれずに記録します。

映画と小説 「小川の辺」(4)・決然として生きる

2011-08-27 15:57:15 | 映画と小説

 

  「それは卑怯な言い方です。私がいれば、佐久間は討たせはしませんでした。たとえ兄上であっても」。

 田鶴は眼を光らせ、気合いを発して斬りこんでくる。

 激しい斬りあいのさなか、

 「若旦那様。斬ってはなりませんぞ」新蔵が叫んだのが聞こえた。

 切迫した声だった。

 

 勝負の結末を述べるのは、

 無粋であり、興味をそぐことになるので控えます。(観て、読んで、お楽しみ)。

 

 ……朔之助は橋を渡り、来た道を戻っていく。

 藤沢周平の原作は最後に、

 『橋の下で豊かな川水が軽やかな音を立てていた』と述べて終わっている。

 象徴的な終わり方です。

 豊かな川水が軽やかな音を立てている状況を、イメージして欲しい。

 このイメージは、朔之助たちの幼い日のイメージに繋がっています。

 

 「義」を貫いた朔之助であったが、最後の場面で一転し、

 「情」の世界へと導く手法に読者は安堵し、観客も救われる。

 映画ではさらに、

 両親が朔之助の帰りを待つ庭の木に、白い花を一斉に咲かせて、

 結末のさわやかさを暗示する。

 小説にはこの部分はない。

 

 「なりゆきを、決然と生きる」芥川賞作家で僧侶の玄侑宗久の言葉であるが、

菅総理の座右の銘でもある。

 混迷の時代を生きる私たちには、

 重く、そして、勇気づけられる言葉であり、

 朔之助の武士としての生き方にも通じる言葉である。

 

   大地震、津波、原発と東日本大災害の中で被災者が失ったものは大きい。

  しかし、支援の輪が広がり、この悲劇を教訓として、コミュニティの中で養われた、

  人と人の絆がどんなに大切であるかを、私たちはあらためて知らされました。

   どんなに打ちのめされようとも、厳しい現実に立たされようとも

  「なりゆきを、決然と生きる」強い意志を持っているのだと、

  朔之助や忠左衛門の生き方に共感を覚えました。

                      原作:藤沢周平著「闇の穴」所収「小川の辺」新潮文庫

                                   (おわり) 

 

 

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