脳卒中をやっつけろ!

脳卒中に関する専門医の本音トーク
 最新情報をやさしく解説します 

くも膜下出血ークリッピング術 その5 ドレナージ

2008年10月13日 | くも膜下出血
ドレナージって言う言葉知っていますか?
これを知っていたらまず医療関係者です。
英語の「drain」というのは「(液体)を徐々に排出する、水はけを良くする」という意味です。
また「drainage」は「排水、排水ポンプ、排水装置」という意味です。
つまり医療行為としては「手術した部分に管を入れて、体外に排出する」ことを指します。
おなかの手術のあとに手術した部分に管が入っているでしょう。
あれが「ドレナージ」です。
頭の手術でもドレナージをする事がよくあります。
皮膚の下に入れる場合は「皮下ドレナージ」
脳室に入れる場合には「脳室ドレナージ」
腰から入れるのは「脊髄ドレナージ、またはスパイナルドレナージ」
といいます。

くも膜下出血の手術では、おもに出血や髄液を外に出すために行われます。
頭に水がたまる「水頭症」を伴う事が多く、くも膜下出血によって髄液に血が混じってしまい、これにより血管が縮むためにその予防として行うのです。

脳血管内手術の方がクリッピングよりもこの水頭症が少ないという報告があります。
これはくも膜を手術でこわすことが水頭症の悪化につながるという事を示しています。
たかがくも膜といえども大事なんですね。

さて頭に管が入っていると、すごく驚きますが、本人は痛くもかゆくもありません。
管を入れておいて、十分に排出されたら抜いてしまいます。
この管一本が命に関わる事もあるんですよ。

病院で「ドレナージ」という言葉を聞いたら「ああ、あれか!」と思い出してくださいね。

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くも膜下出血ークリッピング術 その4 シルビウス裂開放 つづき

2008年10月09日 | くも膜下出血
その4での練習方法について書くのを忘れていました。
その練習法とは!
顕微鏡下で練習することです。
なあんだーという声が聞こえてきそうですが、人間での練習ではありません。
ラットなどを用いた練習です。
私の経験ではラットの大動脈と大静脈を剥離(はくり)するのが最も良い練習法です。
バイパスの練習を始めた頃「ラットがかわいそう」と私は思いました。しかし「じゃあ先生は人間で練習するの?」という当時の看護婦さんの言葉が決定的に私をこの練習に駆り立てたのでした。
とは言っても動物愛護的には問題があると思いますので、将来的にはコンピューターシミュレーションが最もいいでしょう。

さて、私はチューリヒ大学にいたとき、毎週バイパスの練習を行っていました。
初日はチューブをつなぐ練習から始まり、徐々にラットの血管をつなぐ練習に入るのです。
確立したトレーニングシステムがチューリヒ大学にはあります。
有名なヤシャギル(Yasargil)教授がこのシステムを作られたと聞いています。
そこにはフリックさんという、元看護士の指導者がいます。
フリックさんは「ちょーきびしい」のですが、ラットの血管吻合の腕は「超一流」で、練習に関していろんなことを教えてもらえます。
私はチューリヒ留学前に国立循環器病センターですでにラットでの血管吻合の練習を終えて実際の手術もしていましたが、フリックさんの指導には「目からうろこが落ちる」思いを何度もしました。
詳細は省きますが、ピンセットの持ち方から、針を通す位置、間隔、結び方、閉め具合、糸を切る位置まで、一本の縫合にここまで!と思うほどこだわっていて、本当に目の覚めるような思いでした。
頚動脈に静脈をつなぐことが出来るようになると徐々にフリックさんが手を加えて難しくしていきます。
そしてそれに合格し始めると、空いた時間で大動脈の剥離を許されるようになるのです。
これもこだわりはじめるとどれだけ時間があっても足りないぐらい奥が深いのですが、不思議なことに練習を重ねるに従って時間内に剥離できる範囲が広がって行きます。
この剥離操作はシルビウス裂をあけるのにそっくりです。
ぜひこれから手術をトレーニングする先生達にやってほしい練習法です。

そして次に大事なのは実際に剥離の上手な先生の手術を見ることです。
ぼんやりと見るだけでは習得できませんが、自分が実際に手術をするようになると、参考となる重要ポイントが見えてきます。
私は国循の橋本先生のビデオを見ながら、大学に戻ってからは先輩の郭先生、岩間先生(現当科教授)の手術をみて参考にしました。
最近では旭川赤十字病院の上山先生の手技を見に行って学びました。
うまい人のやり方にはそれぞれ理論やパターンがあるものです。これを頭に叩き込んで、「細い血管も全て残すぞ!」と気合いを入れて手術していれば、徐々に綺麗な手術が出来るようになります。
実践が最も大切ですが、そこに至るまでの練習法、練習時間も大事です。
この辺りはちょっとスポーツに似ています。
いい指導者の元でいい練習法でたくさん練習をする。
これがコツだと思います。

入門者達よ、がんばれー!

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くも膜下出血ークリッピング術 その5 クリッピング

2008年09月28日 | くも膜下出血
シルビウス裂がきれいに開放され、脳動脈瘤がはくりされたら血管をよく観察します。
動脈瘤が見えると、そこに処置を加えたくなりますが、ぐっと我慢して、動脈瘤よりも心臓側(近位側)をはくりします。
これさえできれば、大事故はありません。
動脈瘤が破裂しても血流をコントロールする事が出来るからです。
その後、動脈瘤の根元(ネック)をはくりします。

さてクリップには2種類ある事を知っていますか?
1つは動脈瘤を処置する為のクリップで、永久にかけておくので、パーマネントクリップ(permanent clip)
もう1つは動脈瘤ではなく血管の遮断に使う一時的なクリップで、テンポラリークリップ(temporary clip)
といいます。

通常は動脈瘤よりも心臓側の血管にテンポラリークリップをかけて血流を止めてから、パーマネントクリップを動脈瘤のネックにかけます。そしてテンポラリークリップをはずすのです。
こうすれば動脈瘤が破裂しても、大出血しないため視野がさえぎられずに治療が出来ます。
安全第一ですからね。

普通のサイズの動脈瘤はこのように治療されます。
イメージがホームページにあるので見てくださいね。
http://www.e-oishasan.net/doctors_site/yoshimura/treat02.html
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くも膜下出血ークリッピング術 その4 シルビウス裂開放

2008年09月21日 | くも膜下出血
いよいよ頭の中に入ってきましたよ。
クリッピング術をする時に最も重要なのは、脳と脳の隙間をきれいに分けることです。医学的には剥離(はくり)と言います。
昔は脳をむりやり引っ張って治療していましたが、現在は脳と脳の隙間を、血管を切ることなくきれいに広げることが良い治療成績につながると考えられています。
実際、脳の表面の静脈を焼いてしまうような手術の治療成績を見たことがあるのですが、術後に脳がはれたり出血したりと大変なことになってしまいます。

さて、その剥離の方法にもいろいろありますが、最近は脳と脳のすきまにある「くも膜」をハサミで切りながら進んでいく方法が良いとされています。
この方法は「sharp dissection (鋭的はくり)」と言われており、私が国立循環器病センターにいた頃、当時の部長の橋本信夫先生に教えてもらいました。
当時は動脈瘤のそばの組織をハサミで切るのを見て大変驚きましたし、「ちょっと危険じゃないのか」と思っていました。
器用な橋本先生だからできる技術とも思いました。
しかし、操作を誤って血管や動脈瘤に切り込むことさえなければ、血管や動脈瘤への力が加わらず、脳表の細かな血管が傷つかないので大変きれいですばらしい方法です。
今や世界的にも主流の方法となりました。
やはりいい方法というのは自然に広まるものなんですね。
現在は私もシルビウス裂や動脈瘤の剥離は、ハサミを使ってsharpに行っています。
動脈瘤をきれいに剥離できれば、クリッピングは非常にやりやすくなるのです。

さてシルビウス裂というのは前頭葉と側頭葉の間のスペースで、クリッピング術において最もよく通過する場所です。
ここをきれいに分けるのがクリッピング術のこつです。
若手脳神経外科医のクリッピング術の一つの壁、それがこの「シルビウス裂をきれいに分けること」なのです。

どうしたらうまく分けられるようになるんでしょうね?
数をやればうまくなる?
もちろんそうです。
練習法は?...
あるんですよ。
次回紹介します。
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くも膜下出血ークリッピング術 その3 開頭

2008年09月07日 | くも膜下出血
開頭術、怖い言葉ですよね。
「あたまカチ割るんですかあ?勘弁してください。」と言った患者さんもおられました。
そうですね。切らずにすんだ方が安心ですね。
でも切らないと治療できない場合は仕方がないですよね。

今回は開頭について説明します。
頭をあけたら死んでしまう!なんて思ってしまいますが、人間強いもんです。
90歳の人でも、頭をあける手術をしてもピンピンしている人がいます。

さてその方法は?
手術の前によく聞かれます。
「骨はどうやって開けるのですか?」
「外した骨はどうするのですか?」

上の図のように、
A) まず骨に何カ所かドリルで穴をあけます。
このドリルは開頭専用のもので、骨を貫通するとドリルの先端が止まるようになっていて、脳や脳を包む硬膜を傷つけません。
B) 次にこの穴を骨切りでつなげます。そうすると骨は簡単にはずれます。
C) そして手術中は生理食塩水に浸しておいて、最後にもどします。
以前は手術用の糸で固定していましたが、最近ではチタンプレート(上図)でしっかりと固定します。
この固定はかなり強く、固定直後に頭をぶつけても大丈夫なほどです。

謎が解けましたか?
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くも膜下出血ークリッピング術 その2 皮膚切開

2008年09月02日 | くも膜下出血
次に皮膚の切開についてです。
これは生え際より上の、髪の毛の中で行うことが普通なので、手術後はあまりめだちません。
以前は眉毛のそばに小さな皮膚切開をおいてカギ孔手術をしたこともありますが、最近は成績を重視してスタンダードな皮膚切開で手術しています。

お話ししたいのは髪の毛のことです。
私が研修医の頃は、「髪の毛は汚い!」ということで、髪の毛をそるのが一般的でした。
ちょっとの手術でも全剃毛、つまり頭全体をつるつるにしていました。
出家でもあるまいし。

さらには治療前に頭を出来るだけ消毒でゴシゴシとこすれと教わりました。
ある会では、「だまされたと思って30分ブラッシングしてみてください、感染しません」と偉い先生が言っておられました。

しかし医学は進歩し、「剃毛や過度のブラッシングこそが悪い。皮膚についた傷に菌が繁殖し、それがもとで手術時に感染が起こる」と言われるようになってきました。これは頭だけでなく全身にあてはまります。
実は私は研修医の頃はこの「全剃毛」を得意としており、「お前は医者がだめでも床屋になれるぞ」と上の先生に言われていた程です。「さかぞり」名人だったのです。
しかしその私が現在は無剃毛、つまり髪の毛を全く剃らずに手術をしています。
髪の毛は消毒さえしてあれば大丈夫なのです。
髪の毛をきれいに分けて、そこから皮膚切開をする。
手術が終わって髪の毛を下ろすと、長い髪の女の人などは圧巻です。
全く手術の跡が見えないのです。ちょっと感動です。
女の人にとって「髪は命」だそうですから...
おっと、差別はいけない、男性も無剃毛で手術していますよ。
今日も動脈瘤のクリッピング術をしましたが、髪の毛の少ない方でしたので「無剃毛」で美容的に治療しました。
手術も2時間で済んで、患者さんは元気です。
良かった良かった。

しかし、私が磨きに磨いた「さかぞり」技術は、今やお蔵入りとなってしまいました。

(っていうか、そんなたいそうなもんでもないか...)

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くも膜下出血ークリッピング術 その1 準備

2008年08月31日 | くも膜下出血
それではクリッピング術の実際について紹介します。
まず準備です。
私はこの手術を行う場合に、必ず行うことがあります。
それは
1)頭部固定をカーボン製メイフィールドで行う。
2)血管撮影ができるように、機械を準備しておく。
3)MEPモニターを装着する。
4)血管撮影は3次元のものを表示し、実際の術野と同じ方向で表示しておく。
です。
それ以外にも顕微鏡の準備やビデオカメラの準備をして、術中の記録が鮮明に残るようにしています。
「術野のきれいな手術こそが安全な手術である」というのが私の信条です

さてまず1)ですが、私が研修医の頃は頭の固定はメイフィールドではなくマジック枕というものでされていました。
これに似たものは今も体の固定には使っています。
体の下に入れたマットを体に合う形にした後、中の空気を吸引するとその形で固まるのです。
これは実に便利で、我々の施設では複雑な体位(側臥位など)には今も使っています。
しかし頭の固定は体位に関わらず全例メイフィールドです。これは私が自動脳べら固定器を使って手術をするためです。
自動脳べら固定器を使った手術は現在では主流と言える方法で、頭部はしっかりと固定されていなければなりません。
しかし通常のメイフィールドは金属でできているので、術中の血管撮影をする場合には影を作ってしまいます。
カーボン製のものは影がわずかですので、鮮明な術中画像を得ることができるのです。

2)「血管撮影の機械」ですが、これに助けられることが今までにも多くありました。
とくに頭蓋底部の大型動脈瘤やバイパスを併用する難しい症例では必需品です。
しかしどんな手術でもすぐに使えるようにしておくことが治療成績を高めるのに重要と考えています。

つぎに3)MEPですが、これについてはホームページに紹介していますがきわめてスグレものです。
http://www.e-oishasan.net/doctors_site/yoshimura/treat02.html
術中に麻痺が出ているかどうかがわかるこのモニターはクリッピング術の必需品で、自分はもう手放せません。
このおかげでこの数年は未破裂脳動脈瘤で合併症が一例もなく治療できています。

最後の4)3次元血管撮影です。私が専門医をとるぐらいまでは「いかにして2次元の血管撮影を頭の中で3次元に構成して術中のオリエンテーションをつけられるか」というのがクリッピング術のひとつの壁でした。
しかし画像診断が進歩して、3次元画像をコンピューターが構成してくれるようになり安全になりました。頭の中で構成したイメージが多少の勘違いを含んでいる場合、「おっとそうか、この血管は上に走っていたのかー」などということがありました。3次元画像の表示でこういったことはなくなりました。

これらが周辺機器の準備ですけど、大事なんですよ、こんなことが。
手術がはじまる前に準備をしっかりする。
ここがひとつの分かれ目です。

手術で実際にみてみたら血栓化した大型動脈瘤だった!とします。
「術中血管撮影は?」 「あ、用意してないです。」
「メイフィールドはカーボン?」 「あ、今日はカーボンじゃないです。」
「MEPは?」 「...今日はつけてないです。」
「3D画像は?」 「あれ、どこいったかな...」

なんてことでは、安全な手術とは言えないですよね。

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ISAT

2008年08月22日 | くも膜下出血
 治療法の選択についてです。
 開頭クリッピング術は、長い歴史があり再出血の予防効果が確実です。しかし、先に述べたように、全身状態への影響を考えなければなりません。一方、血管内治療では脳に直接触れることなく、治療ができます。しかし若干確実性に劣ります。
 これら二つの治療法にはこのような長所と短所があります。またどちらの方法もすべての動脈瘤に適用できるものではありません。それぞれの動脈瘤に対して、これらのどちらが適しているかは、専門的な判断が必要です。患者さんの年齢や全身状態に加え、動脈瘤の部位、大きさ、形などを総合的に判断する必要があるためです。
 一般的にどちらの治療が良いのかについて多くの議論がありましたが、科学的な比較研究の結果が2002年に発表されました。この試験はISAT(International Subarachnoid Aneurysm Trial)と呼ばれ、多施設が参加し、クリッピング術と血管内治療を無作為にふりわけた臨床試験です。この試験では開頭クリッピング術と血管内治療のどちらも可能と判断された2000人以上の患者さんが登録されました。結果は、術後1 年後に障害なく自立している患者さんは、血管内治療の方が有意に多いというものでした。この結果は「従来のスタンダードであるクリッピング術よりも、新しい血管内治療の方が成績が良かった」という点で全世界に大きなインパクトを与えました。
 しかし、この良い効果が、長期に継続するかどうかが不明であり、現在も長期的な調査が行われています。従って現時点ではこのISATの結果を考慮しつつ、個々の患者さんごとに治療法の選択を行っています。

 くも膜下出血で入院してもしクリッピングの説明しかない場合には、コイルによる治療ができないかどうか、もしできないならその理由を聞いてみましょう。明確に答えてもらえれば、納得がいきますよね。
 
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くも膜下出血ー治療法選択 コイル塞栓術

2008年07月25日 | くも膜下出血
今回は破裂脳動脈瘤に対するコイル塞栓術をお話しします。
この治療法は「切らない治療」「体にやさしい治療」として最近注目を浴びています。
実際、局所麻酔でも治療できます。
しかし私は破裂脳動脈瘤の場合には最近は全身麻酔で治療を行います。
なぜなら患者さんが安静を保てず術中に動いてしまうことが多く、これが治療成績に大きく影響するからです。
また術中破裂などの場合にも、全身麻酔の方がいいのです。

さてコイル塞栓術の方法を紹介します。(未破裂のところである程度紹介したので、簡単にしますね)
まず足の付け根から親カテーテルといわれる少し太めの管を頸動脈などに入れます。
次にその中にマイクロカテーテルという細い管を入れて動脈瘤の中まで誘導します。
あとはプラチナで出来たコイルを瘤の中にうまくおさめてつめていく。
というシンプルな方法です。

この治療については大きな議論がありました。
クリッピング術が難しい場所に動脈瘤があったり、重症の症例に行われはじめたのですが、全身状態のよいクリッピングが可能な患者さんに応用されるようになると「コイル塞栓術は根本治療にはなり得ない!」との反論が出始めたのです。
確かにクリッピングでは瘤を完全につぶしてしまうのに対して、コイルは瘤の中にものを入れたのに過ぎません。
ちょっと心配があります。
一方、実際に治療を行うとコイルの方が成績がいいように思われます。
くも膜下出血の患者さんが治療当日に食事や会話が出来るなど、開頭術ではなかったことです。
回診に行って患者さんが新聞を読んでいて驚いたこともあります。
でも根治性に不安がある。

いったい、どちらの治療法がいいのでしょうか?
世界中の脳卒中に関わるドクターが疑問に思っていました。
そして2002年に重要な発表があったのです。
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くも膜下出血ー治療法選択 クリッピング術

2008年07月20日 | くも膜下出血
くも膜下出血の原因が破裂脳動脈瘤である場合には、放置すると50-70%が再破裂で命を失うと言われています。
このため何らかの止血処置が必須です。現在、開頭手術によるクリッピングと血管内手術によるコイル塞栓術の2つがあります。

まずはスタンダードとされるクリッピング術について紹介します。
テクニックの細部については別の機会に紹介しますね!

さてクリッピング術の歴史は古く、長期の安全性が確立しています。止血効果も確実です。
頭蓋骨の一部をあけ、顕微鏡を使って脳のすきまを広げ、動脈瘤の根元にクリップをかける方法です。
この治療の良い点は、動脈瘤の形に関係なく完全な処置が出来ることです。
とくに動脈瘤のねもと(ネック)の広い動脈瘤や動脈瘤から枝がでているようなケースではクリッピングが最善の治療法となります。
また動脈瘤の処置が完全なので、再治療が不要なこと、退院後の外来通院が早期に不要となることがこの治療の利点です。

ただし欠点もあります。
1)全身麻酔が必要なこと。
  ただし最近は麻酔が良くなったので、麻酔自体による問題はまず起こらないと考えても良いくらいです。
2)開頭が必要なこと
  「頭をあけられる」というのは、不安なことですよね。「それだけでおかしくなってしまうのではないか?」と心配される方もおられます。この点を強調するとまず「手術はやめてくれ」ということになりがちですが、皮膚の切開は髪の毛のはえている中で行いますし、外した骨もチタンでしっかりと固定するので見た目にまず分かる様なことはなくなりました。自分の患者さんでも外来に来られる頃には「左右どちらでしたっけ」ということがよくあります。
3)脳をさわるということ
  これは脳には何かしら影響があります。同じ全身麻酔の手術でも脳にさわらない手術に比べれば、やはり少しは脳に影響があるというのは脳外科医自身がよくわかっているところです。未破裂脳動脈瘤のように頭蓋内圧が高くなくて血液が全くない術野では脳表の損傷は最小限で済みますが、くも膜下出血ではもともと脳圧が高くなっており、出血で血管が十分に見えない場合があるので脳にある程度損傷がおきます。元通りになることの方が多いのですが、脳圧が非常に高い状態で無理に手術をすると不可逆的な損傷が起きてしまいます。
4)血管のはくりが必要なこと
  動脈瘤にクリッピング術を行う時には、脳動脈瘤の周囲の血管をきれいに外しておく必要があります。そうしないとクリップをかける時に大事な血管を一緒胃挟み込んでしまうからです。このときに血管損傷が起こりえます。

どうでしょうか?
クリッピングの手技の詳細については後日述べますがだいたいイメージが出来たでしょうか?
http://www.e-oishasan.net/doctors_site/yoshimura/treat02.html
に画像がありますので一度みてくださいね。
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