脳卒中をやっつけろ!

脳卒中に関する専門医の本音トーク
 最新情報をやさしく解説します 

くも膜下出血ー治療法選択 その前に3

2008年07月11日 | くも膜下出血
第二に、脳卒中や頭部外傷などの救急疾患を扱うドクター達が、若手が補充されないために徐々に疲れてきて、燃え尽きて辞めてしまう。リハビリ医になったり開業してしまう。最近そういう先輩方が増えてきました。無理もないことです。第二の人生として応援したいと思っているほどです。

考えてみれば、私が研修医で入局した頃は
「お前らの学年ではもう部長にはなれない。脳外科は開業できないんだからどんどん医者がたまっていく。2番手ぐらいにしかなれないよ、かわいそうに」と言われていました。まあ、その年で「部長になりたい」など思ってもいませんでしたが。
それがあっという間に変わってしまいました。先輩達がどんどん開業したりリハビリ医になっていく。開業の先生達もみんな成功しています。昔は開業はあきらめて選んだのに、時代のニーズが専門医を求めているのです。ほんと先のことなんて分からないもんですね。

 さて話を戻します。現在の研修医制度が継続し、この状況が続けば脳神経外科医は減りつづけるでしょう。現に、我々の周囲でも中小の病院からすでに脳神経外科が撤退し始めています。それぞれの地区の地域医療、救急診療を支えたいという思いはあっても、全く同じ診療を以前より少ない人数で支えるのはまず不可能ですし、内科医や麻酔科医が減少した施設での手術や診療はそれまで以上に危険が伴います。ドクター達も長期にわたって一人二役では燃え尽きてしまうのです。
 ですので、今後は脳外科の診療はもっとセンター化されていきます。と言うとかっこいいですが、つまり各地区からどんどん撤退していくということです。近くに脳外科がない...ということになるわけです。
 しかし考えてみれば限られた施設でしか手術をしないというのは、欧米に近い形ということで悪いことではないのかもしれません。少数の経験しかないドクターや施設がなくなり、多くの経験を持つセンターばかりになるわけです。でもそれまで脳神経外科医の常駐施設だった病院には大きな痛手となりますから撤退の際にはもめますよね。

皆さんはどう思いますか?
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くも膜下出血ー治療法選択 その前に2

2008年07月11日 | くも膜下出血
本当に脳神経外科医は足りないのでしょうか?
日本脳神経外科学会のホームページには脳神経外科専門医が約6500人いると記載されています。
この数は世界的に見ても非常に多く、「脳神経外科医は余っている」という言葉の根拠はここにあります。
しかし現場では足らないと言っている。
実はここには複雑な要素が絡み合っているのです。

まず第一に「脳神経外科医」ではあっても全員が手術をするわけではないのです。
脳神経外科医にも色々あります。
 脳卒中や頭部外傷などの救急疾患を扱うドクター
 脳腫瘍の診療を行うドクター
 脊髄疾患を扱うドクター
 小児神経疾患を扱うドクター
 リハビリを専門にしているドクター
 主に外来や内科的管理をしているドクター
 研究を主にしているドクター
などです。どうです?すごく細分化されてきているのです。以前に比べてどんどん細分化されそれぞれの分野のレベルが上がっているのです。これ自体はすばらしことですが、例えば小児神経の専門家がクリッピングを行うことはまずありません。逆も然りです。ですので、一番上の「脳卒中や頭部外傷などの救急疾患を扱うドクター」だけを数えた場合には6500人よりずっとずっと少ないのです。
 知っていましたか?
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くも膜下出血ー治療法選択 その前に

2008年07月10日 | くも膜下出血
いよいよくも膜下出血の治療法選択です。
その前にちょっとお話させてほしいことがあります。

以前はくも膜下出血の患者さんには開頭手術(クリッピング術)をするしかありませんでした。
どこの病院でも治療が出来るわけではなく、脳外科がちゃんとあって、その人がクリッピングが出来るかどうか、それにかかっていました。
くも膜下出血の患者さんは頭痛や意識障害でまず近くの病院に運ばれてくる。
しかも短時間に再破裂して死亡してしまうことも多い。
ということで遠距離の病院までは移動しにくいのです。
だからそれぞれの救急病院には切実な問題でした。

さらに、クリッピング術の手術手技料は大変高い(72,000点、つまり72万円)。
手技料だけで72万円!
従って当時どこの病院も、「1人でも2人でもいいから常勤医になってクリッピングをしてほしい!」と脳外科の開設を希望しました。
その結果、日本中に「クリッピングが可能」な脳神経外科医の常駐施設ができました。
どこで倒れてもクリッングがすぐに受けられる!
日本はすごいですね。
このため当時、ほとんどの若手脳神経外科医の目標は「クリッピングができるようになること」でした。
クリッピングは「絶対に出来ないといけない」、逆に「それさえできれば身を立てられる」、最重要の手術でした。
今でもそれを目標にしているドクターが大勢います。

しかし最近になって少し様相が変わってきました。

実は数年前まで脳神経外科医は余っていました。
脳外科医が多すぎるので一人当たりの手術件数が少なくなってしまう。
日本脳神経外科学会でも「脳外科医一人当たりの経験数が減ってしまう中で、どのようにレベルを維持するか」についてシンポジウムが開催されるほどでした。
その時に最重要視されたのはやはり「クリッピング術の数」でした。

しかしその後すぐに新しい研修医制度が始まりました。
この新たな制度によって、ついこの間まで余っているはずだった脳神経外科医が「足りなくなってきた!」と盛んに取りざたされています。
本当に足りないのでしょうか?

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くも膜下出血ー診断(3) 腰椎穿刺

2008年06月28日 | くも膜下出血
 久しぶりに本題に戻りますね(^^;)

 腰椎穿刺は脳と脊髄のまわりにある水(脳脊髄液)を注射針で吸引して、検査室で調べる方法です。
 脊髄に針が刺さってしまうのではないか?と心配ですが、針を第3腰椎と第4腰椎の間に差し込めば、まず脊髄を傷つけることはありません。その高さには脊髄はなく、そこから下に伸びる細い神経しかないからです。その神経のことを医学用語で馬尾(ばび)といいます。といっても馬のしっぽではありません。解剖学的に脊髄から出る神経があたかも馬のしっぽのように見えるのでそう名付けられているのです。
 また穿刺中は、頭蓋内圧(頭の中の圧力)を測定できます。頭の中の水と脊髄の水はつながっているからです。
 脳脊髄液の検査によって、他にも色々なことが分かりますが、くも膜下出血の場合には脳脊髄液が赤血球のために赤色になります。正常では無色透明です。
 しかし時間が経ったらどうでしょうか?CTやMRIの所で説明したように、出血からしばらく時間が経つとこれらの画像診断で出血の有無が判定出来ない場合があります。
 でも大丈夫です。この腰椎穿刺を行えば、髄液が黄色になるため(上図)、まず判定できるのです。したがってこの検査はくも膜下出血があるかないかの最終判断に使われる重要な検査と言えます。
 たまに穿刺がうまく行かず穿刺中に出血させてしまうことがあります。そうなるとくも膜下出血の有無の判定が出来なくなってしまいます。検査医は出血させないように慎重に行わなければなりません。

 また検査に伴うリスクもわずかながらあります。それは髄液に細菌が入ってしまうことです。脳脊髄液中には細菌をやっつける白血球などの細胞がないため、細菌の侵入に弱いのです。一旦細菌が入ってしまうと髄膜炎(ずいまくえん)と呼ばれる状態になります。最近は抗生物質も良くなり、髄膜炎になってもまずなおることが多いのですが、時間がかかるし発熱で苦しみます。検査医がきちんとした防御法を行ってきれいな操作で検査を行えばまずこのようなことはありません。

 以上、くも膜下出血の診断について説明しました。
 次回からは治療編ですよ!
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くも膜下出血ー診断(2) MRI

2008年06月14日 | くも膜下出血
CTで診断がつかないことが8%あるんでしたね。
その場合にはどうするのでしょうか。
答えは
1)MRIをとる
2)腰椎穿刺をする。

最近ではまず1)を行うことが多いです。寝ているだけで診断が出来ます。
2)は確実性が高い方法です。
しかし脳神経外科医、神経内科医であればなれていますが、一般内科医や研修医ではなかなか出来るものではありません。
しかもこの検査は腰に針をさして行うため痛みを伴います。また脊髄液を抜く操作で感染症(髄膜炎)などの可能性がゼロとは言えません。
以上のような理由から最近はまずMRIを取ることが多くなってきました。

MRIでは上の図のようにわずかな出血を捉えることが出来ます。
撮影方法はFLAIR(フレア)画像や、T2*(ティーツースター)画像です。
上の写真はFLAIR(フレア)画像です。出血が白く見えています。

またMRIの利点は血管の情報が得られることです。
次回示しますね。

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くも膜下出血ー診断(1) CT その3 答え

2008年06月08日 | くも膜下出血
分かりましたか?
難しいですよね。
答えは以上の通りです。
1)赤矢印のところについて
脳の周りのすきま(しわ)はCTで黒くうつります(右の図)。
出血はCTで白く見えます。
しかし脳の周りのすきまには髄液という水があるので、それに血が混じると血の濃さによって徐々に黒から白に色が変わっていきます。ですので出血がごく少ないと黒いまま、もう少し出ると灰色になってきて、ちょうど脳と同じ色になるのです。
そうすると今回問題に出したような非常に判断しにくいCTになるのです。
2)側脳室の拡大
側脳室の下角というのは通常は狭くてCTではみえません。
これが見えるのは水頭症(脳に水がたまった状態)を意味します。
くも膜下に血がたまると、髄液(脳の周りの水)がよどんで脳室の水が増えてCTで見えるようになるのです。

分かりましたか?

しかし実際には医師でもこのCTを診断できるのはわずかだと思います。
このCTを院内の医師に見せたところ、脳外科の専門医以外にくも膜下出血であることを診断できた人はいなかったのです。
神経内科医、放射線科医でもよほど慣れていないと見逃します。
脳外科でも専門医以外は診断できなかったのです。
これは正常のCTをどれだけ見慣れているか、軽症のくも膜下出血のCTの特徴(今回の答え)を知っているかどうかにかかっています。

もし分かった人は間違いなく脳外科の専門医レベルということ!すごいですよ。自信を持ってください。
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くも膜下出血ー診断(1) CT その3

2008年06月04日 | くも膜下出血
最高に難しい画像です。
脳神経外科専門医レベルです。

白い部分はありますか?
灰色は?
それ以外に何か所見がありますか?

でもこれでも診断しないといけないのです。
さあ、どうですか?

ヒント)脳室に注意。
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くも膜下出血ー診断(1) CT その2 答え

2008年06月04日 | くも膜下出血
さあ答えです。
上の図に示したように赤矢印のところがわずかに白っぽくなっています。
反対側の青矢印で示したところは黒い。これが正常です。
わずかでも白い場合には見逃してはいけません。

といっても、実はこの人は見逃された患者さんです。
再破裂して治療が行われました。
怖いですね。

わずかでも白い
白くないが黒くない(灰色)
はくも膜下出血を疑わなければなりません。

この次はもっと難しいですよ。
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くも膜下出血ー診断(1) CT その2

2008年06月01日 | くも膜下出血
軽度のくも膜下出血のCT診断が難しいと言いましたね。
では実際みなさんに診断してもらいましょう!

この患者さんは突然の頭痛を訴えて来院されました。
患者さんも希望されたのでCTを取りました。
さあ、写真ができました。
当直帯なので、現在院内に先輩の先生はいません。
患者さんと家族の人は「どうでしたか?」とのぞき込んできます。
出血は白いんでしたね。白いところありますか?
さあ、どうでしょうか?
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くも膜下出血ー診断(1) CT

2008年05月30日 | くも膜下出血
くも膜下出血を疑った時にはまず頭部CTを施行することになります。
この検査で92%は診断がつくことがくも膜下出血診療ガイドラインで示されています。
92% !
逆に言うと8%は診断できないのです。
どんな場合なのでしょうか?
まず普通のくも膜下出血のCTを示します(上図)。
赤矢印で示した白いところが出血です。
青矢印で示した黒いところは脳室(脳の水の部屋)で少し大きくなっています。
最重症のくも膜下出血です。
これで診断できないドクターはまずいないはずです。(いたら困る...)
皆さん、わかりますよね!

問題なのは出血が軽度な場合です。
次回お示ししますね。
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