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ホノルルショック

2013年11月05日 | 脳梗塞
今年の2月にホノルルで開催されたInternational stroke conference 2013に出席したことを以前紹介しました。
そこで急性期脳梗塞に対する血管内治療の有効性に関する3つのランダム化試験の結果が報告されるということだったので、私は「最低でもどれか一つぐらいは有効性が示せるだろう」と考えていました。
しかし3つの試験は全て否定的な結果で、私はそのことに大きなショックを受け、その後の講演で「ホノルルショック」と名付けてみました。
最近この言葉が急速に認知され、血管内治療の普及にネガティブな影響があるようで若干戸惑っています。

さてマスコミの方もこれらの報告に注目し、「血管内治療の効果が否定されましたが、今後もお続けになりますか?」という質問を受けたことがあります。
答えは「もちろん、イエス!」です。血管内治療は効果があると信じているからです。
それではどのような症例で有効なのでしょうか?
ちょっと考えてみましょう。

私達が行った日本の調査(RESCUE-Japan Registry)では血管内治療は近位血管、つまり太い血管で有効性が示されました。
全ての患者さんに有効ではなく、ある程度重症な患者さんで、太い血管が閉塞している場合に有効という結果でした。

治療結果を改善するために3つの重要な条件があります。

1)再開通するまでの時間
この「時間」には二つの要素があり、
1. 発症から治療開始まで:
2. 治療開始から再開通まで
以上の両方を短くしないといけません。
1. は患者さんやご家族、救急隊、病院スタッフが大きく関与し、
2. は医師の技量と治療器具が関与します。

2)開通度
治療を早く開始しても開通しなければ患者さんは良くなりません。
このため出来るだけ開通度を上げないといけないのです。
最近欧米では新しい器具が使えるようになり、よく開通するようになってきています。
来年には全国で使えるようになりますのでこの点は改善されるでしょう。

3)患者さんの選択
最後に、患者さんをうまく選ぶことも重要です。
治療を行わなくても良い経過になる人にカテーテル治療を行うのは利益がないばかりか、悪くすることさえあります。
治療を行ってうまく行くと良くなる患者さんを選ぶことが重要です。

時間と開通率と患者さんの選択
この3つの条件を整えた臨床試験であれば、ホノルルショックを跳ね返す良い結果が得られるはずです。
日本でもぜひ取り組みたい。
そう考えて、準備を始めています。

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4 コメント

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Unknown (Unknown)
2013-12-02 23:59:54
器具も人を選ぶんですね…
返信する
興味深い領域… (MRK)
2013-11-10 22:25:14
この3つの条件を具備する治療が、広く深く浸透する事を願います。
朗報を待っています!
返信する
ジャパン・ミラクル (はまゆう)
2013-11-10 21:22:22

今回の「ホノルルショック」を拝見し、
「International Stroke Conference 2013」で、「RESCUE-Japan Registry」の最終解析を
ご発表なさったとの ★「ISC 2013」 (2013年2月10日)の記事を想起しました。

続く ★「急性期脳梗塞に対する血管内治療:最新情報の衝撃」(2013年2月14日)で
紹介された海外の「ランダム化比較試験」の結果を拝見して、文字通りの「衝撃」を
受けたことを記憶しています。

     「t-PA静注療法と血管内治療の比較」
     「t-PA静注療法とtPA+血管内治療の比較」
     「内科的治療と血管内治療の比較」

3つの「試験結果」すべてにおいて「血管内治療の有効性」が示されなかったという
「衝撃」を、その後のご講演で「ホノルルショック」と表現なさったところ、
言葉が一人歩きして、「血管内治療の普及にネガティブな影響」が出ているとのこと。

「戸惑い」を感じていらっしゃる吉村先生のご心情、お察しします。

しかしながら、
★「急性期脳梗塞に対する血管内治療:最新情報の衝撃」にも記されているように、

「これらの治療はすべて第一世代のデバイスで出た結果なのです。」

「ステント型のデバイス(ソリテア)は非常に強力です。すでにメルシーリトリーバー
との比較試験で優位性が示されたのです。
ですから今後はこの第二世代のデバイスを用いた臨床試験が競って行われると
思います。それでも効果がなければ、この治療はなくなるでしょう。
でもまずそれはありえません。というのも私たちが行ったRESCUE-Japanでは、
何と第一世代のデバイスですでに有効性が示されていたのです!」


との力強く心強いお言葉!

海外における「第一世代のデバイス」による否定的な試験結果を「跳ね返す」、
<ジャパン・ミラクル>の実績と考察が挙げられており、本当に頼もしい限りですね。

                 *

今回の記事では、さらに、

「ある程度重症な患者さんで、太い血管が閉塞している場合に有効」という
「血管内治療」が適合する症例をご教示いただくとともに、

「治療結果を改善するための3つの重要な条件」――
「時間と開通率と患者さんの選択」
「この3つの条件を整えた臨床試験であれば、ホノルルショックを跳ね返す良い結果が
得られるはずです。日本でもぜひ取り組みたい。そう考えて、準備を始めています。」


と、血管内治療に否定的な論調を「跳ね返す」べく、吉村先生の経験に基づく考察と
意欲が綴られ、一日一日とどまることのないご精進ぶりに感銘を深めています。


精巧緻密な医療技術、進化を重ねるデバイス・機器類、
協同と連携による医療システム・・・
日本の誇るべき宝物であることを確信してやみません。

血管内治療に携わっていらっしゃる すべての先生方、
多くの先人たちの苦闘と奮起と偉業を踏まえ、どうぞ、どうぞ、
<ジャパン・ミラクル>の成果を世界に発信していってくださいませ。

                 *

・・・このように、「ミラクル=奇跡」という言葉を、安易に用いるべきではない
かも知れませんね。

しかし、血管内治療について
★「奇跡!」(2012年11月28日)でご紹介いただいたような<救命の奇跡>を、
想起しないではいられないのです。

血管内治療という<奇跡の治療法>の「有効性」が示され、従事なさる先生方の
自信と意欲による挑戦によって、一人ひとりの患者さんが、最適の治療を受けられ
救命されることを願ってやみません。


僭越ながら、<奇跡>ということの意味を考えさせてくれる
長田 弘の詩集『奇跡――ミラクル――』(みすず書房 2013年7月)
「あとがき」(の一部)を、引用させていただければ幸いです。


今も脳梗塞に苦しむ患者さんとご家族の方々が、
おひとりでも多く<奇跡の治療法>によって救済され、笑顔の日を迎えられますことを、
心よりお祈りしています。


   ****************************************************************

   「奇跡」というのは、めったにない稀有な出来事というのとはちがうと思う。
   それは、存在していないものでさえじつはすべて存在しているのだという
   感じ方をうながすような、心の働きの端緒、いとぐちとなるもののことだと、
   わたしには思える。
    日々にごくありふれた、むしろささやかな光景のなかに、わたし(たち)に
   とっての、取り換えようのない人生の本質はひそんでいる。それが、物言わぬ
   ものらの声が、わたしにおしえてくれた「奇跡」の定義だ。
    たとえば、小さな微笑みは「奇跡」である。小さな微笑みが失われれば、
   世界はあたたかみを失うからだ。世界というものは、おそらくそのような
   仕方で、いつのときも一人一人にとって存在してきたし、存在しているし、
   存在してゆくだろうということを考える。

   **********(長田 弘 『奇跡――ミラクル――』 みすず書房 2013年7月)






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Unknown (j)
2013-11-07 22:39:21
ネガティブな結果があろうとも、先生なら前向きな結果を必ず導き出せると信じています!期待しています。
返信する

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