一昨日、東京にいっぱい人が住んでる話を書いたけど、今日は沖縄の島に暮らす人々を描いたお芝居の話です。。。

劇団文化座公演第128回公演『月の真昼間(まぴろーま)』
(原作/森口豁 脚本/杉浦久幸 演出/原田一樹
4月17日(木)~27日(日) 俳優座劇場)
TVドラマ『瑠璃の島』の原作に当たる作品なのだそうだ。
確かに舞台は、沖縄県は八重山諸島の鳩間島だ。
石垣島と西表島の間にある、北緯24度28分、東経123度49分に位置する、面積、僅か1.08km²の小さな島=鳩間の小学校が廃校になる。それに対する住民達の奮闘劇。
と、アウトラインはこのくらいにして・・・。

ただ昨日が初日でまだまだ公演は続くので、ネタバレを避けて、お得意の(?)サッカー観戦記風で

【文中敬称略】
まず、マン・オブ・ザ・マッチ(*1)は田村錦人
ゴールを決めたわけでも、鮮やかなアシストを決めたわけでもなく、ましてやボールにも触れていない(?)のだが、空いたスペースでの職人芸は圧倒的な存在感。
弊団公演『楽園終着駅』(No.114/00年)にも客演いただいた大ベテランの貫禄の演技

を是非劇場で生で観ていただきたい!!
*1=その試合で最も印象的なプレーをした選手に贈られる賞。
さて、試合そのものは、実は前半、少々凡戦のテイで…。
なるほど、多くの人物紹介をしなければいけないのだが、割とオーソドックスなキャラクターなので、もっと速いパス回しでアグレッシヴにゴールを狙って欲しかった。中盤で、激しいぶつかり合いがあるでもなく、ただパスを回しているだけ、というゲームはやはり退屈。
ところが後半のホイッスルとともに、1幕が嘘のような猛烈なゴールラッシュで、スタジアムのボルテージは一気に上げがる。前半はこのための様子見だったのサと言わんばかりの超攻撃的な展開で、観客の“涙のゴールネット”を次々に揺さぶった。
『月の~』が描く「小学校には島の未来がかかっている」に呼応するかのように「劇団の未来は次世代の俳優の手にある」と言うかのようなフォーメーションにも触れておきたい。
前線に若手を思い切って起用し、後ろを手厚くベテランが固めるという構成がピタっとはまった。
FWは、真ん中に今やチームの顔に成長した米山実、ウイングに沖永正志、中村公平、セカンドトップ(*2)に白幡大介を据えると、この布陣が見事に火を噴いた! 白幡が裏から飛び出してゴールを量産。
*2=センターフォワードよりやや下がり目の位置で、1.5列目などとも呼ばれるポジション。後方から飛び出してゴールを決める。シャドーストライカーとも。
サイドから機をみてオーバーラップし、夫役の米山にパスを供給した五十嵐雅子の丁寧なクロス(*3)もゲームにメリハリをつけていた。
*3=サイドからゴール前に出すパス。
また、先輩達(青木和宣、津田二朗、佐藤哲也)と互して、中盤でゲームを作る一翼を担った春稀貴裕の瑞々しいプレーも光った。
ベテラン陣の良さは語るまでもない。
今回はリベロを務めた佐々木愛は、センターバックで守備を統率しつつ、積極的に攻撃にも参加し、看板女優の貫禄をみせたし、ダブルボランチに入った「W勉」=伊藤勉、阿部勉も、それぞれの個性を生かしたいぶし銀の演技で観客を魅了した。
中でもGK有賀ひろみの、柔軟なキーパーワークはマン・オブ・ザ・マッチの田村に勝るとも劣らない圧巻のプレーぶり。うちなー言葉を巧みに操るカマド婆ちゃんに癒されに、いざ、俳優座劇場へ・・・。
リーフレットに演出家は、『氏は(筆者注:原作者森口氏を指す)決して一方の視点から物を見ようとしないし、意図のある政治的言説のどこにも組せんとしていない。ジャーナリストが中立なのは当たり前、だが、そのことのどれだけ困難なことか。(中略)これはまた、演劇人としての我々もそうあらねばならない姿である』と書いている。
このことは概ね舞台でも果たされている。ただゴールラッシュの続いたあとの後半30分過ぎの時間帯、少々熱くなりすぎて饒舌に過ぎた時間帯があったのは残念といえば残念。まあ、自ら言うように《困難なこと》ではある。。。
ニュースによれば、春季高校野球の地区大会で66-0という試合があったそうだが、この『月の真っ昼間』が文化座の輝かしい勝利であった事実は揺るがない。
もっとも、劇中「鳩間に勝ち負けはない」という台詞があるから、こんな締め方はどうかとも思うが、あくまで今年の演劇シーンに残る良い舞台であった、という意味での例えである。