昭和4年、稲子と離婚した朔太郎は葉子と明子の二人の子を連れ、一度前橋に帰郷するが、同年11月、単身上京し、麻布の高級アパート乃木坂倶楽部に入居する。
そこから舞台は始まり、その部屋に、親友の室生犀星、弟子の三好達治、憧れの人・宇野千代らが登場し、彼の幻影の中では、自殺した芥川龍之介が朔太郎を死に誘う・・・そんな風に物語は進んで行く。
ここからは「芝居」の前段になるのだが、大正14年に朔太郎は妻子とともに上京し、大井町、田端を経て、大正15年「馬込文士村」に居を定める。
大正から昭和初期に多くの作家や芸術家たちが住んだことから、そう呼ばれているが、顔触れを列挙すると、尾崎士郎、川端康成、北原白秋、室生犀星、小林古径等々、なかなかの顔触れ。
さて。
我等が東演の拠点「世田谷区代田」周辺にも、多くの文士が集っていて、それを「北沢川文化遺産保存の会」が整理する活動を行っている。
東演の真ん前にある喫茶店「邪宗門」のマスターも、そのメンバーの一人で、その会議もしばしば「邪宗門」で行われる。僕らが店の奧の席で芝居の打ち合わせをしている、その手前の席で「保存の会」の面々が集まっていることも多々ある。
で、同会から発行された小冊子を開くと、まず朔太郎自身、昭和8年~北沢に、8年~17年には代田2丁目(パラータから直線で300mほどの所)に住んでおり、彼を師と仰いだ三好達治は昭和24年から終生、代田1丁目に暮らした。ここはパラータから、僅か3ブロックの地だ。
そんな聞き囓りもあって『乃木坂倶楽部』は面白く観た。
舞台の中に登場する宇野は「今は淡島で東郷と暮らしている」と言う。
確かに、宇野は画家・東郷青児と恋に落ち、馬込の尾崎の家には帰らずに同棲を始めていた・・・。
おっと
こー書いてくると、何だか《文学史》の授業みたいだなぁ。
(いくら僕が国語科の教員免許を持っているからって)。
でも『乃木坂~』の舞台そのものは、偉大な(?)作家達を大いにデフォルメして、コントを思わせる作りで笑わせながら「人間が生きていく」ということ、それと背中合わせの「死」や、「家族」の存在、家族と「芸術活動」ののっぴきならない関係などを描いていく。
当然「貧しさ」も大きなテーマであり、それを“舞台俳優”が演じると二重の意味でリアルになって、笑いながらも泣けてきたりする。
いや、決して篠さんが演じる三好達治が片恋する、朔太郎の妹に交際を断られるのが、彼の病気でも、文学に身を投じていることでもなく、ただ「貧乏だから」というシーンを指して言ってるわけじゃないッスよ。
公演は既に終わっていて…。
8月23日(木)~26日(日)までtheater iwato。
観たのは25日のソワレでした。
何はともあれ、このあたりの時代はそそられますヨね。
是非、東演でも手掛けたいです。何しろ、素材はすぐ近くに豊富に転がっているのですから・・・。