久しぶりの東京観劇ツアー。初日は渋谷のシアターコクーンで『上海バンスキング』、夜の部は下北沢のザスズナリ。どうもねえ、大劇場だけだとなんか落ち着かないんだよね。bunkamuraなんかいると場違いだって感じ強くてね。女性はみんな着飾ってるし、若いし、上品だし、薄汚いじじいの来るととこじゃないわ、ってあっちからもこっちからも拒否、って言うよりとことん無視されてる感じで、血圧は一気に頂点だし、汗はかきまくり。そんな居心地の悪さはあるものの、やってるもの自体はやっぱり優れた舞台なので、まあ、取れる限りは見に来る訳だけど、その代償作用として、その後には必ず下北沢か新宿を組み合わせる。ほっとするものね。やっぱり俺はこんな町がお似合いなんだって別に卑下するわけでもなく安堵する。
でも、今回の『上海バンスキング』はちょっと違った。まず観客の年齢層が圧倒的に高い。新橋演舞場ってところかな。50代~60代が中心。それも劇場は社交の場的な見せびらかしのおめかしはほとんどいない。さらにさらに、男たち、無粋なおじんたちも結構いるんだよ。これは今まで経験したことのない観客構成って言えるかな。
その謎は舞台を見て、すぐにわかった。出てる役者がほとんどその年齢層なんだ。そう、30年前?上演されて大反響を呼んだ自由劇場の再演なんだ。それも多くは当時のメンバーが出いる。詳しくない僕にはどこまで当時の劇団員が出ているのかはわからないけど、主役クラスは串田和美(演出・出演)でしょ、笹野高史でしょ、吉田日出子でしょ、小日向文世、あと知らないけど、舞台見る限りかなりがそれらしい。
だから、舞台も客席ももう完全に同窓会ののりなんだ。それと、最近はやりのおやじジャズバンド、これもめちゃめちゃ乗るよね。オープニング、劇中、幕間、そしてエンディング、とことんビッグバンド演奏だもの。おっと、終演後の客だしでもロビーに出て演奏し続け。それを多くの観客が暖かく見守る。ね、盛り上がった30年ぶりの同窓会。こんな桁外れの同窓会ができる彼らって本当に幸せ者だ。でも、舞台だから、芝居だから、金取ってるから、彼らのそこそこの演奏聞いて満足してるわけにはいかない。
そう舞台だ。役者たちの年齢的な違和感はどうしようもない。役としは20~30までの青年たちの世界なわけで、姿勢やら声の艶やら容姿やら、やっぱり無理か?って感じた滑り出しだったけど、すぐに物語に引き込まれた。若さを補う老練?な技ってところだろうね。笹野高史のトランペット、吉田日出子の歌のうまさに圧倒されたこともある。あっ、串田和美のクラリネットも悪くはない。うん、そこまでやるなら許せる!納得してしまうと後は物語世界だ。
これは間違いなく戦後日本を代表する劇作の一つだから。いろんなものが一杯詰まっている。時代は日中戦争の始まりから終戦まで、日本のジャズミュージシャンたちの憧れと自由の天地=上海。ひたすらジャズに明け暮れる若者たち、いつしか時代のどす暗い濁流に呑み込まれていく。ジャズにかける青年たち、若者たちの明るくも破天荒な日々、戦争の愚かしさ、侵略者としの日本、音楽の力と無力、歴史に翻弄される人々、横暴で非文化的な日本の軍隊・・・ここには先の悲惨で愚かな戦争への痛烈な反論がある。
そんな時代の一こま一こまが、時に楽しく時に切なくジャズのリズムに挟まれつつ展開していく。ジャズは喜びであり、官能であり、自由であり、抵抗であり、哀悼なのだ。楽しく心躍る前半、一転して重苦しく戦争と死に向き合う第二幕。見る者は確実に舞台に繰り広げられる青年たちの生き様に引き込まれた。中でも、軍の無理押しでバンドが軍歌「海行かば」を演奏するシーンは感動的だった。軍人の横暴におもねるように始められた演奏は、途中主人公四郎のクラリネットソロから一気にジャズへと転調、ミュージシャンたちの精一杯の心意気を示す。もちろん、そのまま終わらせることはできず、抵抗に気づいた軍人の一言で、音楽はまた「海行かば」へと戻っていく。有無を言わさぬ巨大な暴力装置に庶民がどう対抗するのか、そのすばらしい勇気と限界を見事に表現していたと思う。戦争は若者たちの夢を命を精神を奪い終息する。
演出で気になったことがいくつかある。まず、時に舞台装置の二階部分から、時に装置のとぎれた上下から舞台を見守り続けた若者たち、彼等今の若者たちがその時代を、そして、初演から30年という時の流れを見詰めるという構成なのかとは思ったが、意図が十分に伝わったとは思えなかった。それと、暗転の処理が拙い、なんて、僕が言っていいんか?これも気になった。後、最後の客出しかな。ロビーでの生演奏、いい趣向だと思う。お客さん喜んで取り囲んでたから。まさに別れがたい同窓会の雰囲気。でも、ホールから出たい人が、出られないって状況、こりゃまずいよ。せっかくの余韻が徐々に怒りに浸食されていく様子が一部観客から感じられた。って、僕もそうなんだけど。だって、下北沢の公演まで1時間なかったんだもの、焦ったよ。夕飯だって食いたいし。強引に人波を押しわたって、一路、神泉駅へ。