実は、台本書き準備月間に入って、気まぐれ読書からは身を引いた。気の向くままに読み散らしてるわけにゃいかないんだぜ。6月公演に向けて資料本に立ち向かわにゃならんのさ。小説なんかはお預け!おっと、井上ひさしさんのものは別だけどな。そりゃそうだ、井上さん没後10年に絡めた舞台にするって宣言しちまってるもの。舞台設定はストリップ隆盛期の浅草。井上さんがコント作家として一歩を踏み出した時期を題材にする。
ってことだから、台本書きに役立つ本、ってことだと、まず、戦後の世の中の様子、その前に政治経済状況ね。戦後史とか戦後の大衆文化についてのものとか。次に当時の浅草の様子がわかる本。さらにストリップ関係本。そして、井上さんの諸著作ってことになる。
今は、浅草本の辺りをうろちょろしている。当時の人気者、益田キートンや坊屋三郎の自伝ものとかね、当時のお笑い界の様子が生声で伝わって来て、ついつい前のめりになってしまう。エノケンのデビューは猿蟹合戦の猿だった、なるほど。とか、吉本は安来節で当りを取ってた、マジか?さらには、浅草の各小屋の配置やら来歴、出し物なんかまで見えて来る。
散りばめられた思い出話、あっちに惹かれこっちに引きづられして行くうちに、大阪の漫才文化にも引き込まれた。エンタツ・アチャコ、おお!かすかに記憶に残ってるぞ。ちょび髭、先生然としたエンタツと大阪のおっちゃん丸出しのアチャコ「無茶苦茶でごじゃりまするがなぁ」流行ったなぁ、おっと、知らんよなぁ。昔昔その昔だ。が、この二人の漫才が今の第何次かの漫才ブームの出発点なんだ。それまでのハリセンやど突きの下品で粗暴、下ネタ満載の万才から、知的で健康的なしゃべくり漫才へと一気に方向転換させた。そのきっかけを作り、その後の漫才界を支え続けたのが秋田實。なんてことを教えてくれる貴重な本にも出くわした。
まさか、富岡多惠子が秋田實の評伝書いてたなんて知らなかった。戦前大変な時期に、プロレタリア文学運動にも関わり、組合のオルグなんかもしながらコント・コミカル笑話の執筆を手掛け、左翼運動の壊滅とともに、漫才作家に移行して行った、なんて、ちっとも知らなかった。エンタツとの運命的出会いから漫才界の支え手になり、若手漫才コンビを多数世に出した、なんてことも知らなかった。うんうん、これは力作だ。たまたま、他の本の参考欄から寄り道したら、こんな素晴らしい本に出合えた。漫才なんて、浅草コントに関係ない、なんて決めつけず、道草して良かった。
資料本だから、使える部分がありゃいいさ、なんて、歩き回ってると時にこんな原石が石ころの間に転がってるのを発見する。これが、また、新しい世界を垣間見せてくれる。こうやって次から次と、面白そうな本に引きづり込まれて行って、気が付けば、原稿締め切り直前だぁぁぁぁっ!って、いつものことなんだぜ。