置賜農業高校演劇部では、スタッフ、キャストを固定しない。
だって、どっちも面白いし、大切なんだもの。面白いものは、みんなにやってほしい。大切なことはみんなが経験してほしい。だから、スタッフ専門、キャストオンリーって人間は作らない。分業は効率いいかも知れないけど、演劇は効率じゃないものね。まして、高校演劇はね。部員一人一人が育つのが目的だから。
どんなに下手でも、舞台に立たせる。どんなに苦手でもダンスを踊らせる。これが置農演劇部だ。そんな、いやなこと無理にさせなくたって、というのは、人間理解が浅い人だ。人間、どんなに恥ずかしがり屋でも、人前でいい格好はしてみたいもんだし、どんなリズム音痴でも、踊ることは快感なんだ。少なくとも、演劇部に来るような人はね。
だから、機会があれば、人前に出す。機会が無ければ、作ってでも出す。例えば、今なら、3月27日、新入生オリエンテーションの日に玄関前で踊った。4月1日は米坂線盛りあげイベントで、小松駅前と駅プラットホームで踊る。翌2日は新任の先生方の着任の日。この日も演劇部が歓迎イベントを買って出た。で、踊り歌う。入学式も校歌斉唱に手を挙げた。式終了後、出てくる新入生を前にして玄関前で踊る。上手な生徒だけ、なんて、しみったれたことは言わない。上手かろうと、下手だろうと、全員で歌い踊る。これがいい。これが大切なんだ。
とは言うものの、人間にはやはり得意不得意がある。厳然としてある!どう見ても、スタッフ向きって奴は、たしかに、いる。舞台で映える奴がいるのと同じで、物作りでキラリと光る奴がいる。機械いじりが無性に好きな奴がいる。人を動かすことが何より好きな奴、絵が得意な奴、大工仕事の達人、・・・世の中いろいろ、十人十色だ。で、その才能はやっぱり伸ばしてやらなくちゃね。いろんな才能が出会い、互いに補い合って、舞台空間はいよいよ輝いてくるわけだから。そして、自分の力が出せれば、こりゃもう、満足いっぱい、充実の春ってものだろう。(なんで春なんだ?)
ということで、今回のテーマは、演劇に不要な人はいない、だ。
⑥演劇に不要な人はいない
演劇に不要な人は誰一人としていない。これは、井上ひさしさんの言葉だ。一本の芝居が上演されるには、役者、演出、舞台監督、音響、照明、衣装、装置製作、大道具、小道具、メイク、制作といった仕事がある。どれ一つ欠けても完成しない。演劇というと、とかく人前に出たがる人、出たい人のものとの思いこみがあるが、そんなことはない。華やかな舞台の裏で、光を当てたり、音楽を流したり、装置を転換したりしている何人もの人間がいる。さらに、その舞台装置や道具類を作り上げたスタッフもいる。
演劇部の部員達を見ていると、このことがつぶさに実感できる。舞台に立つのが何より好きな者がいる、ダンスというと目の色が変わる者がいる、道具作りとなるといつまででもこつこつと続けている者がいる、ジャージを絵の具だらけにしてパネルの塗装をする者、みんなを動かすのが得意な者、照明の専門技術に長ける者、実に様々な才能が集まってくる。そんな十人十色の能力が出会い、補い合って一つの舞台が作られていく。
そして、大切なことは、そんな多くの仲間達の協同作業を通して、お互いがその力を認め合い、お互いが尊敬し合う関係が築かれることなのだ。一人一人の個性が尊重され、その個性の故に大切にされる、人間関係のもっともあるべき姿がここにある。