米沢の文化ホールに、高校演劇県大会について泣きついた。なんとか料金安くしてもらわんねべか。演劇は、ともかく金がかかる。12校参加の県大会だと、フルに4日間会場を借り、しかも、照明、音響、舞台設備ありとあらゆるものを使いまくった上に、さらに、舞台スタッフも最低5人は必要だ。これで楽に50万は超える。高校生の出せる金じゃないんだ。しかも、演劇部は年々部員が激減。部の消滅も富士山どころか、チョモランマから真っ逆さまの有様。県大会事務局としては、なんとか、金づるを引っ張り出したい一心で粘ってみたのだ。
答えは、いやぁ、冷たかった!「どこも経済的に苦しいのは同じですよ。」まあな、そりやそうだわな。ちょっと納得しかかったが、次のひと言でちょい切れしてしまった。「吹奏楽だって同じです。」おいおい、ちょっと待て、そりゃ違うぞ。貧乏人と金持ちを一緒にするな!だって、知ってんだからな。吹奏楽の大会は、地区でさえ連日満員の盛況だってこと。それも、入場料取ってだぜ。さらに細かいこと言えば、照明器具だってほとんど使っちゃいないから、大会そのものに関して言えば、まず間違いなく黒字だね。演劇みたいに、一人500円出して、さらにチケット10枚もかぶって、てことは、高校生一人3500円の自己負担で、どうにかこうにか大会できるのとは訳が違う。
と、まあ、惨めったらしく書いてきたが、なんも、吹奏楽に恨み、妬みがあるわけじゃない。まあ、もうちょっと、演劇業界に愛の手をって言ってみたかっただけだ。そう言えば、石田衣良のうらぶれ劇団を描いた小説『下北沢サンデーズ』の帯にもこうあった。「夢を追い続ける自信はありますか?ずっとビンボーでいる覚悟はありますか?」。演劇=ビンボー!もう、これは定理を超えて公理になっているんだ、どうだ、まいったか!
吹奏楽と演劇との東京タワー的落差(リリーフランキーのお陰でこんな表現も何十年ぶりで有りになった。)は、当然、その人口の差にあるわけだ。そこで思い浮かぶのが、川西町で今年3回目となる、東北学生音楽祭のことなんだ。なあんて、書いてるけど、実は最初からこれが書きたかったの。東北学生音楽祭って言ったからって、東北選りすぐりの学生バンドが集まってくるってわけじゃない。学生のバンドは遠くて県内大蔵中学の吹奏楽部(これがいっつも泣かせるのよね。十数名のセーラー服がスィングスィングスィングなんてやっちゃってね。)ほとんどが地区内の高校、中学。そして、目玉は山形市のアマチュアジャズバンド:スノーモンスタージャズオーケストラ(これがまた、実にいい。若い衆からお年寄り、あっ、ごめん!まで一つになってジャズを楽しんでいる。)なんだから、こんな誇大広告の音楽祭って他には絶対あり得ない。
種明かしは、数年前の映画『スゥィングガールズ』だ。あの映画の舞台が置賜、そして、最後のクライマックス東北学生音楽祭の会場になっていたのが、川西町フレンドリープラザだったってわけ。そんなわけで、その後毎年、映画『スィングガールズ』にちなんだ出演者を用意しながら、イベント東北学生音楽祭が開催されているってことなんだ。
で、私が、吹奏楽または、音楽が凄いと思うのは、ここなんだな。はっきり言って、この企画はかなりきわどいと思うんだ。NHK大河ドラマにあやかっておらが地域を売り込むみたいなクサイ部分が大いにある。だから、最初、この企画の話しを聞いたとき、まあ、一回限り、よくて2回だねって正直思った。だって、他人のふんどしでいつまでも相撲とってるわけにいかんじゃない。
ところがだ、今年、とうとう第3回目に突入するというんだから、驚きだ。看板に偽りありで、プロが出るってわけでもなくて、バンド自体も実力抜群ってわけでもないのに、この盛り上がりはいったいなんだろう。吹奏楽人口の厚さは当然ある。でも、それ以上の何かだね。
思うに、それはジャムセッションの魅力じゃないだろうか。リズムが刻み始める。次々と楽器を手にしてその中に入っていく。一つ、一つ、と音を重ね、フレーズをやりとりしながら、いつの間にか心弾む音楽の渦巻きができあがる。そのうねりにはまり、揺れ、漂い、いつしか心地よさに我を忘れていく。ジャムセッションの陶酔。東北学生音楽祭そのものが、ジャムセッションなんだ。このエネルギーがこのイベントを支えてきたのだと思う。陶酔は、フィナーレ参加者全員のムーンライトセレナーデで極に達する。
そんな参加者たちの輝く表情を舞台袖で、スタッフとして見ながら、いつも感じてきたんだ。「チクショー!音楽っていいよなあー!!」
やっぱ演劇はビンボーだあー!!!
東北学生音楽祭の公式サイトhttp://www.nagaiwalker.com/~sg-ongakusai/p/