これだけは雪でも雨でも出かけて見る。絶対見る。そう決めていた。事前にYouTubeで公開された「『モスラ』4K復活プロジェクト ~デジタルリマスター作業完全密着~」も予習済みである。
「モスラ」...僕は本作を劇場で見ていない。本作公開は1961年(昭和36年)7月30日である。見た記憶のあるシーンは、おそらくTVによると思うが、確信はない。モスラは別作品にも多数客演した。それを見て、本作を見たつもりになっているかもしれない。いずれにしても、SF怪獣特撮ファンならば、ゴジラ第1作同様、万難を排して見るべき作品である。
...と思う。
孤島から連れてこられるのはキングコングへのhomageかな
でも、こちらは人(妖精,小美人)さらい。悪徳ブローカ-・ネルソンのふるまいは、たちが悪い。
キングコングは髑髏島から見知らぬ場所(ニューヨーク)に連れてこられた。コングはエンパイアステートビルによじ登った。モスラは小美人を追いかけて日本に来た。東京の破壊は小美人やモスラに責任はそもそもない。1958年(昭和33年)12月23日開業の東京タワーが倒壊した。仕方がない。見る前は色々考えていた。
ストーリーはWikipedia日本語版「モスラ」の記事を参照されたい。僕は作品全体の感想をいくつか。
60年前の特撮怪獣映画
2021年のSFファン・英語教師の目で見ると、社会の変化・進化がわかる。
現在ではたぶんNGの台詞がある。モスラを神聖視するインファント島の人々を「原住民」としたり、彼らを含む南洋諸島の人々の言葉を「土語(土人の言語)」とするのは、現在ではありえないだろう。
インファント島の人々も、薄茶色のドーランで肌の色を変えているのが分かる。踊りの様子も、何か未開部族視していると揶揄されそうだ。当時はそれは問題視されなかった。現在ならば、こうはしない。理解がそれなりに進み、過去をしっかり見れたからだと思う。だから本作がダメと言うことではない。
よくもこんなに人がいたものだ
悪徳ブローカーにさらわれて、小美人は東京で見世物になる。大きなホールへの入場者の列、ホールの座席は満員御礼状態。まさに、黒山の人だかりである。見ていてどこにこんなにエキストラさんがいたのだと思えた。CGでもマットペインティングでもない。隅から隅まで動いている生身の人間がでている。
モスラは瞬間場所移動をする
小美人を追いかけてモスラ(幼虫)が太平洋を東京湾に向かい泳いでくる。途中防衛隊の攻撃を受ける。モスラは姿を消して、退治されたと見なされる。
その後、モスラは内陸の「第三ダム」に突然現れ、ダムを破壊する。太平洋から東京湾に向けて北上していたのに、陸地のダム湖に突然現れることについて、説明はない。ここはさすがにプロットに無理があるように思えた。
たくさんの手間
モスラはダムを破壊し、横田基地へ向かう。防衛隊の攻撃も、平気なモスラ。同基地から都心に向けて進む。色々攻撃されても、ものともしない。そしてあの有名な東京タワー破壊、繭作り、羽化のシーンにつながる。印象的なのは、街、防衛隊の装備、普通の自動車等の車両が基本動くミニチュアであること。ミニチュアなのが悪いわけではない。あまりの数の多さ、それを準備したであろう人々の労力に圧倒された。クライマックスで、ネルソン一味がが小美人をロシリカ国のニューカーク市に連れ去り、そのため同市がモスラに襲われ、破壊されるシーンでも同じである。
60年前だなあ
時代にもよるだろうが、ロリシカ国人のブローカー・ネルソンは非常にイヤなやつである。小美人を「資料」と言い繕うところなど、ジェリー藤尾さん。悪役に徹していた。
ロリシカ国はアメリカが、ニューカーク市(New Kirk)はニューヨークとサンフランシスコがモデルとのこと。まあ、ロリシカ国のフラッグキャリア航空会社が Pan American だから、言わずもがなだけど。
60年後の現在では
あんなに生身の人間は出演しないよな。
ミニチュアの街並みは ”CGで作る” だろうなあ。
防衛隊のメカもCGかな。モスラの幼虫は ”着ぐるみ” はない。成虫はフルCGだろう。
色々なことを考えさせてくれる作品。間違えてはいけない。僕は本作がダメだなんて考えていない。正反対である。本作があったから、後の時代の進化、進歩である。The ORIGINの価値は普遍的だろう。本作もThe Classic Masterpieceと呼べる一本だ。
僕は誰だろう
無人島だと考えられて核実験場にされたインファント島。でも、そこには先住民がいた。小美人のような妖精と、モスラを神聖視する小さいが独自の文化集団が存在した。小美人を誘拐したことから起こる破壊。避けることができたあらそいが描かれているとも見れる。異文化、少数者への態度を考えると、自分はネルソンにはならないと言いきれるか。小美人を見物に出かける人にはならないと言いきれるか。そんなことを劇場からの帰路考えた。
1,100円は安い。午前10時の映画祭に大感謝。(文中一部敬称略)