先日惜しくも亡くなったマイケル・クライトンの最も有名な作品はスピルバーグが映画化した「ジュラシックパーク」。
バイオの力で現代に恐竜が甦ったテーマパークは弱肉強食のスリリングな世界だった。
スピルバーグ独特の演出と当時最先端のCGを駆使した映像が私たち観客を虜にした。
このクライトンのテーマパークを題材に取った作品で「ウエストワールド」がある。
私はどちらかというとジュラシックパークよりもこちらの方が好みで、観賞した当時は子供であったことも手伝って心理的恐怖心もより強かったように記憶する。
とりわけユル・ブリンナー演じる狂ったロボットはリアルだけに恐ろしかった。
桂望実の新刊「平等ゲーム」を読み始めて一番最初に思い出したのが、前述の2本の映画だった。
平等を旨とする瀬戸内海に浮かぶ特殊な島。
そこから勧誘係として一般世界に派遣された主人公が様々な体験を繰り広げて行く。
私はきっとクライトンの物語のように、島が狂気に発展してくのかも知れないと想像し、ワクワクしながら読み進んだ。
この桂望実という人の作品は「県庁の星」がそうであったように、一度読み始めるとグイグイと物語に引き込まれる引力を持っている。
今回もこの「平等」という、一種特殊な世界が読者の心を魅了するのだが、物語の展開は私が予想したクライトンとはまったく違う世界に突入して行ったのだった。
その魅力とは。
登場する人びとがとても魅力的だということだった。
その性格描写から一人一人のこれまでの生き様のイメージがふわーと広がる楽しさと緊張感が全編を通じて実に楽しく展開されているのだった。
主人公の家族、
友人、
ワーキングプアの中年男、
船乗り、
大学教授、
華道の先生、
などなど。
この平等島はゆとり教育という希代の誤りを犯した1980年代後半から現在に至るまでの日本の社会を写し出していることは容易に想像できる。
それだけに、後半に描かれているこの島の矛盾はかなり痛烈な皮肉がこもっているように感じられる。
ともかく、今回もまたあっという間に読み切った、相変わらずのノンストップエンタメ小説であった。
~「平等ゲーム」桂望実著 幻冬舎刊~
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