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桂望実「WE LOVE ジジイ」を書店で見つけて、

「これを来年最初の一冊にしよう」

と、読書はじめに選んだのは昨年の末。
地下鉄淀屋橋駅のBook 1stで立ち読みをしようと立ち寄った時であった。

なぜ、桂望実を選んだのか。
それは当たり外れが少なく、たいていは読んでいて元気になる小説が少なくないからで、年初に読む小説にはふさわしいと思ったからだった。

ちなみ昨年の年初は司馬遼太郎の「世に棲む日々」を読んでいた。
年初は詰まらない本を読んでその年の読書にケチがついてはいけないので安全な一冊を選んでしまう傾向がある。
とりわけ昨年などは何度も呼んだことのある「世に棲む日日」なんぞを読んでいたから、結局は読書初めというよりは、吉田松陰、高杉晋作両名の生き様を再度確認し、いささかスランプ状態の自分に発破をかける意図があったにちがいない。

その点今年は桂望実なので歴史小説ではない。
過去の人に学ぶ、などという堅苦しい内容でもないし、どちらかというとエンタテイメント小説だ。

「WE LOVE ジジイ」(文春文庫)は映画にもなった同じ著者の「県庁の星」にも通じるものがあって、今風でなかなか面白かったのだった。
一人のCMデレクター崩れが東京を捨てて人との関わり合いが少ないはずの田舎にIターンしたにも関わらず、多くの人と関わり街を元気にしていくというストーリーだ。

見ず知らずの田舎に越した主人公が経験する人間関係。
実はこの人間関係こそが東京に無く、田舎に存在する「人間らしさ」であると、本書は訴えているのだろうか、と読んでいる途中から痛感したのだ。
私は大阪生まれの大阪育ちなので、どちらかというと東京と似たような社会環境が無いわけではない。

隣近所の存在は気にしない(というは大阪には当てはまらないかも)。
仕事をするための街(というのも大阪には当てはまらないかも)。
流行の最先端を往く街(というのはある意味、大阪にも当てはまっているが「かなりニッチな」流行の最先端かもしれないと思う)。

人との関わり合いは仕事関係が多く、個人的な生活にまで侵食してくるのは嫌がるものなのだ。

ともかく、都会よりも田舎の方が隣人との垣根が低く、コミュニケーションを要する世界であることは間違いない。
そういう垣根の低さが、人間として心身ともに健康を保つためには必要な要素なのであはないか、とこの物語は考えさせるのだ。

鍵をしない自宅。
勝手に上がり込んで来る隣人。
ブツブツ交換。

父の故郷、岡山県の片田舎を見るようであった。

しかし、この小説。
あまりにも定形にハマっているようで、意表をついた面白さを感じるには、かなり物足りなさが残るものだった。
ラストの主人公のプライベートな部分も意外性が少なく、始まったときから「お決まりとして」存在したシーンのように思えて、面白かったが、水戸黄門を見るような、パターン化された面白さであったような感じがしてならない。

桂望実の小説の中では私は「Lady、Go!」が一番好きなのだが、その理由は意外さをアチラコチラに感じることができるからだ。
とはいえ、「WE LIVE ジジイ」。
なかなか面白い、一気読みができる一冊なのであった。

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