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大阪府立中之島図書館。
数年前、その使い方について大阪府議会で侃々諤々の論議をなされたのはまだ記憶に新しい。
一部マスコミは「図書館解体」などと悪意をもった偽りの情報を流して府民の不安を煽った。
他にすることはないのか、こいつらという感じだが、要は中之島という大阪の一等地にある公共施設にしては使い方が十分ではないのではないか、という問題提起なのであった。
その結果、図書館はつい最近、ビジネス支援と地元大阪関連の資料を集めた専門図書館に生まれ変わった。
ある意味、一つの正しい方向へ向い始めたと言えるだろう。

もともと大阪府立図書館のメインは東大阪にある府立中央図書館だ。
電車で行くには非常に不便な場所にある図書館だが公共図書館としては国内最大。
ここよりも蔵書数の多い図書館は国立国会図書館しかない。
そんなことは知らない、というのが一般的な大阪府民の滑稽なところだ。
これが日本で一番メニューの多いレストランだったら食い意地のはった性格も手伝って大いに注目されるところだが、本は食い倒れの対象ではないので、知ることもない。
で、その蔵書数からすると中之島図書館は今となっては規模が十分ではなことは言うまでもない。
利用者にとっての利便性は抜群なのだが、中央図書館の単なる出先として使用するにはあまりにもったいなく、かつこの建物が刻んできた歴史に対しても失礼というものであった。

大阪府立中之島図書館は現役の西洋建築では最古参に入る建物だ。
明治生まれの御年112歳。
国指定重要文化財。
地盤の悪い大阪でいくつもの大型台風や、阪神淡路大震災でもびくともしなかった頑強さを持っている凄い建物でもある。
隣にあった旧大阪市市庁舎はこの図書館よりも数年後に建てられたにも関わらず先に寿命を全う。
新しい建物に建て替えられてすでに30年が経過している。

この図書館の設計を担当したのが野口孫市という建築家で今、図書館3階の展示室で「中之島図書館と野口孫市の建築術」という展示会が開かれている。
先日、仕事の資料を探しに訪れたところ展示会が開催だれていることに気づいた。
こういう展示会は見逃すことはないので仕事はともかく迷うことなく見学してきたのだ。

野口孫市は東京駅を設計したことで知られる辰野金吾の次の世代になる建築家で、実際に大学では辰野金吾に師事していた。
謂わば辰野金吾の弟子の一人である。
早くからその才能を発揮して住友家に見出され、数々の大阪の建築物の設計を担当。
中之島図書館だけでなく、今もいくつかの作品が現役として残っている。

設計デザインも斬新だ。
今見ても十分に通用するそのダイナミックで緻密な設計には、現代の建築には乏しくなってしまった優雅さがあり、私たちを強く魅了するのだ。
展覧会では会場になっている中之島図書館と住友家須磨別邸が取り上げられていた。
中之島図書館は図書館利用者には親しみのある建物で、灯台もと暗し的感覚があり、いかにこと建物がすごいのかということに気づかずに利用している。
今回改めて解説などを読みながら実物の中に居ると、その建物の素晴らしさを肌で感じるのであった。

もう一つスポットライトを当てられていた「住友家須磨別邸」は詳細な当時の図面の複写が展示されていた。
間取りを見ていると楽しくなってくる、まるでハリウッドの映画に登場しそうな豪邸なのであった。
玄関を入ると右手にホールがあり、奥が大きな客間になっている。
客間には大きな出窓があって庭に面していて、
「きっと須磨の美しい海岸を眺めることができたんだろうな」
と明治大正の上流階級の生活を創造した。
2階には家族のためと思われる寝室がいくつがある。
まるでサウンド・オブ・ミュージックのトラップ家の屋敷みたいだ。
ちなみにトランプ家ではないので念のため。
残念ながらこの屋敷は第二次世界大戦の戦火で全焼してしまったということだが、今も門柱その他燃えない部分がきちんと残っているのだという。
さすが世界の住友さんである。

展覧会をちまちまと見ていたら一つ大きく勉強になることがあった。
この野口孫市の所属した建築事務所は住友営繕という住友家の設計部隊だったそうだが、これが後に日建設計になったという。
今、東京の築地市場の建設問題でスポットライトを浴びている建築設計最大手の日建設計は大阪発祥の設計事務所なのであった。
まったく不勉強でこの展覧会を見なければずっと知らずに過ごしてきたところだ。

ということで、時間があればインバウンドで賑わう大阪も、違った側面が楽しめるのではないかという大阪府立中之島図書館なのであった。


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